第5話 杜田蘭菜

それから何日かした日の学校で、校舎の外

でお弁当を食べていると愛羽と玲璃は何やら視線を感じた。


『おい愛羽、あいつずっと見てんぞ。ケンカ売ってんのか?』


見ると4階の教室の窓から、栗色の髪に所々メッシュを入れている少女がこちらを見下ろしていた。眉間にしわを寄せにらみ返す玲璃をよそに愛羽は手を振った。


『あの子…可愛い』


『おう…はぁ!?何言ってんだテメーは!』


愛羽の感想は玲璃とは全く違うものだった。


『え?あの子可愛いよ。如月先輩とはまた違うけど美人だよ。誰だろうね、あれ』


『知るかよ!あたしにゃここからじゃそんなによく顔も見えねーし』


玲璃の目が悪い訳ではない。愛羽の目が良すぎるのだ。


『でもあの階にいるってことは1年じゃない?』


愛羽がもう1度手を振るとその少女は窓から離れ見えなくなってしまった。


『あたし、あの子に会いたい』


愛羽は走りだしていた。


『あっ!おい愛羽!』


玲璃が呼び止めるのも聞かず階段を駆け上がっていくとさっきの少女を探したが、不思議なことにどこにもその姿は見えなかった。


『あれ?』


結局昼休みの時間はそれで終わってしまった。


その日の下校時間。愛羽はキョロキョロ周りを見て早速探し始めたが、あの栗色の髪の少女はどこにも見当たらなかった。


『あれー?おっかしーなぁ。あの子どこのクラスの子なんだろう』


そんな愛羽を放って玲璃はさっさと下に降りてしまった。


『アホはねー!置いてくぞー!』


そうは言っても迎えに来てもらっているのは玲璃の方だが、玲璃が下からそうやって叫ぶと窓から愛羽が顔を出した。


『ごめーん。ちょっと待ってて今降りるからー。』


だが玲璃はその時妙なことに気がついた。


『あれ?お前今どこいる?』


『どこって、あたしたちの教室だよ。なんで?』


『なんでって、今日あの女がいた場所なんだよ。今、お前がいるとこが』


『え!?』


聞いても愛羽はそれが信じられなかった。


ということは、例の少女は同じクラスの子である可能性が出てくるからだ。それならどれだけ他のクラスを探して回っても見つからない訳だが、だとしたら可愛さに敏感な愛羽が見逃すはずがないのだ。


『クラスにあんな可愛い子いたかなぁ?』


心のもやもやは晴れないが、クラスの人間はもう全員帰ってしまっている。仕方なくその日は諦めて帰るしかなかった。


だがどうしても納得がいかなかったので、次の日愛羽はクラスメイトを1人1人くまなく観察していた。しかし昨日見たようなメッシュの美少女はやはりどこにもいなかった。


『やっぱりこのクラスじゃなかったのかなぁー』


このクラスにも他のクラスにもいない。まさか幽霊だった?そんなことを思い窓側の列を歩いた時、ふと甘い匂いがした。なんだか優しい香り。すごく好きな匂いだ。思わず匂いのする方を向くと、その席には真面目そうなメガネの少女が座っていた。


『いい匂い』


そうつぶやくと、どうやら聞こえたらしく恥ずかしそうにこっちを気にした。愛羽はビビッときた。昨日下から手を振った時、恥ずかしそうに隠れてしまったあの姿にピッタリと重なったのだ。


愛羽の手は言葉よりも先に彼女のメガネを取ってしまった。


『あれ?…あなた、確か…』





少女の名前は杜田蘭菜。杜田建設という会社の娘でお嬢様中のお嬢様だ。


彼女はそんな育ちのせいで小さい頃から友達がいなかった。学校は当然のように送迎ありで外に遊びに行くこともせず、周りの子と関わることもなく、愛羽ですら中学時代に一言でも喋った記憶はなかったし、まさか同じ学校で同じクラスだったなんて思いもしなかった。たった今知った。それ位目立たないタイプの子なのだ。


