わたしの愛しいねえ様。


 ねえ様のお兄様が病弱な方で、ねえ様は留学というていで、六歳の頃に親戚であるわたし達の家に預けられていたのだそうだ。


 親戚の中で同い年くらいの子供(兄様)がいて、評判の悪くない、人柄の良い家族としてうちが選ばれたのだとか。ナイス判断だったと、ねえ様のおばあ様(父方のお祖父様のお姉様)が言っていたそうだ。


 そして、ねえ様が十歳くらいの頃、お兄様の体調がよくなったので、お家に戻された。


 ねえ様はそのままわたしの家にいたかったのだそうだけど、ご両親が学校は向こうの方で入学手続きをしていた為、仕方なく嫌々ながらに帰ったのだという。


 ねえ様のご両親は病弱なお兄様のことで手一杯だったらしく、ねえ様が構われることはあまりなく、寂しい幼年期を過ごしたのだそうだ。


 我が家へ来て、同い年の兄様がいて、お父様とお母様が兄様同様、分け隔てなく扱って(叱るときも本気です)くれて、更には二歳にならないくらいのわたしが、ねえ様にめっちゃ懐いてくれたことが、とても嬉しかったのだという。それで溺愛されました♪


 ねえ様がいなくなって、毎日毎日べそべそ泣いているわたしを見かねたお父様は、「そんなにネイサンが好きなら、ネイサンを婿に取るか? そうすればずっと一緒にいられる。ネイサンに聞いてみるが、駄目なら諦めなさい」と言って、わたしはそれに泣きながら頷いたそうだ。全く覚えていないけど、ありがとうございますお父様。


 そして、お父様の打診を喜んで了承したねえ様は、毎年わたしにプレゼントを贈っていたのだという。わたしの喜ぶ顔を想像して、楽しみに選んでくれていたのだとか・・・

 なんか、相手をねえ様だとわからなくて、プレゼントを毎年適当に(一応は心を込めていたけど)選んでいたことが大変申し訳なく思う。

 今年からは真剣に、真心を籠めて選びますが。


 うちの家族は、わたしがネイサン様のことを男の子・・・だとわかっていると思っていて、わたしはネイサン様をずっと自分のお姉様・・・だと勘違いしていて、しかもねえ様が亡くなっているものだと思い込んで(兄様のせいで!)いて、そのまま交流はずっと続いていた。


 わたしだけが気付かないで・・・


 なんだか、わたしがとてもアホの子のように聞こえる話だが、十年前の五歳の子だったわたしに、周囲の状況がわかるワケはないと思う。


 ねえ様がいなくなったことになにも説明されなかったし! めそめそしていたわたしに、誰も説明してくれなかったから!


 ねえ様は許してくれたことだし・・・わたしは、なにも悪くないと思う!!


 だから、あんまり爆笑しないでほしい! 家族達め! 特に兄様! わたしの勘違いの原因の大元は兄様のクセに!


 そして、ねえ様のお兄様が向こうの家を継いでも問題無い程にそこそこ健康になったので、ねえ様は我が家へ婿入りする為に、こっちに来たのだそうだ。


 ねえ様は、我が伯爵家の持つ子爵位と領地の一部を継いでの婿入り。ちなみに、伯爵位は兄様が継ぐ予定となっている。


 小さな頃のねえ様は、自分をちょっとだけ要らない子だと思っていて、そんなとき一心に自分を慕ってくれるわたしの存在に、とても救われたのだとか。


 それで、わたしを大層可愛がって……愛してくれたのだそうで――――わたしへの婿入りも……「スピカがわたしを求めてくれるのなら」と、直ぐ頷いたのだとか。


 そんなねえ様は、あまりご家族の話をしない。


 ご家族のことを嫌っているワケではないらしいけど、溝があるのだそうだ。

 ねえ様曰く、「両親向こう溝があるなんてそんなこと、全く思ってなさそうだけどね」と苦笑していた。


 そして、


「愛してるよ、スピカ」


 愛情を確認するように、


「大好きだよ、スピカ」


 キスを落としながら囁いて、何度も何度も抱き締めてくれるねえ様。


 向こうの家にいる間はきっと、ねえ様はずっと寂しかったのかもしれない。


 だからわたしも、


「わたしも大好きですよ」


 と抱き締めてキスを返す。


「わたしの愛しいねえ様」

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