4日目 俺はそれでも彼女の笑顔が見たい
朝起きてまず、気分がかなり悪い。
あの杪夏の父親を思い出すと、今でも腹立たしい。
何より、娘を娘と思わない言動と役に立たないなら優しくしない冷酷な性格。
杪夏は、本当にこの環境の中で良くやってきたと思う。
それなのに、神ってやつはこうどうして頑張ってる人に更に追い討ちをかける。
そんな理不尽過ぎる、世界を批判しながら今日も朝食を食べながらあのクソ親を待つ。
「あら? 何だか、あまり食べないけど体の具合でも悪いの?」
どうやら、俺はあまり食欲が湧かないのか箸がいつもより進まない。
「もう良いよ……皿下げておばさん」
「あら? いいの? 後、おばさんじゃなくて
文句を言いながらも、皿を片付けていく大谷さんはいつもより早く病室から出ていった。
疑問に思うのだが、おばさんと言われたくなければ最初から名前を教えてくれ。
それに、昨日の事からあまり大谷さんは俺の病室で色々話さなくなった。
あんなに喋っていたのに……
ノックの音がした。
俺は、杪夏の父親が来たと思い身構える。
その感は的中せずに、母親が見舞いにやってきただけだった。
タイミングが紛らわし過ぎる。
普通、あのクソ親が来ると思うだろ。
そんな事お構い無しに、母親は病室に入る。
「見舞いに来たよ~! 創~!」
「うるせぇよ、見れば分かるわ!」
それより、何でこのタイミングで見舞いに来るんだよ。
もうちょっと後にしてくれ頼むから。
何で、普段来ない癖にこう言う時は嗅ぎ付けて来るんだよ。
一番面倒な時に来やがって、いい迷惑だ。
それに、この母親の事だ。
杪夏の父親に、何かとんでもない発言をするに決まってる。
居ない方がいい……
だから、さっさと出て行くのを待ったがいっこうに出てかない。
「頼むから! 今日早く帰ってくれ!」
「何でよ、何でそんなに早く帰らなきゃならないのよ? 何かあるの?」
俺は、どうにか母親に早く帰るように言うのだが帰る気がないらしい。
「別に……いいだろ……そんなこと」
「あ~あ! 後、今日杪夏ちゃんの父親が来るのなら知ってるわよ」
知ってんのかよ。
知ってるなら、とっとと帰ってほしい。
余計に揉め事を起こされると、こっちが杪夏の父親を説得するのに邪魔になるから。
「いやね~せっかく母親が頑張って見舞いにきたのに~この子わ~」
「今日来てほしいなんて言ってないだろ! それに……このタイミングで来るとか……あんた息子の幸せを潰す気か……好きな子がいるから助けて、仲良く出来る機会を作ろとする。息子に、迷惑かけるとか……最悪な親の行動でしかないぞ……」
俺は、杪夏に聞こえない声で言うも。
母は、ニヤリと笑いながら大きな声で俺が杪夏を好きな事を病院中に聞こえる声で言おうする。
「実は~! 斎藤創君は~! この病院内に~好きな子が居ます~! それは……」
「ストップ! ストッ~プ! 止めろよ! あんた! 普通、息子の好きな子をバラす親が居るかよ!」
母は、舌を出しながらごめんねと謝るがどうにも嘗めた態度を取っていたので、謝っているようには見えない。
「本人に俺の親かよ!」
「な~に言ってんの~正真正銘親です~」
本当にこの親は、いい年してこの言動をするもんだからこちとらどうしようもないと思うんだからな。
もうちょっと、親なら親らしい言動と行動をしてほしいものだ。
そんなやり取りに、杪夏はクスッと笑ってる。
「ごめんなさい……ふふふ……」
「良いよ、杪夏が幸せなら……」
俺は、どんなにバカ親に年がいもなく変な行動や言動をされても今は苦にならなかった。
だって、好きな杪夏の笑顔が見られたから……
「それより、もうそろそろ杪夏ちゃんのお父さん来るんじゃない? イチャイチャしてる場合じゃないわよ」
「イチャイチャしてねぇよ! それに、息子の前でそう言う事を言うな!」
母親と話してる最中に、誰か来たようだが杪夏の顔の表情が暗くなったので分かった。
やはり、杪夏の父親と母親入ってようだ。
「失礼する……」
その雰囲気は、まさに冷たく人として何か欠落してる。
「君に見せたいものがある……これだ」
杪夏の父親は、タブレットを取り出してとある動画を見せる。
それは、必死になって杪夏の父親に頭を下げる男の映像だ。
明らかに、その男はずっと頭を下げていてそれを杪夏の父親が相手にせず、無視している。
「これは、現実だ……君がどうあがこうが所詮、この男のように何も出来ないで……人に頭を下げて私に頼むだろう……まあ、私はこの男はどうなろうがどうでもいいが……つまり! 君みたいな人間は、この男のように無力で何も出来ない……君より優秀な医者がもう駄目と言ったのだ……私が来たところで現実変わらない! 娘は死ぬ……君ももちろん何も出来なくて……」