『杜田さんって…こんなに可愛かったんだ!全然知らなかった。なんでメガネしてるの?もったいないよ。髪だって昨日の感じの方がよかったよ』


杜田蘭菜はメッシュの部分をわざと隠すような極めて不自然な髪型にしていて、ほぼ適当にゴムやピンでまとめていた。


杜田は愛羽からメガネを奪い返すと走って教室を出ていってしまった。


『あ!杜田さん!』


愛羽は焦ってその後を追った。階段を上っていく音が聞こえたので愛羽も駆け上がり屋上まで出ていった。屋上に着くと影でひざを抱えうずくまる彼女がいた。


泣いている?泣かせてしまった?まさかこんなことになるとは思わず愛羽はなんと声をかけていいのか分からなかった。


『あの…杜田さん…』


杜田は顔を伏せたまま顔を上げてくれない。


『ごめんなさい。あたし何も考えてなくて。そんなに嫌だと思わなくて…』


愛羽が申し訳なく思い、そう謝るとおかしなことに気づいた。


(あれ?…この子…笑ってる?)


てっきり泣かせてしまったとばかり思っていたが、よく見ると彼女は泣いてなどいなかった。声を出さないようにこらえながら笑っている。


やがて杜田は顔を上げた。やはり泣いてなどいない。そして愛羽の思った通り杜田蘭菜はとても綺麗な女の子だった。その優しい目でニコッとするとすると言った。


『こんにちは。暁愛羽さん』


愛羽はひきつった笑顔で軽く頭を下げた。


『ごめんなさい。こんな所に連れ出しちゃって。私、杜田蘭菜。あなたと…話すのは初めてよね』


愛羽は自分が意図的に連れてこられたらしいことにここで気づいた。


『ねぇ、暁さん。突然なんだけど、私を仲間に入れてくれない?』


この人は一体何を言っているんだろう、という愛羽の顔を見て杜田は続けた。


『そうね、そう思うのが普通なのかも。でも私、中学の頃からずっとあなたたちを見てたの。少し話してもいい?』


愛羽はとりあえずうなずいた。


『私ね、友達がいないの。小さい頃から外で遊ぶことも誰かの家に行ったりすることも許されなくて、習い事ですら全部家でやらされて外の世界のことなんてほとんど知らなかった。でも自分でもそれが普通なんだって思ってたし、そうやって生きていかなきゃいけないんだって思ってた。だけどね、私は親の言いなりになってるだけだったの。私には自分の意思なんてなかった。何一つ不自由なこともないと思ってたし、欲しい物は何だって持ってたけど、私にはたった1つ自由がなかったの』


少しずつ愛羽は真剣に話を聞き始めた。


『周りの子が羨ましかったな。でもね、その中でも1番輝いて見えてたのはあなたと八洲さん。だってあなたたち、いつだって自由そのものなんだもん。だから、ずっと2人のことを見てたの』


愛羽はそんな風に思われてるとは知りもせずちょっと恥ずかしかったが、それよりこの少女が今まで寂しさの中で生きてきたことを知りかわいそうになってしまった。


(そうか。昨日だけじゃなかったんだ、見てたの)


『言ってくれればよかったのに。あたしももっと早く気づいてあげれたらよかったね。もっともっと早く友達になれたのに』


すると杜田は意外なことを言い出した。


『あのね、この前車で走ってる時にあなたたちを見たの。なんだか大きいバイクに乗ってた。赤と白の。あれは何?どういう乗り物なの?』


それはきっとこの前の如月伴が来た日、エンジンがかかった兄のCBXを2人でその後バイク屋に持っていった時に間違いなかった。


『あれがあなたたちの言う暴走族?の乗り物なの?あんなバイクに乗って走ったらきっと最高ね。嫌なことなんて全部忘れられるんだろうなー』


そう言って背伸びをする姿を見ながら、愛羽は自分が決して恵まれている訳じゃないことを思ったが、だからと言って彼女がお嬢様でありながらも本当に恵まれてきた訳じゃないことを知った。


『暁さん、付き合ってる人は?』


『え?』


愛羽は顔を赤くさせ首を横に振った。


『私はね、好きな人がいたの。中学の時の家庭教師の人だったんだけど。その人片親でね、お母さんの負担を少しでも軽くする為に学校行きながら家庭教師のバイトしてて、夢は学校の先生になることだって言ってたわ』


