あぁ、会いたかったよ。スピカ。
とうとうやって来ました。
婚約者様との初顔合わせの日。
まぁ、つまりはわたしの十五歳の誕生日だ。
身内を招待したわたしの誕生日パーティー兼、内々の婚約お披露目となる日。
わたしはドレスを着せられ、髪を結い上げられて、薄化粧をされて、飾り立てられましたよ。
・・・頑張ったわたし! 侍女達もありがとう!
ちょっとコルセットがキツいけど、我ながらなかなかの可愛らしさだと思う。
うん。顔立ち的には並みな顔だけど、今日のわたしはいつも以上に可愛い♪
侍女達も、わたしによく似合っていると言ってくれたライムグリーンのサテン布地のドレスと、胸元に揺れるペリドットのペンダントは、婚約者様からの贈り物だそうだ。
大人っぽいデザインというよりは可愛らしいという雰囲気で……「健康的で可愛らしいですわ。ええ、とても健康的で」と侍女達に誉められた。誉め方になんか若干引っ掛からないでもないけど、今日のわたしは可愛らしいのだ。
だから、大丈夫。
初めて会う婚約者様に緊張でガチガチになんかなっていないし、「普通だな。がっかりしたよ」とか言われないか、心配もしていない。
なんてったって、今日のわたしは可愛いから!
そう、自分を鼓舞していたというのにっ!
やって来た婚約者様は――――
わたしよりも断然麗しい殿方だったのですっ!?
緩く結って左肩に流した長い金茶の髪。長い睫毛に彩られたペリドットの瞳。スッと通った鼻筋。あまり高くはない身長の、貴公子然とした
あれだ。精一杯めかし込んだというのに、婚約者様の前だと、わたし思いっきり
頑張っておめかししたのに、きっと婚約者様にがっかりされちゃうんだ。自分よりも劣る顔だと、冷たい表情で溜め息とか吐かれるんだろうなぁ。
ああ悲しい……泣くと、「顔は普通なんだから、せめて笑っとけ。泣いてると辛気臭いって嫌われるぞ。ブスにもなるし」って、兄様に言われるから泣かないけど。
だからスピカ。俯くな。
顔を上げて笑え。
シャキッとしろ。
笑顔は女の鎧だと、ミリア様も言っていた。
そして、麗しい婚約者様は家に入って来てわたしと目が合うなり、にっこりと満面の笑みで両手を広げて近寄って来ました。
あれ? なんか、想像してたのとリアクション違くない? 広げている両腕はなんのため? と疑問に思いつつ、その目映い笑顔にわたしが怯んでいると、
「あぁ、会いたかったよ。スピカ」
「へ?」
柔らかくて温かい感触が額に落とされ、ちゅっという可愛らしい音がした。
「なっ、いきなりなにをっ!?」
「? どうしたの? スピカ?」
驚くわたしに、きょとんと首を傾げる婚約者様。
いやいやいや、初対面の殿方にいきなり熱烈に抱擁され、額とは言えキスをされたら、そりゃあ驚いてもしょうがないと思うっ!?
あと、婚約者様美形だし!
「は、放してください!」
「……スピカ?」
しゅんと、悲しげに曇るご尊顔。
「どうしたの?」
どうした! は、わたしのセリフだと思うのですがっ!? あと、頬に手を添えて上向かさないでっ!? 麗しいお顔が近いからっ!?
「? スピカ? 顔が赤い……もしかして具合悪い? 無理してるの? 休む?」
心配そうな顔に慌てて首を振ると、
「そっか。よかった」
ホッとしたような笑顔。その笑顔がまたっ……なんとも麗しいっ!!
「あ、ごめんね。スピカに会えたのが嬉しくて忘れてた。とてもよく似合っているよ。わたしの贈ったドレスとペンダント、身に付けてくれて嬉しいよ。ありがとう、スピカ」
ふわりと、幸せそうな笑顔が……
「っ!?」
眩しくて目に刺さる!!
「ふふっ、赤くなった。照れてるのかな? スピカは本当に可愛いね」
ヤバい、顔が赤くなっていそうだ。な、なんて婚約者様だっ! 攻撃力が高い! あと、美人に可愛いって言われたっ!?
「ったく、玄関先でいちゃつくな。バカップル共め。さっさと中入れよな」
呆れたような低い声。
「に、兄様っ!?」
バカップルとはどういう意味っ!? 確かに婚約者ではあるけれど、初対面の相手といちゃつく程、わたしはアレな子ではない。
「ふっ、スピカをわたしに取られたからって嫉妬かな? ロイ」
兄様へ微笑む婚約者様。
「は? 誰が嫉妬なんかするかよ。どんくさいコイツのエスコートとか面倒だし。これからは全部お前が代わってくれるかと思うと、清々する」
「全く、相変わらずだね。ロイも」
? 相変わらず、って? 婚約者様は兄様と交流がある方だったの?
「兄様の、お知り合いですか?」
「「は?」」
婚約者様を示したわたしの問い掛けに、兄様と婚約者様がぽかんとした顔で固まった。
「・・・おい、スピカ? それは本気で言っているのか? 冗談じゃなく?」
真剣な顔で訊く兄様。
「ええと? はい?」
「スピカ? わたしのこと、覚えてないの?」
悲壮感漂う表情の婚約者様。そんなお顔でも麗しいとは、美形は凄い。
「え~と、あの……」
なんだか悪いことをしているような気がして来るが、知らないものは知らない。
「すみません……」
「いや、いいんだ。スピカはまだ小さかったからね。十年近くも会っていなかったんだから、忘れられていてもおかしくないよ。ごめんね、スピカ。わたしばっかり嬉しくて……いきなり知らない男に馴れ馴れしくされたスピカは、さぞや戸惑っただろうね」
気遣うようにそっと頬が撫でられ、温かい手が離れて行く。背中に回っていた手も放され、婚約者様がわたしから一歩引いて、距離ができた。
「困らせて、ごめんね?」
悲しげな表情に、なぜかきゅっと胸が痛くなる。
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