9日目 美少女お母さんと子猫

 あれ以来、猫を付きっきりで見てる杪夏はまさに母親みたいだ。

 だけど、疲れていた為か昼間は寝ていて。

 会話が、出来なかったことが悲しいが仕方ない。

 俺も、寝たいがもし看護師のお姉さんが来た時に知らせなきゃいけないからな。


「はぁ~たのしくねぇ……」


 俺は、そんな愚痴を言いながらどうしようもないと思いながら納得出来なかった。

 昨日あんだけ猫を探し回ったのに、もうちょっとご褒美的な事が起きてもいいんじゃないか。

 いや、起きなければ割に合わない。

 まあ、自分で勝手にやったから何かを求めるのは間違いかもしれないが……

 だけど、こんな何もいいイベントがないなんて流石に理不尽だよ。

 少しは、杪夏と仲を進展させたいし……

 そんな事を思ってると、看護師のお姉さんがやってくる。

 どうやら、杪夏の血液検査の時間らしい。


「血液取りますよ~」


 明らかに痛そうだが、平気な顔をしていつも通りに血を取り終わり、出ていく看護師のお姉さん。

 杪夏は、子猫をどうやって隠したのか気になっていたが、どうやらまた布団の中に隠しているようだ。

 良くバレないものだなと感心してると、看護師お姉さんも気付いたみたいだ。


「ところで……杪夏ちゃん、そんなに体が膨らんでいるっけ?」


「……ええ……ちょっと、食べ過ぎてしまいまして……すみません……」


 バレバレな嘘だ。

 こんなのに、気が付かないわけない。

 毎回、体を検査してる看護師を騙せると思えない。

 だけど、今回は目の錯覚と思ったのか。

 何も言わずに、病室から去っていた。


「……はぁ……危なかった……流石もうだめかと……」


 杪夏も、今度はバレると内心ヒヤヒヤしている。

 それもそうだ、こんなんでバレないと思う方が正常じゃない。

 杪夏は、頭がいいし。

 学校に行ってる時は、俺なんか比べ物にならないくらい天才だったと聞く。

 これは、病院ないで噂になっているから誰でも知ってるが。


「四季さん! とりあえずは、大丈夫だったけど。これからどうするんですか。こんな事を何回も続けたら、流石にバレますって!」


「分かってるわ……だけど、この子が見付かったら処分されるか……追い出されて、死んでしまう……それだけは、嫌なの」


 俺もどうにかしてあげたいが、今回ばかりはどうにもならない。


「あなたの家で飼えない……この子……」


「それは、無理だ……ウチは、犬がいるし。猫も、要るから喧嘩すると思うし……」


 そう、俺の家は犬と猫を飼っている。

 大体、金をそんなに持ってないから結構かつかつでやっている。

 母親の口癖だ。

 それに、動物の世話は今は母親がやっているし。

 父親は、動物に対しても言うことを聞かない奴は保健所に持っていく頑固オヤジ。

 そんなところに、見ず知らずの子猫を置いたらどうせ追い出されて保健所に持ってく。

 だから、俺の家は無理だと伝えよう。


「俺の家は……父親が、動物嫌いでね。ごめん」


「いいのよ……迷惑かけてごめん……」


 まあ、嘘をつくしかないな。

 こんな事を言えるはずもない。

 流石に、杪夏に父親の問題を出すのは嫌だからな。

 知られたくないだけだけど。


「四季さんの家はどうなの……」


「私の家は……私以外……動物とか、人の世話とかが出来ないのよ……だから、私がやろうと思うけど……夏までしか……」


 そうだな、杪夏は夏までしか生きれない。

 だから、どうにかジュピターの世話してくれるひとを見付けなきゃ……

 そう考えてると、看護師お姉さんは戻ってきてそれを見たとき、顔をひきつっていた。


「な、な、な、な、何で猫なんかいるのよ! 杪夏ちゃん! 猫を隠れて飼っていたわね! これは……病院の室長に伝えさせてもらいます……」


「止めてください! お願いします……私が、責任を持って新しい飼い主を見付けます……」


 杪夏は、必死な表情で説得する。


「だめです……そもそも、他の患者さんにも迷惑かかるので……」


 俺は、とりあえず看護師のお姉さんにこの人だけ知らないと言うことを伝える。


「と言うか……あなただけです……猫をコッソリ四季さんが飼ってるの知らないの……」


「……!!!」


 看護師のお姉さんは、びっくりして目が点になり開いた口が塞がらない。

 無理もない。

 他の人は、知っていたのに自分にはしらされないのだから。

 


 そして、一時間くらい立つ頃。

 突然、杪夏の父親が現れたそして自分の母親も。


「……すまない……君のお母さんに頼まれて、猫の引き取り手を探していてね……」


「感謝しなさいよ! 杪夏ちゃんは、特に感謝する必要ないけどね!」


 ジュピターが処分されるかと、杪夏は落ち込んでいたが杪夏の父親のおかげそうされずにすんだ。

 まあ、母親が何故杪夏の父親に頼んでくれたのかは分からないが。


「そうなの……良かったわ……」


 何処か寂しそうな杪夏は、俺が最初に知り合ったときのように思えた。


「ニャ~オ……」


 子猫は鳴いた。

 親元から離れるのが寂しそうに……


「とりあえず……杪夏……子猫を渡してもらう……」


 杪夏の、膝で寝ていたジュピターを両手で掴みそのまま抱きかえる杪夏の父親。

 その後、ジュピターは杪夏の父親と共にいなくなり、その去っていくジュピターに杪夏は泣きながら見ていた。

 何処か、苦しくなるが。

 今回ばかりは、俺がどうにかしようとしてもどうにもならない。

 だが、杪夏はその後笑った。

 子猫を幸せにになれますようにと小さい声で言って……

 俺は、今日の夜寝ながらこのことばかり思い出して、興奮して眠れなかった。

 あの表情があまりも美しく、綺麗な言葉を思い出すと…… 

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