家庭教師との恋だなんて、愛羽は聞いてるだけで恥ずかしかった。


『とても真面目だったけど、勉強以外のこともそれ以上に教えてくれたの。私そんな人初めて会った。私の知らないこと、なんでも教えてくれて、それが嬉しくて毎日勉強してたの。その人との時間を1分1秒でも勉強以外で使えるように』


『うん…』


『そうやって頑張れば頑張る程、色んな話を聞かせてくれた。私が友達いなくてずっと家に縛られてることも全部話したんだけど、そしたら彼言ってくれたの。人はみんな自由だって。親にだってしていいことと悪いことがある。君は頭がいいしとても綺麗だ。そんな君の可能性がここで潰されていることが申し訳ないって、そう言ってくれたの』


『いい人だね』


『その時彼はまだ高1よ?自分がここから連れ出してあげることはできないけど、自分にできることなら何でも言ってほしい。君が知りたいことを何でも教えてあげられるように自分も色んなことを勉強するから蘭菜も頑張ろうって、いつも元気にさせてくれたの』


愛羽はまだ恋愛というものを経験したことがないので、杜田の話を聞いているだけで幸せな気分になりその世界に入りこんでいた。人の恋愛話なんて聞いたことがなかったのできゆんきゆんする。


『大好きだった。私の人生で彼だけが心の支えだった。優しくてカッコよくて、いつもワクワクさせてくれて、彼も私のことを大切に思ってくれていたわ』


さっきから妙に過去形なのが気になっていた。


『その人、いなくなっちゃったの?』


杜田は急に暗くなってしまった。


『えぇ…クビになってしまったの。全部親の陰謀よ。いくらなんでも許せない。あの家にいて親の言いなりになってたら、きっと全てを奪われてしまうわ。私だって自由に自分の人生を生きたいの。だからね、第1志望をわざと落ちて第2志望をここにしておいたの。あなたたちがここを受けると知ってね。』


愛羽は言われて気づいた。そうなのだ。そういえば杜田のような優等生がこんな最下級高等学校にいることが1番不思議だったのだ。謎は解けたが、しかしそこまでするとはいやはや驚きである。


『私、不良になろうと思ってるの。だからね、あなたたちがいつも話してる、そのこれから作る暴走族ってやつに私も入れてほしいの』


話はそして急にそこへつながってしまうのだった。


なるほど。愛羽と玲璃が日頃話している会話はすでに色々と聞かれているらしい。さて困ったことになった。確かに愛羽たちはこれから人数を集めチームを作ろうとしてはいるが、果たしてこのお嬢様で大丈夫だろうか。杜田の気持ちは確かに分かる。ただだからと言って


『仲間に入ーれて♪』


『いーよ♪』


の一つ返事でいいのかは分からなかった。


愛羽が対応に困っているとそこに玲璃が現れた。


『話はだいたい聞かせてもらった。あんたの気持ちは分からなくもないけどさ、あたしらだって入ると決める以上は中途半端な気持ちで入ってほしくないんだよ。今のじゃあんたが本気で覚悟があって言ってるのか、あたしは分からないね』


『…どうすれば分かってもらえるの?』


『まぁ聞きなよ。あんたそんでその相手の男のことはもういいのか?』


杜田は言われて悲しそうな顔をした。


『彼はウチをクビになる時、もう2度と私に近づかないことを約束させられていたわ。だからもう会えないの。会ったら迷惑になっちゃうのも目に見えてるし…』


悔しそうな杜田を見て玲璃は舌打ちした。


『ちっ。だからよ、あたしはそれでいいのかって思うけどな。親に邪魔されたからって諦めがつくんだったら別にそんなもんだったってことじゃねーかよ』


『諦めなんてついた訳ないじゃない!でもどうしろって言うの?彼だってもう会いに来ることはないし、連絡先だって分からなくなっちゃって』


『学校か家の場所分かんねーのかよ』


『…学校だったら分かるわ』


『よし、じゃあ行くぞ。愛羽、カギ貸せ』


『そんな!今会いに行ってどうしろって言うの?』


『だ、か、ら、言ったろ?親が決める問題じゃねーんだ。お前らの問題だろ?どうすんのかは勝手だけどな、ちゃんとお前らで決めろよ!だから納得いかないんだろ?それにな、親にダメって言われたからって「やっぱりチームには入れませんでしたー」なんて言われたって困るんだよ。だからあたしはお前が本気だってとこを見たいのさ』


