第44話 決着のカタチ

『やれやれ。あたしたちは今日ここに何しにきたんだ?』


『いいじゃない。私はこれはこれでいいと思うわ』


 立ち上がろうとする豹那に伴は手を差し伸べた。その手を取り、引っぱってもらい立ち上がった豹那だったが、つい伴の手を取ってしまったことに動揺を見せた。


『おい!いらない真似してんじゃないよ!』


『あら?まだそんな意地張ってるの?今日のあなた、とてもカッコよかったわよ、緋薙。あぁいうあなたは嫌いじゃないわ。私たち、今からでも友達になれると思ったのに』


 豹那はタバコに火をつけた。


『残念だけど、あたしは友達って言葉から嫌いなんだよ』


 豹那はそっぽを向いて煙を吐き、伴はそれを見て微笑んでいた。


『麗桜、お前らの勝ちだ。よかったなぁ』


『樹さん…』


『お前の仲間、今度ウチに連れてきな。飯でも食おーぜ』


『うん。みんなにちゃんと紹介するよ。世界一カッコいい暴走族だってね』


 麗桜は今回のことで哉原樹という女が大好きになってしまった。


『風雅。ところでさ、あのチビ名前なんてったっけ?』


『暁愛羽だよ』


 その名前を聞いた瞬間、神楽にある衝撃が走っていた。


『暁…暁愛羽だって?』


『どうしたの?…』


 神楽は数秒の間、無表情で黙っていた。


『…いや、別に。なんでもないよ』


 それは明らかに嘘だと思ったが、風雅はこの時それ以上聞くのをやめておいた。


(なるほどね。暁、愛羽か…)


 どうやら神楽は愛羽の兄に心当たりがあるようだ。





 もう空がうっすら明るくなってきていた。


 ベイブリッジでやり合っていた夜叉猫、悪修羅嬢と東京連合も、もうとっくに争うのをやめており、大黒から覇女、鬼音姫と残りの東京連合の人間たちもベイブリッジに集合していた。


 残すは愛羽と雪ノ瀬の1対1だけになっていたが2人のやり取りはまだ続いていた。


『この分からず屋!』


「パシン!」


 薄紫の夜明けの空に愛羽の声が響いていた。


『あんたが分かってあげないで誰が分かるのよ!本っ当にバカね。バカ!』


『泪の仇を取るって決めたの!復讐して東京連合ごと奪って、東京連合焔狼をどこまでも大きくして、誰にも負けないあたしになって、そうあり続けることであたしたちの生きる道を示してきたの!泪だってそう望んでたよ!あたしだったらそう思ってる!だからあんたなんかに言われたくない!あんたなんかに分かってたまるもんか!』


 愛羽はこの聞き分けの悪い雪ノ瀬にイラ立っていた。


『ん~~!!もういい!!七条さん!!』


 愛羽はほほを膨らませながら琉花を呼びつけた。


『場所!教えて!』


『…え?場所?』


 琉花は愛羽の言葉の意味が分からない。


『泪ちゃんの病院!早く教えて!』


 正直琉花はどうしていいか分からなかったが、何故か言ってしまった方がいいと思ってしまった。


『東京、都民病院…』


 愛羽は雪ノ瀬を引っぱって自分の単車の方へ連れていこうとした。


『ちょっと何すんの!』


『いいからついて来なさいよ!』


『ふざけないでよ!やだ!放せよ!』


「パシン!」


 愛羽はまた平手打ちした。


『いいから乗るの!乗って!早くしてよ!』


 もう雪ノ瀬もよく分からないという顔をしたまま、無理矢理愛羽の後ろに乗せられてしまった。


『じゃあみんな、あたし悪いけどそういう訳だからさ、ちょっと東京都民病院行ってくるから。あ、七条さんたちも来てね。あたし先行くから!』


「ファォン!!」


 エンジンをかけると愛羽はさっさと行ってしまった。


『おい愛羽ぁ!』


 それを見て呼び止めようとした玲璃の声は届かなかった。


『あーもう!あのバカ何やってんだよ!』


 届かない声を張り上げて肩を落とした玲璃を見て、周りが一斉に笑いだした。


『ふふ。玲璃、お前も大変なんだね』


 あの豹那が笑いながらそう言った。


『…あたし、東京の奴についてくんで、みんなどうぞ帰って下さい。本当に、今日はありがとうございました。またみんなでわび入れに行くんで、今日はこれで終わりってことで、すいませんけどお願いします』


 続いてあの玲璃が人に敬語を使い頭を下げた。


『頭下げるこたーねーぜ、金髪の。今日ここに来てる連中は自分の意志で来てんだからよ、あたしを含めて全員な』


 樹は笑って玲璃の背中を叩いた。


『玲璃ちゃん。私たちにも今日がどんな最後になるのか見届けさせてほしいわ』


『伴さん…』







 雪ノ瀬は愛羽の後ろに乗りながら何故今こうなってしまったのかを悔やんだが、もう考えることに疲れ、何より薬の切れた体が痛み半ば投げやりになっていた。


 愛羽の言葉の1つ1つが後になって心の奥でうずいている。


 最後に泪の所に来たのはいつだったろう。


 もうそんなことすら覚えていないが、行く度に復讐を誓っていたのは覚えている。


 殺されたも同然の親友を見ると心は黒くなっていった。


 そして東京連合となってからは泪の所へは行かなくなった。


 あぁそうか。あの頃からだ…

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