第30話 たった1人の最終決戦

 23時59分。


 横浜ベイブリッジ上りは完全に通行止めになっていた。


 およそ500人の東京連合が橋を占拠し、間違っても車1台通れる雰囲気ではない。灰色のつなぎを着た信じられない程の大軍がベイブリッジに巣くっている。


 そんなこと夢にも思わず、運悪くここを通ろうとした車が哀れにもその光景に気づき、次々にハザードランプを点灯させ停まっていく。




 24時00分。


 その後ろからいち早くベイブリッジに向かい飛ばしてくる1台の単車がいた。停車する車をすり抜けスピードも落とさず突っこんでいく。


 XJ400。やはり一番乗りは玲璃だった。


 シートのベルトにバットを収め、背中には木刀を差し、後部座席には消火器がビニールテープで巻き付けてある。


(あたしが終わらせるんだ…あたしで全部終わらせる!)


 ベイブリッジが近づくにつれ、巣に群がる蜂のような気味の悪い光景が見えてくる。


 橋のかなり手前から奥に向かって灰色の軍団がうようよと待ち構えるその絵は、異様で邪悪なものを感じさせた。すごい数だ。これで半分というのだから恐ろしい。


 だが玲璃は絶望的な力の差を感じながらもひるまずに進んだ。敵の先頭はもう目の前だ。


『雪ノ瀬ぇー!!』


 玲璃は届かないと分かっていながら気合いを入れる為に声を張り上げた。


 もう引き返すことはできない。そのまま直進しながら後部座席にテープで巻き付けた消火器のピンを抜き、レバーを握ると中身を放出させながらまだ突き進んだ。玲璃としては行ける所まで単車で突っこみたい。白煙が舞えば敵を撹乱できる。


『雪ノ瀬ぇー!!』


 全くスピードを落とさず走っていくと敵もなかなか止めることができない。ひるんだ所を見逃さずどんどん橋を渡っていく。


 消火器を使い終わるとシートからバットを抜き、右手で運転しながら左手でバットを振り回して向かってくる者を片っ端からひっぱたいていった。


 雪ノ瀬はおそらく大軍の1番奥、橋の中央にいる。なんとかそこまで行きたいが快進撃は続かなかった。


『うっ!?』


 玲璃の目の前に単車が並べられバリケードになっていた。止まれずよけられず玲璃はそこに激突すると、単車から投げ出されふっ飛んでいき群がる東京連合の中に落ちていった。


 一瞬で囲まれると全方向から手が伸びてくる。もう単車には戻れない。玲璃は背中から木刀を抜くと力任せに振り回し、周りの敵をなぎ払った。


『どけぇ!邪魔だぁー!!』


 周りの人間、向かってくる人間を容赦なく殴りつけ、走りながら戦い橋の中央へ向かっていく。


『出てこいよ雪ノ瀬ぇー!!望み通り1人で来てやった!!あたしと勝負しやがれぇ~!!』


 玲璃が叫ぶと東京連合の大軍が奥から2つに別れ道ができていく。


 そして狼が姿を現した。


 周りの東京連合の人間は手懐けられた犬のように動くことなく整列している。赤い髪の少女が1歩ずつ歩いてくる。


『よく来たね。あたしも今日という日が待ち遠しかったよ。どう?最高のリングでしょ?』


 両手を広げてその場でぐるっと1回転してみせた。


 青い瞳がしっかりとこちらを見ている。ついに東京連合総會長 雪ノ瀬瞬が玲璃という獲物と再び顔を合わせた。


『へっ、こんなまわりくどいことしなくたって、いつでも会いに来てやったのによ』


 雪ノ瀬はくすくすと笑っている。


『獲物を狩る時はね、絶対的な力の差を見せつけながらいたぶるのが1番なんだよ。君みたいなタイプは0、1%の可能性だったとしても最後まで向かってきそうだからね、バカみたいに。だから東京連合の全てを見せてあげてから狩ることにしたんだ』


『取らせてもらうぞ。蘭菜と蓮華の仇を』


『ふふ。まだ分からないの?君には無理だよ』


『そして愛羽には指1本触れさせない』


『何言ってるの?あの子をいたぶるのが最後のデザートなんだよ。今から食われる君には関係のないなことさ』


『あたしがさせない!この命に代えても、お前を倒す!』


 玲璃は雪ノ瀬に向かって走っていった。

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