第29話 動きだす歯車
今日1日愛羽と連絡がつかなかった。
伴は22時30分に小田原厚木道路の小田原東インターで待つと愛羽にメッセージを送っておいたのだが、時間を過ぎても愛羽は現れないどころか、まだ連絡もないままだった。
『おかしいわ。愛羽ちゃんも玲璃ちゃんも麗桜ちゃんも風雅ちゃんも電話に出ないわ。何かあったのかしら…』
玲璃と連絡がつかないというのは聞いていた。玲璃は1人で突っこむと見てまず間違いない。
麗桜が哉原樹と手を組めたのも聞いた。鬼音姫は大黒に参戦するのだろう。敵が多いだけに合流して戦いたいところだが、そうしている間に玲璃はやられ更に愛羽も1人でベイブリッジに向かっているかもしれない。
大黒は大乱闘になることがよそうできるので人数ができるだけ多い方がいい。
一方ベイブリッジは幸運なことに橋の幅以上の戦いはできない。それならば数で負けていても敵を倒すことは可能性として全くない訳ではない。
大黒か、ベイブリッジか。伴は究極の選択を迫られていた。
『伴、時間がないよ。そろそろ向かおう』
『…そうね…行きましょう、ベイブリッジへ』
夜叉猫は一斉に走りだしていく。伴は見ぃ出した勝機に賭けた。
(お願い。無事でいて、みんな…)
『遅いねぇ~。来るように言ったのに…来ないつもりかい?』
神楽はさっきから吸い終えては次のタバコに火をつけている。
『神楽がいじめるからすっぽかされたんだろ?』
『何がいじめだよ。あたしがあいつに何か変なこと言ったかい?』
『あの子、きっといい答えを待ってたはずだよね。あんな風に言って可哀想だよぉ』
『神楽さんはドSだからな~。』
周りから批判の声があがっている。
『バカ言うなよ。あたしゃご奉仕型Mだよ?』
『嘘だ!』
『嘘つき!』
『ありえない…』
周りは完全否定だ。
『何が嘘つきだよ!見せてやろうか!?本当のあたしを!』
『はいはい。でも、どっちにしろ力になってあげるつもりだったんでしょ?』
『はっ、そんなことないね!』
『…嘘つき』
その嘘はその場にいる全員が分かっていた。
clubKは本日全キャスト定休日である。
それにつき今、横浜の街に覇女がフルメンバーで集結している。
『どれ、ちょっと景気づけに浜の街を流しに行こう』
黒い特攻服の軍団が次々に単車に乗りこみエンジンをかける。
神奈川最大を誇るチームが今、動きだした。
湘南の海岸沿い、国道134号線では豹那が悪修羅嬢全員を集めていた。
『全員集まったかい?』
新湘南バイパスの入り口の交差点は紺の特攻服の女たちで埋め尽くされ、その中央で1人紫の特攻服の豹那が周りの女たちに語り始める。
『お前たち、よく聞いてほしい。如月んとこのガキらが東京ともめてる件だけど、勝手な私情を挟んで悪いが今からあたしは東京と戦いに行く。何を隠そうあいつらにやられちまったのは、あたしの生き別れになった妹なんだよ。あいつは今、まだ病院で寝てる。もしかしたらこのまま目覚めないかもしれない。今日集まってもらったのは、お前たちに頼みがあるからだ。もし一緒に行ってもいいって奴は、今夜一晩、あたしに力を貸してくれ』
悪修羅嬢たちは目と耳を疑った。
あの緋薙豹那が自分たちに助けを求めている。そんなことは初めてだった。
こんな風に頼んだり、こんな人間らしいまともな言葉など、今まで1度も聞いたことがない。
天上天下唯我独尊をそのまま人間にしたような性格で、尚かつ冷酷非道な嬢王と呼ばれ、仲間のことすら信じていないような女なのだ。
だが容姿はもちろんのこと、豹那のそんな姿さえ彼女たちのカリスマであり神的存在だった。
そのカリスマが今夜こうして自分たちのことを必要としてくれていることに、もはや理由など必要ない。
悪修羅嬢たちは単車に跨がりエンジンをかけると、新湘南への道を豹那が通れるように開いていった。全員豹那の方を向き、悪修羅嬢王の声を待っている。
豹那は自分のSS500に跨がるとエンジンをかけた。
『行くぞっ!!ベイブリッジだ!!』
豹那率いる悪修羅嬢が横浜を目指し走り始めた。
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