第8話 初めての集会
今日は金曜日。今週は新しく仲間も増え明日は学校も休みということで
『今日は親睦会だな。学校終わったら全員愛羽んち集合して今夜はオールで飲もうぜ!』
と玲璃の言い出しっぺで場所もまるで自分の家のように勝手に決め(どうせ愛羽も断らないが)そういうことになった。
『やったー!じゃあ一緒にお風呂だね!みんなのおっぱい見れちゃうね!』
愛羽の思考はまずそこに行ってしまった。
『私、お酒なんて飲んだことないわ。おいしいの?』
『飯どーすんだ?肉焼こーぜ肉。俺やろっか?』
こういうイベントは高校生位の年頃には欠かせないものだ。1つ屋根の下で夜通し語り合い、今までの自分たちのことや恋の話をしたり、くだらない話で笑ったりゲームをして盛り上がったり、お互いの仲を深める大切な機会である。
夕方みんなで買い出しに行き、準備が整うと親睦会は始まった。
『じゃーそういう訳で、こうして4人出会えたことにカンパーイ!』
そんな調子で始まり、それぞれのことを知り食べて飲んで酔っ払う。そんな時間を共に過ごし、絆を深めていくのだった。
『そういえばチーム名だけど、何か候補はあるの?』
『うん!あるよ!』
『あんの!?あたし聞いてねーけど』
蘭菜に答えた愛羽の言葉を聞いて、玲璃は聞き捨てならないという顔をした。
『うん。秘かに考えてたんだ』
『へぇ、なんて名前なんだ?』
そんなものに興味ないと言っていた麗桜も知りたいらしい。
『えへへ、よく聞いてね。…暴走愛努流ってどう?』
『…』
『…』
『…』
3人に反応はなかった。ノーリアクションだ。
『えっ!?ダメ!?』
『まぁ、お前らしいといやお前らしいよ』
『と、と、特攻服のデザインも考えてあるんだよ!?』
慌てて愛羽はノートに書かれたデザインを見せた。
まず背中の1番上には上弦を描くようにして「喧嘩爆音激走美少女」とあった。その下に横書きで「暴🖤走」とあり、更にその下に横書きで「愛努流」と背中中央に大きくある。そして「愛努流」が大きく横並びなのに対して、その下に左から小さな文字で「愛努流」の3文字を使って縦で文がつづられている。「愛」される為の「努」力をするから「流」れ星は叶えてくれる」。今のところここまで考えているらしかった。
『カッコいいでしょ!?色んなの見て参考にしたけど、例えばどっかのチームと似たようなのにしないで考えるの結構大変なんだよ!?』
3人の反応のなさに愛羽はかなりの自信作だったらしくしょげていた。
『ま、いいんじゃねーか?』
『うん…えっ?いいの?』
愛羽は思わず聞き返した。
『私もいいと思うわ』
『もちろん俺も賛成だぜ』
3人共意外にすんなりOKで、瞬殺でチーム名と服のデザインまでが決まった形になった。ちなみにこの後、愛羽は3人と1人ずつお風呂に入った。お酒もだいぶ飲んだせいか、ただのスケベオヤジに豹変し、最終的にのぼせてぶっ倒れてしまい一時騒ぎになった。
次の日の土曜日。愛羽たちは予定通り、
如月伴のチーム夜叉猫の集会に参加することになっていた。愛羽は自分のCBXで後ろに麗桜を乗せていくことになり、もう1台の愛羽のオフ車の方で玲璃が蘭菜を乗せていくことになった。服装は何故か4人共学校の制服で行くらしい。
『統一感あった方がいいだろ。制服で決まりだな』
玲璃の気分だった。
『何時まで走るのかな?あたしちょっと今日ずっと気持ち悪いんだよね』
愛羽は顔色が優れない。
『飲みすぎだな。お前昨日楽しそうだったもんなー。風呂上がりのぼせてぶっ倒れてたくせに』
玲璃は愛羽の頭をつかんで前後に激しく揺らした。
『う~。玲ちゃん、お願いだから今日だけは優しくして。うっ、おぇっ!』
『ごめん愛羽。俺が調子乗って飲ませすぎた。あんなに強いのにそんなにお酒弱いと思わなかったから…もし俺が運転できたら今日は責任持って運転したいんだけど』
