第46話 花と誓いと

 遠くの方から地響きのような音が聞こえてくる。


 雷だろうか?いや、空は晴れ渡っている。だが音はどんどん大きくなり近づいてくる。


『え?何?』


 愛羽は窓際に立った。間違いない、単車の音だ。しかもおそらくすごい数だ。


『何?何が来るの?』


 雪ノ瀬も愛羽と窓際に並んで外を見た。それにしてもものすごい轟音で地面が揺れそうである。


 七条琉花が東京連合を引き連れてきたのだろうか?2人が思っていると音の正体が姿を現していく。



 まず現れたのは白い特攻服の集団だった。神奈川で最もセクシーな暴走族夜叉猫が病院の前を走っていく。


『え?どーゆーこと?』


 次に見えたのは悪修羅嬢だ。紺の特攻服の中に1人だけ紫色の特攻服の銀髪が目立って見える。あれは間違いなく豹那だ。その隣には如月伴が並んで走っていた。


『綺麗…』


 愛羽は思わず目を奪われた。


 どういう訳かみんな手に花を持っているようなのだ。それが遠目でも分かり、何故か綺麗に見えた。


 悪修羅嬢の後ろには神奈川最大のレディース覇女が続いている。その中に白い特攻服の風雅が見え、その隣に神楽がいる。


 覇女の群れに続いてピンクの頭が見えた。紅の特攻服、鬼音姫の先頭を麗桜が走り後ろに樹を乗せていた。そしてその後ろに東京連合焔狼、闇大蛇、飛怒裸が走っていく。


 そして1番後ろに玲璃がいる。玲璃は1人病院の前で停まると空いてるスペースに大きめのシートを広げた。通りすぎてUターンしてきた夜叉猫たちに何やら場所を示して合図を送ると、夜叉猫から順にそのシートにそれぞれ手に持っていた花を次々に飾っていった。


『ねぇ…何これ』


 雪ノ瀬は目を見開いていた。病院の前が見る見る内に花でいっぱいになっていく。


『すごい…』


 愛羽も目を輝かせた。


 全ての単車が通りすぎるまで30分近くかかったかもしれないが、最後の花が飾られた時には病院の前が見たこともないような色とりどりの花畑に変わっていた。


 病院の下には琉花と千歌。そして玲璃たちと伴ら4人の総長が残っている。雪ノ瀬は何がなんだか分からず涙が止まらなくなっていた。


 ここに今花を飾った1人1人の気持ちが伝わってきてしまったのかもしれない。何か言葉があった訳ではないが、ここを埋め尽くした花と単車の音が彼女の心を打った。


『ほら、頑張ろうよ。みんな、きっと応援してくれるよ。あたしも来れる時にお見舞い来るから、あんたは今度こそこの子の側にちゃんといてあげなよ』


 蘭菜と蓮華のことを思えば心が複雑ではあった。だが愛羽は、目の前のこの2人のことも助けないといけない気がしてしまっていた。


 雪ノ瀬瞬にも都河泪にもお互いが必要なのがすごく分かったし、そうあるべきだと思えた。


 雪ノ瀬はベッドの前に座りこむと、まだ目の覚めない親友の手を取り約束した。


『…少女は…もう2度と…あなたから離れないことを…約束しました…泪…ごめんね…』


 そうやって涙もふかずに誓いを立てる瞬を見て、愛羽は笑顔でうなずいていた。


 遠く遠く途切れることなく続いていく単車たちの爆音が、泪に目を覚ませとまるでメッセージを送っているようだった。

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