11日目 幽霊と看護師のおばさん

 あれから、杪夏といるとドキドキが止まらなかった。

 朝起きても、杪夏の顔がなかなか見れない。

 ずっと、俺の顔を笑顔で見てきて何だか照れ臭い。

 

「どうしたの……」


「何でもない……ふふふ……」


 何か、変な気分だ。

 今まで、杪夏に気に入られたことがないため妙に感じてしまう。

 正直言って嬉しいが、なんだか嘘のように思えて仕方がない。



 暫く立って、朝食の時間になった。

 俺は、とりあえず看護師のおばさんが運んできた大して旨くもない食事をとる。

 杪夏はまだ、俺を見ながら笑っていてなかなか食べようとしない。


「四季さん……とりあえず食べよ……」


「……そうね……」


 杪夏は、いつもの無表情になり食事をとる。

 まあ、好きだから見られるのはいいけど。

 あまり、見られると緊張して食事をとろうと思ってもとれないからな。

 俺と杪夏は、食事を終えて。

 看護師のおばさんに、皿などの食器類を片付けてもらう。


「……それより、知ってた?」


「何がですか?」


 看護師のおばさんは、何だか深みを持たせて聞いてきた。

 また、ろくでもないことだろけど一応聞いておくか。

 杪夏も、こっちに向きながら話を聞いてたしな。


「ここの……病院……幽霊がでるのよ……」


「はあ? ゆ、ゆ、ゆ、幽霊なんているわけないでしょ! な、な、何を言ってるんですか! ふざけた事を言わないでください! 看護師長にいいつけますよ!」


 看護師のおばさんは、ため息をつきながら幽霊の話を止めた。


「あ~あ! もういいよ! 教えてあげない!」


「どうでもいいですよ! さっさと戻ってください!」


 そんな発言に、杪夏は俺を冷たい目線で見ながら言う。


「斎藤君……あなた、良くないわよ。それ! 失礼よ……看護師さんに対して……」


 杪夏は、明らかに眉間にシワを寄せて機嫌が悪い。

 俺が、看護師のおばさんの幽霊話を止めた事を怒っていた。

 どんだけこの話聞きたいんだよ……

 思ったけど、杪夏って何か変な処あるんだな。

 俺も、人の中身が分かってるようで分かってなかったわ。

 杪夏が、こう言う話が好きだなんて意外だな。


「話を続けてください! お願いします!」


 病室から、出ていこうとする看護師のおばさんを呼び止める。


「仕方ないわね~してあげるわよ~そんなに気になるんなら!」


 正直言って、看護師のおばさんの大人げないしたり顔が腹立つが。

 杪夏が、怒っていたのでしょうがなく聞く。

 決して、俺がそんな事に興味はない。

 まあ、杪夏が何故こんな事を聞きたいのかは分からんが。


「よ! 美人なお姉さん!」


 俺のお世辞に負けて、話そうとする看護師のおばさんの顔がやはり何度見ても腹が立つ。

 だって、ニヤニヤして俺を見下した表情していたから、これで怒るなと言われる方が無理だ。

 俺は、歯を食い縛り耐える。 

 ここでキレたら、杪夏に相手してもらえなくなる。

 前のように他人行儀な言動されたくないから。


「話すわね……ここの病院では毎年、どうしても亡くなってしまう人がいるわ……まあ、何処の病院でもそうなんだけどね……」


 俺は、多分この看護師のおばさんは絶対に長話になると覚悟して聞く。

 杪夏は、目をキラキラさせながら聞いている。

 いや、どんだけこの話を聞きたいんだよ。

 

「それで……霊安室って知ってる?」


「はい……知ってますけどそれがどうしたんですか?」


 まあ、俺も最初は知らなかったが。

 看護師達の、井戸端会議を聞いて覚えたのだが。

 霊安室ってのは、病気で入院していた人が亡くなって遺体なったときに遺体を入れる部屋らしい。

 関係ないが、本当にここの病院の看護師達は雑談が好きなようだ。

 よく、上司にバレないものだな。

 よくよく考えれば、女性って言うのはそう言う事大好きだよな。

 特に、誰かの悪口とか役に立たない情報を交換しあうの。

 俺は、杪夏もそうなるのかと思うと嫌だな思ったが。

 杪夏は、その前に生きれないと思うと虚しさを感じる。


「あなた達が……入院する前の話なんだけど……この、病院で死んだ子がいるのよ……それで、その子は……霊安室に運ばれたわけ……で……その後、数日たったら見たって言っていた人がいたの。看護師の夜勤やっていた人が……それで、私も嘘だと最初は思っていたわけ……」


 俺は、唾を飲み込み緊張しながら聞く。

 杪夏は、どうやら雰囲気に飲み込まれ真剣な眼差しで聞いている。


「……その後も、その子が出るって噂はたえなかったわ……」


 俺は、正直言って仕事をしろと思う。

 何で、俺の周りってこんな不真面目な人ばかりなのだろう。


「……私は……その日……その話を聞いて怖くて……見わりに行けなかったから、代わってもらったわ……」


 いや、あんたちゃんと仕事しろよ。

 それに、そんな幽霊怖いから仕事できないとか子供かよ。

 俺は、この看護師のおばさんに呆れた。

 本当に言うと、もっとまともな大人だと思っていたが、幽霊が理由で仕事しないとかダメな大人だろ絶対。


「ピーンポーン!」


「ちょっと、呼び出されたから。明日にするわこの話!」


 そう言って、看護師のおばさんは病室に出ていき、違う呼び出された方に向かうため急いででいく。


「ふう~……あ~助かったわ!」


 俺は、安心して思わず声が出る。

 杪夏は、いつの間にか俺の腕に体を寄せていた。


「何やってんの……四季さん……」


「怖かったの……だから、いいでしょ……」


 いや、怖かったらこんな話を聞こうって言うなよ。

 何で、始めから怖がるぐらい嫌なのに聞くんのかな。

 俺は、不思議でならなかったのでとりあえず聞いてみることに。


「四季さん……何で、そんなに怖がるぐらい嫌なのに。聞くの?」


「だって……怖がって抱きつけば……いいって……この、看護師のおばさんに教えてもらった本に書いてあったから……」


 あの看護師のババア。

 よくもやってくれたな。

 よりにもよって、こんな事をするとは……

 気に食わん。

 絶対に、看護師長にいいつけやる。

 俺は、そう誓いこの日の半分は終わった。

 夜は、看護師のおばさんの幽霊の話のせいであまり寝れなかった。

 この恨み、かならず看護師のババアに仕返ししてやる。

 俺は、寝ながらそう考える……

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