『いいのいいの。麗桜ちゃんたちには見ることに専念してほしいし。でも走ってる途中であたしの口からなんか飛んでっちゃったらごめんね。うぉえっ!』
『仕方ねぇな。そん時は覚悟決めてちゃんと背中さすって介抱するよ』
『ふふふ。じゃあ私はその様子を横から記念撮影するわね。でも2日も夜更かししちゃって肌がかわいそうだわ。それだけが問題ね』
『あ?何言ってんだ蘭菜、それだけじゃねーよ。集会なんて行ったら煙やらオイルやらでそれどころじゃねーよ。髪はベタベタ、顔は真っ黒。肌がかわいそうだけじゃ済まねぇと思うぞ?』
『えっ…それは初耳よ。どういうこと?愛羽、そんなこと一言も言わなかったじゃない!』
『え?え?ごめん。あたしそういうの気にしてなかったから…』
愛羽がそんなこと一言も言わなかったのが本当だとしても、蘭菜に至っては入りたいと言い出したのは自分である。
『まぁ、しょうがないわね。とりあえず愛羽、ちょっとここ来て座って』
2日酔いでダウンの愛羽を目の前に座らせると蘭菜は自分の化粧道具を出した。
『何するの?』
『いいからじっとしてて。あなたたち全くお化粧しないんだもん。あなたも私たちの総長なら、こういうこともできるようになってほしいわ』
蘭菜の言う通り、愛羽にしろ玲璃にしろまだ化粧というものを知らず、特に愛羽は童顔でまだ全然中学生に見える。実際最近まで中学生だったのだが、それにしても若いのだ。愛羽はまるで子供がお母さんにいじられてるような、そんな感覚だった。
『私が愛羽だったらこんな感じにすると思うわ。はい終わり。どう?見てみて』
鏡を渡されると愛羽は自分の変わり様に目を見開いた。
『え?ヤバい。なんかあたし自分じゃないみたい』
そう言って自分に見惚れてしまっていた。当分鏡を放しそうになく、その様子を見て3人はくすくすと笑っていた。
前髪を眉の上でパッツンに切り揃え、ボリュームのある紫の髪をポニーテールにしただけの幼い愛羽の顔が、ほんの少し大人びて女っぽくなり、愛羽は嬉しそうだった。周りの子よりも自分が子供っぽいことは自分でもよく分かっていた。女の人ならおそらく誰もが何かしらのコンプレックスを抱えている。それを補ったり克服する方法を愛羽はまだ知らなかった。だから蘭菜が少し自分の顔に触ってくれただけでこんなに変われることが衝撃だった。
『玲璃。次はあなたよ。こっち来て座って』
『あ、あたしはいーよ!そういうの興味ないから』
『ダーメ。いいから早く来て。私も麗桜もお化粧していくのに、あなた1人だけ何もしてかないなんてできる訳ないでしょ。ほら、早く座って』
本当に蘭菜はお母さんのようだった。髪をくしでとかされながら、なんだか恥ずかしそうな玲璃だったが、彼女も内心嬉しいのだろう。それがあまりにも分かりやすすぎて、蘭菜は声を出さないようにして笑っていた。化粧が済むと玲璃も目を輝かせて鏡を見ていた。
『悪く…ないじゃん』
照れながら何度も鏡を覗きこむ彼女に蘭菜は微笑んで言葉を添えた。
『えぇ。とても素敵よ』
集合の時間はもうすぐだ。愛羽たちは出発する前にみんなで記念撮影をした後、土曜の夜へと飛び出していった。
愛羽はとても気分がよかった。あんなに二日酔いだったのにそんなことも忘れてしまう位、今日の風は新しく爽やかに感じていた。
『ようこそ愛羽ちゃん。あら、どうしたの?まさか…好きな子でもできたの?』
集合場所に着くと、伴が現れるなり愛羽の両手を握り化粧のことに突っこんできた。
『あ、あの、そうじゃなくて集会行くならって蘭ちゃんがしてくれて』
言われて蘭菜と麗桜がペコッと頭を下げた。
『蘭菜ちゃん。新しいメンバーの子ね。あら、あなたもとても可愛いじゃない。それからピンクのあなたが麗桜ちゃんね。この前は大変だったわね。今度私も放課後見に行かせてもらってもいいかしら。2人のことは愛羽ちゃんから聞いてるわ。あなたたちも何かあったらいつでも言ってちょうだい。今日はよろしくね』
