第32話 夢を守りにきた奴ら

『見えた!大黒だ!』


 麗桜と風雅は大黒パーキングに着くところだった。大黒もその場が全て埋め尽くされそうな程の台数の単車と東京連合の人間であふれ返っていた。


 さすがに想像を絶する異様な雰囲気に、目前になって立ち止まり震えがきてしまった。だが行かなければならない。


『戦いはもう始まってるんだ』


『あぁ、行こう』


 2人は大黒パーキングへ続く円形のスロープを下っていき、招き入れられるように入っていった。パーキングの中央で七条琉花と龍千歌が待っている。麗桜も風雅も単車を降りると2人の方へ歩いていき向かい合った。その周りを500人の東京連合が輪になって囲んでいる。


『よーこそ。いらっしゃいませ、虫ケラさんたち』


 七条が腕を組みながら前に出てきた。


『約束通り来てやったぜ。覚悟しろテメーら』


『は?あんたたち、まさかこの状況でタイマンでもはらせてもらえるとでも思ってんの?バカじゃないの?今日はもう囲まれてボッコボコにされて終わりだよ』


『俺に負けるのが怖いのか?』


『はい?ついこの前手も足も出なかった人が言っていいセリフじゃないんですけど』


『かかってこれねーのかよ、だっせぇなぁ』


 風雅は木刀を抜き龍をにらみつけた。


『今日は逃がさない』


『木刀1本で私に勝てるつもりか?おもしろい、かかってこい』


 龍はポケットからナイフを2本取り出し、両手にそれを構えた。


 しかし、その時だ。


「ブォォォ~!」「ファンファ~!」「グァングァンゴォ~!」「ファンファカファンフォ~!」


 大黒パーキングのスロープの上から、ゴォゴォと単車の走ってくる音がする。1台、また1台と大黒の長いスロープを何台もの単車が下りてくる。


 その中でも猛スピードでパーキング中央まで突っこんできたのはワインレッドの特攻服にオシャレな髪型をした人だった。RZ350に乗ったその人は勢いよく走ってきて中央で音を立ててブレーキした。


『そんなこったろうと思ったぜ。麗桜、お前抜けがけしようとしやがったな?』


 豪快に登場したのは鬼音姫総長、哉原樹だった。後から続々と鬼音姫のメンバーがやってくる。


『樹さん…』


『誰が名前で呼んでいいっつった?おい麗桜。先、あたしにやらせな』


『えっ!?いや、こいつは俺が!』


 樹は鋭い目つきで麗桜を見た。


『…いいから、すっこんでろ。なんせあたしが先攻だ』


 樹の凄味に押され、とりあえず麗桜も言う通りにするしかなかった。


 樹はその剣幕のまま東京連合たちを見回し怒鳴りつけた。


『よく聞けぇ!東京連合どもぉ!!あたしらぁ今夜1人1人が自分の意志でここに来た!てめーらがその2人潰そうってんなら、その前にあたしらが相手になろう!このガキらはあたしらの夢だ!それ奪おうっつーならやってやるから死ぬ気で来やがれ!』


 そして自軍の鬼音姫たちに向かって大声で狼煙を上げた。


『いいかぁ!てめーらぁぁ!!こいつらに神奈川来たこと後悔さしてやれ!鬼音姫のケンカ!見してやろうじゃねぇかぁぁ!!』


 樹の掛け声で鬼音姫は一斉に東京連合に立ち向かっていった。


 予想もしない展開に東京連合側は驚きを隠せなかったが龍千歌は落ち着いて声をあげた。


『数じゃこっちの方が多いんだ!返り討ちにしてやれ!』


(ふっ、わざわざ死にに来たか)


 今、全面戦争の火ぶたが切って落とされた。

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