何を言ってるんだ、本当にこの父親わ。
俺が言いたいのは、現実がどうとかそう言うこではない。
娘が苦しんでいるのに、優しくしてあげないし見舞いにもいかず、ガタガタ理屈ばかりこねくりまわす。
そんな、何の愛情もない言葉を発するこのオヤジが嫌なだけだ。
「そんな事はどうでもいいんだよ! あんたが気に食わないのは、何でそんなクソ医者が言った事を本気にしてんだ! 大切な自慢の娘だろ! 本気で、いい医者を探せよ! しかも、親の為に頑張ってきた娘を病気だからって捨てるんじゃねぇ!! このクソオヤジがぁぁ!!」
俺と杪夏の父親は、お互い一歩も引かずにらみ合いその場には緊張感がはしる。
「ちょっといいですかね?」
突然母が杪夏の父親に話を切り出す。
「私は、あなた方の話を聞きました……確かに、会社を経営するのは厳しくて娘さんの世話するのは難しい事かもしれません! ですけど、あなた方は杪夏ちゃんの親なんですよ! 娘が苦しい時は助けてやるのが親ってもんでしょ! それなのに、会社や自分のばかりで。それでも杪夏ちゃんの父親ですか! あなたは、親失格です!」
まさか、母親がこんな予想外の事を言うと思わなかった。
俺は、今まで勘違いしていた。
ただ単にふざけてるだけの人かと思っていた。
杪夏の父親は、暫く固まっていた。
突然こんな事を言われたから、母みたいな人から真剣な言葉を……
「本気にくだらない親子だな……子も子なら親も親だ……どうしようもない……理屈ではなく、感情で動くとはな……」
俺は、ムカついた。
それは、バカにされたからでもこの父親の態度が人を見下しているからでもない。
娘の事を全然考えてない。
子供が苦しんでいるのに助けるどころか、苦しんでいるのを分かってあげない優しくもしない父親にだ。
「あんたは、何で杪夏の事を分かってあげないんだよ! 杪夏は、苦しんでんだ! 今でも! だけど、自分は病気だから父親を助けられない。そんな自分が、父親が見舞いに来るはずもないって! 病気なった自分はどうしようもない、父親を助けられない子だって! 苦しんで、苦しんで、苦しんで、苦しんで、苦しいんでんだよ! そんな娘に大してこんな仕打ちかよ! こんなにいい娘いねぇぞ! 普通子供ってのは親に文句ばかり言う。だけど、可愛いのが子供ってもんじゃねぇのかよ!」
父親は、やっと分かってくれたみたいで自分がやってきた事の酷さにやっと気付いた。
「私は、間違っていたのか……何も知らないのは私の方か……」
俺は、父親を説得するように言う。
「だから……見舞いには来てください……お願いします……娘さんの為に……」
俺は、下げたくない頭を下げるが。
しょうがない、このオヤジはクソほど嫌いだが杪夏為なら頭を下げるなんてわけない。
「分かった……来る事が出来たら毎日くる……」
俺は、やっと肩の荷が降りたようだ。
これで、眠れない夜はなくなる。
杪夏も、笑顔で幸せになれる。
「ただ……君は、あの医者のように後悔しないな……たとえ、娘が死んで悲しくて絶望したとしても……」
「後悔なんてしません……俺は、杪夏さんが幸せでいられるなら……」
その後、杪夏の父親はすぐ病室から出て帰っていくそれにつられて杪夏の母親も帰る。
「ちょっと~あんた~どんだけ杪夏ちゃんの事が好きなのよ~」
相も変わらず、母はいつものようにからかう。
「うるせぇよ! 好きなんて言って今言ってなかっただろ!」
「ま! お母さんは、創の事なんてお見通しなのよ。だって、あなたの母親だから」
その表情からは、如何にもダメ親の素振りはなかった。
そして、杪夏はやっと笑顔を取る戻して笑い始める。
「……ふふふ……ごめんなさい……どうしても、笑いがこらえられなくて」
その上品な声からは、一切汚い物はなく俺は何だか楽しかった。
「後、あの父親が嫌だったら内にきなさい。
私は、杪夏ちゃんのようないい子は大歓迎よ! むしろ、息子より杪夏みたいな子がいいわね」
「それが、親の言うことかよ!」
本当に、この母親はどうしようもない。
だけど、母がいなければどうにもならなかったのも事実。
でも、何だかな……
まあ、そんな事より杪夏の笑顔が見られただけ許すか。
「ありがとう……斎藤創君……」
何だか、杪夏にお礼を言われたような気がするが気のせいか。
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