伴はいつものように喋りきるとニコッと微笑んだ。
『よろしくお願いします』
『是非見に来てください』
2人と挨拶が済むと、突っこまれないように顔を反らしていた玲璃の目の前に走っていった。
『うわっ!』
『あら玲璃ちゃん。あなたもお化粧してきてくれたのね。嬉しいわ。とても綺麗よ。チューしていいかしら』
『ちょっ!如月さん待った待った待った!』
玲璃が本気で焦ると伴は楽しそうに笑っている。
『みんな今日は来てくれてありがとう。こんなに早く一緒に走れるなんて嬉しいわ。色んな単車がいっぱいあるから、遠慮せずに見ていってね。特に希望があれば、今日のことはみんなに言ってあるから、もし気になるものがあったら乗ってみてもいいわ。それから、何かトラブルがあったらすぐ私に知らせてね。万が一はぐれてしまっても私はいつでも電話に出れるようにしておくから、すぐに連絡をちょうだいね』
集会中、トラブルはいつどこで起こるか分からない。いきなりパトカーが数台で追跡してくるかもしれないし、誰かの単車が突然故障するかもしれない。ヤクザがベンツで突っこんでくるかもしれないし、そんな時に誰かがはぐれてしまうかもしれない。なので集会中の連絡はとても重要になってくる。だから特に総長は何かあった時、ちゃんと連絡がつくようにしておかなければならない。同時に即対応できるように頭の回転の早さや判断力なども求められる。決して簡単な仕事ではない。
『じゃ、そろそろ行きましょうか』
如月伴に導かれ夜叉猫の集会が始まった。愛羽たちはその中に紛れ、いよいよ初めての集会を体験するのだった。
愛羽は心が踊っていた。中学の頃から憧れていた夜叉猫の集会だ。初めて見る景色に感動すらしていた。
夜叉猫たちは伴を先頭中心に綺麗に走っていった。小田原の駅周辺は土曜日ということもありギャラリーが多く、夜叉猫たちに手を振る人がいっぱいいた。あれはファンや追っかけだろうか。写真や動画を撮っている人もいて、あらかじめ来るのを知っていて待っている風だった。愛羽はやっぱり夜叉猫は人気者なんだと、自分のことのように嬉しくなってしまった。
夜叉猫の中でも伴は、単車に乗っている姿がとても絵になった。伴は愛羽がすぐ近くに寄ってくると、例の愛羽の兄龍玖がやっていたコールをきってみせた。コールとはアクセルをひねりマフラーから放出される音でリズムを刻み、音を伸ばしたり変えたりして奏でる音楽のようなものだ。結構小刻みな手の動きや、リズム感とセンスも必要とされなかなか難しい。はっきり言って分からない人が聞いたらただの迷惑な騒音でしかないが、分かる人にはその精度が分かる。暴走族もただアホみたくブンブン吹かしているのではなく、それぞれにこだわりがあり向上心を持っている訳だ。伴はその中でも飛び抜けて音を操るのが上手で、もはや芸術、もしくは手が機械化しているなんて言われていた。周りの人間は見ていてスゴいの一言しか出てこない。今奏でられている音がかつて自分の兄が作り出したものだとは愛羽もさすがに知らず、ただひたすら尊敬と憧れの眼差しを向けていた。
『なぁ愛羽。あれなんて単車かな?』
前を走っていた1台を指差して麗桜が後ろから言った。それはスズキのGT380という単車だった。
『あれはスズキのサンパチだよ。気に入ったの?乗っけてもらう?』
『え?なんか魚みたいな名前だな。いや乗るのはいーよ。目星がついただけで十分だよ。俺まだ乗れねーし』
『あぁ。じゃあCBX乗る?ちょっと前きて乗ってみなよ!』
『は?』
麗桜はこのお嬢ちゃんは何言ってるのだろうという顔をした。
『大丈夫大丈夫。走ってる間単車が横に倒れることはないんだから』