『…分かったわ。行きましょう』


『よし』


そう言って2人は歩きだした。


『え!?玲ちゃん。あの、あたしは?』


『2人しか乗れねーんだから留守番に決まってんべよ』


『ごめんなさいね、暁さん』


玲璃が愛羽からバイクのカギをふんだくると2人はさっさと行ってしまった。愛羽の単車なのに。


『えぇっ!?』


前髪パッツンは屋上に1人取り残された。





玲璃と杜田は問題の彼の大学に着いた。だが連絡先が分からないので門の所でただただ待っているしかなかった。


『八洲さん、こんな所で堂々とタバコなんて吸ってたら目立つよ?ただでさえ目立つんだから』


『うっせーなぁ。さっさと見つけて済ませてこいよ。ったく…』


玲璃は退屈そうに口から出た煙を鼻から吸っていた。


『ところで済ませるってどうしたらいいの?』


『はーあ?告白だべよ。その為に来たんだろ?』


『なるほどね。八洲さんって告白したことある?』


『ねーよ』


『あら、私もなの。どんな告白がいいかな?八洲さんだったらどんな告白がいいと思う?』


『知、る、か、よ。親に邪魔されちゃったけどあなたのことが忘れられませんでしたとかなんかあるべよ。それから、八洲さん八洲さんってやめてくれる?その呼び方』


『え?なんて呼んだらよかったの?』


『…』


玲璃は何故か彼女のペースになってしまっていることに気づきながらも、それを止められなかった。悔しいのかふてぶてしい顔をしている。


『…玲璃でいいよ、別に』


『じゃあ私も蘭菜でいいわ』


蘭菜は玲璃を見てくすくす笑っている。


『なんだよ』


『ううん、なんでもない。玲璃、可愛いのね』


玲璃はからかわれてる気分でいっぱいだった。


『あームカつく。てめぇもう置いて帰んからな!』


『ダメよ。それにカギは私が持ってるわ』


『え?あっ!』


ちゃっかりカギを抜いておいたのを見せながら蘭菜はまたくすくす笑っている。


2人がそんなやり取りをしてる間にも人が何人も出入りしていったが、蘭菜の思い人はなかなか現れなかった。そこに着いて2時間も経つと人も通らなくなり、今日は来てないのかもしれないなんて思った時だった。


1人の男が歩いてくる。蘭菜の顔を見てそれがその彼だとすぐ分かったので玲璃は背中を押しやった。さっきまで散々人のことをからかっていた蘭菜もさすがに緊張しているのが玲璃にも分かった。なんせ久しぶりに会えたのだ。感動の再会に見ている方が恥ずかしくなってしまう。玲璃はもうこの蘭菜になんだかんだ気を許していたので仲間に入れることに文句はなかったが、少し強引に連れてきてよかったと思っていた。


『何故来たんだ』


男の一言目に玲璃は固まった。


『もう会わないとお父さんと約束したんだ。君もそうだったはずだろ?』


きっと蘭菜も予想すらしていなかった言葉に驚いただろう。泣くのをこらえているのが後ろ姿からでも分かる。それを見て金髪ヤンキー女は黙ってなどいられなかった。


『おいコラ黙って聞いてりゃクソ男てめぇ!こいつの気持ち分かってるはずだよなぁ!』


玲璃が走り出し今にも殴りかかろうとすると蘭菜が叫んだ。


『待って!』


玲璃は殴り飛ばす寸前で手を止めた。


『なんで止めんだよ!』


『いいの。もう帰ろう。私の独りよがりだったみたい。やっぱり迷惑だったんだ』


『オメーそれでいいのかよ!』


『いいの!もう大丈夫だから、帰ろう?お願い、玲璃』


蘭菜はバイクのカギを玲璃に手渡した。だが玲璃が1番納得いかなかった。というより、大変なことになってしまった。自分が連れてきてしまったせいで最悪な展開になっていると思うと責任を感じずにはいられなかったが、こうなってしまってはもうここにいる意味はない。玲璃は舌打ちし男をにらみつけると引き返し、バイクに跨がりエンジンをかけたが我慢できず叫んだ。


