愛しいねえ様がいなくなったと思ったら、勝手に婚約者が決められてたんですけどっ!?
月白ヤトヒコ
だいすきです、ねえさま!
わたしの家には昔、とてもわたしのことを可愛がってくれたねえ様がいた。
サラサラの金茶の長い髪に、光の加減で薄茶から若葉色へと色味の変わるヘーゼルの瞳。にこりと優しく微笑んでくれた綺麗なお顔。
ねえ様は女の子にしては少しお転婆だったようで、いつも男の子のような格好をして、長い髪をリボンで
よくお弁当を持って、わたしを遠乗りに連れて行ってくれた。お花畑や湖、森など……でも、わたしはねえ様と一緒なら、どこにも行かなくて家の周りを一周するだけでも楽しかった。
「スピカは可愛いね」
よくそう言って、わたしの頭を撫でてくれて、抱っこして膝の上に座らせてくれた。
「可愛い可愛い」
にこにことわたしを優しく見下ろすヘーゼルの瞳は、日の光に透けると若葉の色にキラキラと輝いて見えて、お母様の持っている宝石なんかよりもずっとずっと綺麗だと思った。
「だいすきです、ねえさま!」
ぎゅ~っとその首に抱き付くと、クスクスと笑いながら抱き返してくれた。
「ありがとう、わたしもスピカが大好きだよ」
そして、ちゅっと額や頬に落ちる柔らかな唇。
綺麗なお顔が微笑む度、「可愛いね」と「大好きだよ」と言われて、抱っこされたり、頭を撫でられたり、柔らかい唇が落ちて来る度、わたしはどんどんねえ様を好きになって行った。
今思えば、わたしは少しねえ様にくっ付き過ぎだったかもしれないけど……ひよこみたいにずっと後ろに付いて回っても、にい様と違って全然邪険になんかせず、いつでも優しくしてくれた。
愛しい愛しいわたしのねえ様。
けれど、そんな日々は長く続かなかった。
ある日突然、ねえ様はいなくなってしまった。
家族にねえ様のことを聞くと、
「アイツは遠くへ行ってしまったんだ」
寂しそうに、にい様が言った。
そして――――
その日は、朝から教会の鐘が鳴り響いていた。
ゴーン、ゴーンと弔いを告げる鐘の音。
そして、わたし達一家は黒い喪服に着替えた。
後のことは、あまりよく覚えていない。
ねえ様に会いたいと、毎日しくしく泣いていた。
そして、少し大きくなってから気付いた。
ねえ様はこの、「遠くへ行った」という日に、亡くなってしまったのかもしれない……と。
・*:.。 。.:*・゜✽.。.:*・゜ ✽.。.:*・
あれからわたしも大きくなって――――
どうやらわたしには、婚約者がいるらしい。
よく覚えていないが、ねえ様がいなくなってめそめそと毎日泣いているときに、お父様に決められてしまったようだ。
婚約はわたしが了承したから決めたというのだが、そんな覚えは全くない。泣いている
その上、
結婚をしたら、わたしはあちらの国に行くのかしら? あちらでずっと暮らして行くの? そういう話はまだ聞いていないけど……ちょっとだけ不安かもしれない。
まぁ、これでもわたしは一応貴族子女の端くれ。結婚まで一度も顔を合わさないということも……今では割と少数派だと思うけど、とても珍しいという程のことじゃない。ちゃんとそう、理解している。
そして、婚約者という義理でなのだろう。年に数度は、彼からわたし宛にプレゼントが届く。よくわからないが、手紙のやり取りは向こうの都合上難しいらしい。プレゼントにメッセージカードが入っていたりする程度。
それらは、可愛らしいぬいぐるみだったり、隣国で流行っているという高価なお菓子、絹織りのリボン、ポプリや花の香りの石鹸、髪飾りなどなど……色々と贈られて来る。一度も顔を合わせたことの無い婚約者……それも、五つも年下の子に、毎度毎度律儀なことだと思う。
ちなみにわたしも、婚約者へと律儀にプレゼントを返している。顔も知らないというのに、わざわざ兄様に殿方の好みを聞いてリサーチして。偉い、わたし。
それらは確かに可愛らしいんだけど……こう、なんというか、色合いやチョイスなどが若干子供っぽいように思えてしまう。
まぁ、小さな頃から婚約していて、数年前まではしっかりと子供だったけど。
さすがに、わたしだってもう十四歳だ。
誕生日に大きなテディベアくらいじゃあ……その、あんまり喜ばない。花柄とチェック布地が互い違いのアンシンメトリーで、それがとっても可愛くて、手が込んでいるとは思うし、抱き心地がいいからとても気に入っていて、寝るときには毎日抱っこしているけど・・・わたしは別に、ものすご~~く嬉しいワケじゃない。
お友達のミリア様が、相思相愛だという婚約者の方から大人っぽいデザインのネックレスを貰ったと自慢されたことなんか、別に全然、これっぽっちも羨ましくなんかない。
まぁ……「誕生日にぬいぐるみですか? 可愛らしいですね」とミリア様にクスクスと笑われたことに対して、少々思うことがないワケでもないけれど。
それはミリア様に対して思ったことであって、顔も知らない婚約者に対してわたしがどうこう思っているワケじゃない。
そうして、将来について少しだけ不安に思っていた日々が過ぎ――――わたしの十五歳の誕生日。
一度も顔を合わせたことの無い婚約様が、わたしの家にやって来るのだという。
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