どうやら愛羽は、今この走ったままの状態で前と後ろを交代しようと言っているらしい。愛羽はハンドルを持ったまま立ち上がり体を左側にどかした。左ステップに片足だけで立ち、なんともアクロバティックな体勢で運転している。(危ないので決して真似しないで下さい)そして何やってんの?早く前おいでよ。という顔をしている。
『マジで!?』
突然何を言い出すのかと思ってしまったがどうやらやるしかなく、麗桜はハンドルをつかみ前に出た。すると愛羽はひょいっと後ろのステップに足をかけたかと思うと、もう座ってしまった。
『…サーカス団か、お前は』
サーカス団の急な思いつきで前に座ってみた麗桜だったが、いざハンドルを握ってみると色んなことに気づいた。
(…あれ?全然怖くないんだな。それに思った以上に安定してる。アクセルってこんな軽いんだ。バイクってこんななんだ。ヤベ、なんか感動)
そして伴がやっていたようにクラッチを握ってアクセルを吹かしてみると音が吹き抜けた。「フゥオォン!」
『おぉー!なんかヤベェ興奮してきた!愛羽、単車ってすげぇなコレ!』
麗桜が1人で騒いでいると愛羽が後ろから麗桜の胸をわしづかみにした。どうやらこれがやりたかったらしい。
『うわぁ~!麗桜ちゃんのおっぱいやーらかい!』
『バカ、やめろったら!愛羽、運転のやり方とか色々教えてくれよ』
そのまま麗桜は、ブレーキやギアチェンジのやり方から発進の仕方まですぐ覚えてしまった。いきなり走行中に乗せられたのがよかったのかもしれない。最初はそんなにスムーズにはいかないものだが、恐怖心が1発目に取り除かれたおかげでおもいきってできたのだ。
一方玲璃と蘭菜のペアは、あっちへ行ったりこっちへ行ったり、1番前にいたかと思えば最後尾にいたり、隅々まで単車や集会の様子を見て回っていた。
『蘭菜、なんか気になるのあったか?』
『うーん。私はもうこの際何台か買っちゃってもいいかなと思ってるの。自分で持ってみないことには決められそうにないもん』
『…あ…そうすか』
(ったく。あんたはいいよ)
『玲璃は決まったの?』
『あたしは乗るなら4発がいいんだけど、CBXはあいつが乗ってるし何にしよっかなーって感じかな』
『じゃあ私も4発っていうのにしようかな~』
『まぁ単車自体は色々見れたし参考になったから今日はそれでいいんじゃねぇか?それよりよ蘭菜』
『何?』
『あたしトイレに行きたいんだよ』
『あら、私もよ』
2人は走りながら急いでトイレを探した。
夜叉猫は海岸沿いの西湘バイパスを抜け国道134号線に出た所だった。その先は湘南の海が続いている。伴は西湘を降りた後、すぐ国道1号線から小田原方面へ引き返すつもりだった。西湘と湘南の境目ということで一応警戒はしていたが、そこを通るのはその一瞬のことなので問題はないと思っていた。だが少し伴が甘かったようだ。
反対側の車線を向こう側から、おそらく同じ位の台数を引き連れて別の暴走族が走ってくる。Uターンして引き返すには少し時間が足りない。逃げ遅れる人が出る可能性がある。夜叉猫はもうこのまま進むしかなかった。伴はすぐに愛羽を呼びつけて言った。
『ごめんなさい。あなたたち2台、大至急Uターンして帰ってちょうだい』
『そんな、あたしたちも残りますよ!』
『お願い。あなたたちに何かあったら私が困るの』
伴はどうあっても引かなそうだった。麗桜もそれを察し愛羽の肩を叩いた。愛羽は渋々玲璃たちに声をかけようとスピードを落とし下がっていった。しかし1番後ろまで来ても玲璃たちの姿が見当たらなかった。
『あれ?』
遅れてくる様子もない。電話もかけたが出ないようだ。
『もしかしてあいつら1番前にいたのか?』
『そんな!じゃあ早く伝えにいかなきゃ間に合わなくなる!』
愛羽たちは急いで先頭に向かった。
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