16日目 ダメ医者と救えなかった彼女

 俺は、あの偉そうな二階堂を思い出す。

 夢の中でも、決して忘れなかった為かあのダメ医者が出てきた。

 クソムカつくことを、俺に助言してきてイラついたがそれが問題ではなかった。

 その、言ってきた。

 君は彼女を救うほどの、実力はないから私のやっていることに文句言われる筋合いはない。

 その発言と共に、顔がニヤニヤとしながらなんか上から目線で俺をバカにしている所がイラついていたのだ。

 ここまで、上から目線で威張ってきた奴は初めてだ。

 しかも、自分は何でも出来るように言う。

 あの、態度が一番気にくわない。

 俺は、朝から苛立っていた。

 夢から覚めても、その苛立ちは一向に収まらない。

 


 暫くして、朝食を運ばれてくる。

 だが、俺はあまり食べる気にもならなかった。

 それは、この食事が大して旨くないとか。

 体の具合が悪いとかではない。

 あの、二階堂の顔を思い出してしまい。

 なかなか、箸が進まない。

 何回も、俺は箸を落とすものだから看護師のおばさんが何度も拾って洗ってくれた。

 だけど、俺は食べ物がのどに通らない。

 その為、看護師達は俺の食器の後始末に困りどうにかしたようだが、内心申し訳ないと思う。

 

