24日目 優しい少年と美少女の思い出

 俺と杪夏は、一緒に起きてずっと抱き合っていた。

 別にいやらしいことじゃない。

 お互い、寂しくて悲しいからだ。

 それは、この頃ある汚い大人の性欲丸出しの男と願望丸出しの女の恋愛じゃない。

 俺と杪夏は、本当の意味でのお互いを必要とした恋愛をしている。

 もしも、杪夏と別れる事があったらと思うと余計に抱き締めたくなる。

 そんな、杪夏の体温と俺の体温が共に助けあってる感じがする。

 お互いの心と心が、暖かくなり。

 何だか、ポカポカしてきた。

 まるで、春の陽気のように思ってくる。

 夏ではあるのだが、俺は全く熱い感じはしない。

 心地よさと、ひたすら癒されていく。

 杪夏の顔を見えると、とても懐かしく思える。

 何だか、誰かに似ているなと思ったら。

 死んだ、おばあちゃんにそっくりだった。

 あの日も泣いたっけ……

 その振る舞いも、その大人しい性格も。

 その綺麗な顔も、その清らかな声も……

 俺は、やはり杪夏と出会う為にこの病院にきたのかもしれない。

 そう思えてきた。

 運命の出会いとはこう言うものなのか……

 俺は、しみじみ感じ。

 杪夏の顔に見とれる。

 その、一切汚れた部分がない顔に。


「斎藤君……私は……あなたと一生いるからね……絶対に離れない」


 この発言を聞くと、何だかこしょばゆくなる。

 まだ慣れないな、たとえ杪夏が可愛い女の子で俺のタイプだとしても。

 だけど、杪夏といると安心する。

 今までの、嫌な出来事や人達を忘れらる。

 そんな気がする……

 こんな出会いは、多分これからもないだろうな。

 ここまで、自分がときめくことも……


「ああ……離さないよ……たとえ……四季さんが嫌がってもね……」


 杪夏は、笑い俺の体を強く抱き締めながら何か変な事を言ったかのように。


「そこは離してよ……もう……病気ね……」


「何の病気だよ……」


 俺の方を潤んだ瞳で見てきて、その問いに答える。


「私に依存してるから……ふふふ……」


「そんな病気ないだろ……確かに……将来、杪夏依存性になりそうかもな……」


 俺と杪夏は、今までの辛い事が嘘かのようにイチャイチャする。

 それは、本当にいやらしさはない。

 だけど、多分学校とかで出会ってたら。

 アイツら、男子生徒どもにからかわれてるのだろう。

 しかも、羨ましそうにこっちを見てると思うと何だか、幸運に思えてきた。

 自慢してやろうかな、アイツら全然持てないから。

 まあ、いちいち来て杪夏との大切な時間を邪魔してきそうだからしないけど。

 大体、予想出来るがバカップルとか言われそう……

 そう思ってると、ライムからメッセージが届いていた。

 その内容は、どうせ杪夏ちゃんとイチャイチャしてるんだろとか、同級生の男どもは送ってきた。

 知ってるなら、わざわざそんなどうしようもない嫉妬丸出しのメッセージ送ってくるなよ。

 それと、リア充爆発しろと祝福の言葉を貰った。

 幼馴染みの立花からもきていた。

 また、四季さんとイチャイチャしてるんでしょ、私は創に何もしてもらってないのに、絶対に邪魔してやるんだから、そんなもん見せられるたらたまったもんじゃないからと言う、言葉が届いてた。

 本当に、相変わらず立花はやきもちやくよな。

 俺は、杪夏の事が好きでお前の事は気がないと言ってるのにな……


「はぁ……」


「どうしたの?」


 その綺麗な、純粋そうな瞳で見ながら言ってきた。


「相変わらずだな……コイツらもって……思ってね……」


「でも……私……羨ましいと思ってる……創のこと……」


 これは、驚いた。

 そんな事を思っていたなんて。

 どっちかと言うと、杪夏の方が凄いがな俺からしてみれば。

 まあ、何処らへんがいいのか分からなかった。

 だから、とりあえずさりげなく聞く。


「そこまでいいのか? アイツらが?」


 深刻そうな顔をして、杪夏は自分の過去をあった事を話す。


「……私ね……全然、誰も親しい人が居なかったの……それで、いつもお父さんが勉強に対して。ずっと、厳しくて。遊び時間もなかったわ……小学生の時から……私は、会社の跡取りだから。受け継がなくてはいけないって……必死にやって、お父さんに優しく励ましてほしかったの……だから、その事しかしてこなかったの……誰も……友達が出来なくて……高校生始まった時ぐらいから、入院してて……誰も、見舞いにきてなかったわ……」


 そんな話を聞くと、俺は何だか幸せなのかもしれないと思った。

 今まで、そう言うものが当たり前で。

 普通の事で、誰にでもあると思っていた。

 だけど、杪夏は違った。

 その当たり前は、杪夏にはなかったから……


「……それでね……私……正直、創がクラスメイトの人がきていた時……いいなぁと、思ったわ……本当は、寂しかったのかもしれないわ……」


 俺は、今までこんな人に出会ったことなかったから、正直これが現実であると思えない。

 杪夏は、想像以上に努力して俺には遠く及ばない人生を送ってきたんだ。

 

 


 そう会話をしていると、朝食が運ばれてくる。

 俺は、看護師のおばさんに今日手術は成功したか聞く。


「……おばさん……今日は、子供達が助かったのか命は……」


「ごめんなさい……どうにもならなかったわ……」


 その看護師のおばさんの顔は、やはり暗かった。

 もう、誰も助からないのかさえ思った。


「……誰が死んだの……」


「大丈夫? 杪夏……そんなの聞いて……」


 杪夏は、真剣な目をして俺の方を見てる。

 その顔は、今までの表情と違って現実と戦うと言う覚悟をしている。

 俺は、こんな彼女を止められない……


「……石崎賢吾いしざきけんごくんよ……彼は、凄く優しかった……」


「……知ってるわ……」


 杪夏は、泣いていた。

 それは、前のような悲しさと寂しさの涙ではなかった。


「……賢吾くんは……大丈夫っていつも言ってくれた……自分の体も病気なのに……」


 杪夏は、賢吾くんの事を思い出して泣いてるのだろう。

 今まで、支えてもらっている子供達の思い出を……

 そして、それによって助けられたのだろう。

 生きる気力を貰ったのだろう。

 寂しさをうめて貰ったのだろう。

 杪夏の顔は、暗くなかった。

 むしろ、明るく振る舞いその子の事を思い言う。


「……私頑張るから……絶対に負けないから……どんな事があっても」


 その、杪夏の言葉からは戦う意志が見えている。

 それも、強大なものと戦う意志が……



 その後、俺と杪夏はご飯を食べ終え。

 看護師達も帰り、ずっと杪夏は言っていた。

 私負けないと。

 それから、夜になり杪夏は俺が寝る前にこう決心する。


「……私ね……あなたと出会えて良かったと思う……本当に……」


 俺は、今まで言ってきたを杪夏も思ってると思わなかった。

 何だか、寂しい気もする。

 こう、なっていったら分からないが。

 杪夏が、成長していき杪夏が杪夏でなくなっていくような。


「それは、俺のセリフだよ……」


 俺は、いつの間にか寝た杪夏の顔を見ながらこんな事がずっと続けばいいと思ってしまった。

 ずっと続けば……

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