『てめーらなぁ!そんなんで諦めちまうぐれぇなら最初から好きとかなんとか言ってんじゃねーよ!お前らが2人で決めることだろーがよ!』


蘭菜がそれでも何も言わずに玲璃の後ろに乗ろうとすると、ふいに名前を呼ばれた。


『蘭菜!』


呼んだのは他でもなく彼だったが蘭菜はもう振り返らなかった。


『君のお父さんと約束はした。でもこれは俺が決めたことでもあるんだ!』


その言葉の意味が分からず蘭菜は立ち止まった。


『俺には今何もできない。せいぜい勉強を教えてあげること位しかね。大学にかかるお金だって、ほとんど母さんに働いてもらって出してもらってる。妹だっているのに、俺はまだ親に養ってもらって生きてる。そんな俺が君のお父さんに認めてもらえるはずがない。当たり前なんだ。』


蘭菜は自然と彼に向き直っていた。


『今君と付き合って一緒にいることができたとしても、俺は何もしてあげることができない。悔しいよ。大切な君に何かもっとプレゼントしたり、どこかに連れてってあげたりできないことが。そして君がこんな俺を同じように思ってくれてしまっていることがね。』


彼は1歩ずつ、ゆっくりと蘭菜に歩み寄っていく。


『だから決めたんだ。学校卒業して教師になって、君のことを自分の力でちゃんと幸せにできるって自信を持って言える時が来たら、ちゃんと俺から君を迎えにいく。それまではどんなに会いに行きたくても我慢しようってね』


蘭菜はまさかの言葉を聞いている内に次々と綺麗な涙を流し始めた。怒りに顔を歪ませていた玲璃さえ少し目が赤い。


『バカじゃないの?なんでそうやって言ってくれなかったの?』


『俺は君を待たせたくないんだ。これから素敵な出会いだってあるかもしれないし、これから高校3年間絶対楽しいことばかりさ。それが分かってるのに俺のせいで可能性を潰したりしたくない。君は待っててくれてしまいそうだからね。だからそんなこと、口が裂けても言えなかったよ』


蘭菜はもう涙が止まらなくなってしまっていた。


『バカだよ、そんなの。私、誰かと恋に落ちて結婚しちゃうかもしれないよ?』


『その時はその時だよ。俺は君の幸せを願うだけだよ』


『私、家を出てもいいと思ってた。あなたといられるなら学校なんて行かずに働いたってよかったのに…』


『君にそんなことさせるなんて、そんなカッコ悪い真似できないよ。俺は自分の力で君を幸せにしたいんだ』


『私はあなたがいるなら幸せ。あなたが私の心の支えなの』


『蘭菜、分かってほしい。俺は君のことをいつも思ってる』


玲璃は、この聞いているだけで溶けてしまいそうな一連のノロケ話を見ながら恥ずかしい気持ちになっていた。


(なんか…スゲームラムラする)


その後蘭菜が落ち着き、互いが納得し理解した上で連絡先を交換することができ、一先ず笑顔で別れられることになった。


『蘭菜、友達できたじゃないか。よかったね』


『えぇ、カッコいいでしょ?もう1人いるのよ、可愛い友達がね』


何はともあれ玲璃もほっとしていた。一時はどうなるかと思ってしまったが、結果的に今日来てよかったと思える方向に転んで満足したようである。


『あー腹へったなー。おい蘭菜、帰り軽くマックでも寄ってくか』


『マック?あ、それマクドナルドのことね?私行ったことないの。行きたいわ。連れてってくれたらおごるわ、今日のお礼に』


『マジ!?いいの!?お前いい奴だな!よし、決まりだ。マックでパーティーだ!』


2人は1日でかなり打ち解けることができたが、2人共完全に愛羽のことなど忘れて蘭菜の初めてのマックを楽しんだのだった。

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