「どうしたの? 斎藤君?」


 俺は、眉間にシワをよせて看護師に話す。


「……別に……あの、二階堂と言う医者が気にくわなくて……イライラしただけです」


 俺が、そう答えると看護師のおばさんは暗い表情をしながら、深刻そうな面持ちで返す。


「……そう……」


 まあ、多分自分らがあんな医者に逆らえないからあまり何も言わなかったんだと思う。

 そもそも、看護師の場合。

 どうしても、医者には逆らえない身分なのでどう考えても悪くはないのだが。

 俺には、そんな言い訳を聞く思いやりはない。

 杪夏が、不幸ならどんなに周りが幸せであっても自分にとっては嫌なこと。

 どんだけ、世界が良くなろうと俺は喜べない。

 好きな女の子が、不幸であればその社会を壊してもいいと思えてしまう。

 そんな自分に、恐怖すら感じてならないがだけど止められない。

 それが、人を好きになると言うことを改めて学ぶ。

 今まで、ここまでの恋はしたことがない。

 だから、これは危険なもの。

 だって、制御出来ないのだから。

 そう思い、杪夏の方を見てみると泣いていた。


「……うう……斎藤君は、バカよ……うう……こんな事をしたら、自分の体を悪くしてしまうわ……だから、いいの……私のことは」


 杪夏は、諦めていた。

 自分の病気が治らないと。

 夏までに死んでしまうと。

 そんな杪夏を見ると、俺は胸が痛む。

 今まで、経験したことのない痛み。  

 そして、精神的な辛さを味わう。

 それは、同時に自分の心までも狂わせて二階堂の恨みへと変わる。


「……よくないよ!! アイツが全部悪いんだ!! それなのに……何で……うう……」


 俺と杪夏は二時間くらい泣いていた。

 それを、慰めたりどうにか出来るものはこの病院には居ない。

 それどころか、看護師達は暗い表情をして都合が悪いのか、何も言わない。

 その光景は、まるでこの世が独裁者に支配されてるようだった。

 実際に、二階堂とか言う医者に支配されていてどうにも出来ないから、あながち間違った見解ではない。


「……多分、もう少しで時間よ……だから、全部ぶつける為に。斎藤君は、絶対に今の表情や暗い感じを出しちゃダメよ。二階堂先生に勝ちたければね……」


 看護師のおばさんは、いつにもなく真剣にそう言う。

 それは、本心でいつものようなふざけた感じではない。


「……そうだ! 勝つために、俺はこんな顔をしてる場合じゃない! 絶妙に勝たなきゃいけないんだ!」


「……それと……いい忘れたわ……あの人は、大事な彼女を手術をして失敗し。亡くしてしまったわ……だから! あなたとは違うわ。」


 そうだ。

 俺は、あの男と違って訳の分からない自信家ではない。

 それに、大事な人を自分の腕のなさで死なせてる。

 それを聞けば、二階堂は二度と手術を出来ないであろう。

 その事を言えばいい。


「……ありがとう……おばさん。だけど、いいの? こんな事を言ってしまって。」


「いいのよ。どのみち、この病院は可笑しいわ。だから、これぐらいの事をしないとまともにならないわ……医者も看護師も、病院に関係してる人はね」


 看護師のおばさんは、出ていく途中で腕を振り病室へ出ていった。


「私は……この体が治らなくても……斎藤君はいい人だと思ってるから。だから、たとえダメだったとしても……」


「……俺は、必ず四季さんをどうにかする……だから、信じてほしい……どんなに、酷い事を言われてめげないから……」 



 俺は、病室を松葉杖を使って出ていき。

 二階堂がいると言う部屋につく。

 そこは、豪華なソファーがありどのものも多分一級品であろう物でいっぱいだ。

 唯一、一級品でないであろうと思うものは。

 本人の実力と、心だけかと……


「……来てくれたね……じゃあ話そう……」


 二階堂は、真剣な面持ちではあったが何処か嫌な雰囲気を漂わせる。

 そして、窓の方を見ていたが。

 こちらを、くるりと回り顔を睨み会話を始める。


「……君は、もしかして私が手術に失敗して。大事な彼女を死なせた事を、知ってるだろ?」


「……はい……知ってます」


 二階堂は、あらかじめこうなることは計算のうちらしい。

 余裕な表情を見せる。


「まあ、どうせあらかた。あの看護師のおばさんが喋ったのだろう……それは、どうでもいいことだ。それより、君は私の彼女は腕がないから治せなかったと思ってないか? それは、違うのだよ……あれは、もう治せなかった……私じゃなくてもね……」


 どう言うことだ。

 看護師のおばさんが言った。

 二階堂の腕が、悪くて死なせてしまったのではないのか。

 じゃあ、二階堂がやっていなくても失敗していたのか。


「それと……本題に入ろう。四季杪夏さんは、残念ながら。私が手術してなくても、失敗していたと思う」


 嘘だろ。

 また、二階堂は自分の腕がない言い訳をしてるに違いない。

 まさか、杪夏を治せる医者がいないわけない。

 そんなの、自分の腕がないだけに決まってる。


「嘘だ! あんたは、腕がないから杪夏の病気を治せなかっただけだろ! それを、誰でも出来ないと言う……その、言い訳を言いたいだけだろ! 自分のプライドを守りたいが為に!! どのみち、あんたは自分の彼女も救えなかったしな! 自分が何も出来なかったから、そうやって現実逃避してるだけだろ!」


 二階堂は、俺の胸ぐらを掴み顔を睨み付けておもいっきり怒鳴る。


「ふざけるな!! お前のような、素人の小僧に何が分かる!! どのみち、私の彼女も無理だったんだよ! もちろん、君の彼女の四季杪夏さんもそうだ! だから、今度こそ治そうした! だけど、私の彼女と同じ病気で無理だったんだ! 君よりも、優れた私が無理って言ってるんだ! それが、医者の現実だ!」


「ふざけるな!! 自分が、無理だからって。何で、誰も出来ないときめつけるんだよ! あんたは、何でも分かったように言い過ぎだ!! 結局、誰も救えないくせに医者なんかやるな!!」


 二階堂は、泣いていた。

 今言ってることは、本心のようだ。


「君は、世の中にどうにもならないことがあることを分かってない! どうにも出来ないんだよ!……四季杪夏さんも……私の彼女も」


「だから! 決めつけんなよ! 俺は、絶対諦めない! それに、そうだったとしても。あんたより、杪夏を幸せにしてみせる! どんなに、困難なことがあっても!」


 二階堂は、説得するように俺に言う。


「それもダメだ……君は、これからも生きてく人間だ……だから! 四季杪夏さんと離れるべきだ! 私は、彼女が死んだときとてつもない喪失感を味わった! だから! 君は自分の幸せを考えなさい。じゃなければ、永遠に苦しむぞ! そんな事は嫌だろ……」


 俺は、二階堂がいい終える前に反論する。


「……何を言ってんだ! 俺はあんたとは違う。たとえ、杪夏が死んだとしても不幸の言いい訳にしないし。今まで、杪夏と過ごしてきた思い出は素晴らしいと思ってる!! だから!

俺は、杪夏と出会った事は後悔しないし。むしろ、感謝してる! たとえ! 死んで悲しくなったとしても……苦しんでも……きっと……後悔しない! 嫌だと思うこともない! 杪夏みたいな、素敵な女の子に出会えた事自体が幸せだから。俺にとってわ!」


 俺が、最後の言葉を言うと二階堂は足から崩れて膝をつく。

 そして、部屋を出ていき。

 自分の病室へと帰る。


「……大丈夫だった?……」


「大丈夫だよ! 言い負かせてやったから! 二度と、俺と杪夏に何も言わせないように!」


 俺は、そうは言っていたが。

 内心、杪夏が死んでしまうと思うと気が気じゃない。

 痩せ我慢とはこの事だ。

 だけど、不思議で杪夏の為だと思うとどうにか出来た。

 まあ、バカだと自分の事を思ってる。

 病気だって、二階堂が本当の事を言ってるかもしれない。

 それでも、俺は杪夏と一緒にいられるだけでいい。



 夜になっても、不安と高ぶる気持ちが抑えられない。

 二階堂が、言っていたことも忘れられない。

 杪夏は、絶対に助けてやる。

 絶対にだ。

 俺は、そう誓う……

 杪夏の寝顔を見ながら……

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