3日目 クズ親と優秀な娘

 俺は、朝早く杪夏の父親を待っていた。

 どのみち起きて朝食を食べなきゃいけないが、その時はなるべく早く食べようとして喉に食べ物を詰まらせた。


「ゴホゴホ……」


 心配そうにいつもの看護師のおばさんが俺の方を見るが、特に興味ないのでさっさと食べて皿を回収して貰う。

 杪夏は、ゆっくり食べているようだ。

 まあ、そんなに俺も必死になって食べる必要もないのだが……

 病院食は、大して美味しくないし誰も取ろうとしない、それどころか不味いのが大半なのでむしろほとんど食べなくて残すのが大概だ。

 ここのご飯も相変わらず旨くない。

 多分、刑務所の飯の方が旨いと思うが、実際に食べたことないからよく分からんが。


「あなた本当にやるの? 止めておいた方が良いんじゃない?」


「……止めるわけない!……だって、杪夏自体悪いわけないし。それに、あの親は許せない! 自分達の為に頑張ってひた向きにやってきたのに、あの親はお礼を言う処か。杪夏を見捨てたんだぞ! どう考えても、親がわるいだろ! 特に、あの冷たい父親がな!」


 どうも、この看護師のおばさんは知ってたらしく止めようとする。

 何処からでも、情報を集めるよなこのおばさん。

 何で、そう言う事は得意なんだよ。

 もう少し、マシな使い方しろよな……

 俺の周りはこんな大人ばかりだな……

 それに、止めるならちゃんと止めろよ。

 いい加減にやるな。


「はぁ……とにかく! あなたはあまり口出さないで下さないね! 」


 看護師のおばさんは、さっさと皿を片付けていく。


「後……さっさと出て……」


 いつの間にか、看護師のおばさんは居なくなっていた……

 そして、杪夏も食べ終えていて。

 本を読みながら待っているようだ……


「とりあえず……俺は、四季さんの父親に言うから! 止めないで欲しい」


「うん……分かった……」


 そこからは、だんまりしていて何も誰も言わない。

 空気はどんよりしていて、緊張感が半端じゃない。

 正直言って、本当はかなりビビっている。

 ここまでドキドキして、どうきが激しいのは受験以来だな……



 ガチャりとドアが開き、現れてたのは如何にも厳格そうなオヤジと、何処か不安そうなおばさんが居た。

 どうやら、この人達が杪夏の両親らしい。


「君が……電話をしてきたのかね……」


「はい……そうです……」

 

 どんよりとした空気が流れる。

 その空間は、重力が倍になってるかのような気分になる。

 俺は、嫌な汗をダラダラとかく。

 本当にこの父親は、愛とか人を思いやるとか出来ないのか。

 こんな偉そうな態度を取る人間といたら、何も言えないわな。

 

「君は……私に何か言いたいようだね……」


「ちょっと! あなた」


 その姿まさに、亭主関白と言うのがふさわしい状況。

 母親は、父親に逆らわないし。

 父親は父親で、クソみたいな態度を取ろうが他人を見下した言動行動をしようが、全く反省しないと言ったよく居る毒親だ。

 俺だったら、こんな家に一日いや一時間も居たら頭が可笑しくなると思う。

 杪夏は、よくやるよ……

 見るからに、人の心を持ってない冷徹鬼オヤジの元でずっと、病気になるまで暮らしていたんだから。

 それに、母親は父親に従うばかりで娘の事を一切見てないで自分のことばかり。


「本題に入らせて貰います……」


 俺は、何とか場の空気を変える為に。

話を切り出していく。


「あなた達は、俺が考えてもまともな親ではない事は明らかです……」


 杪夏の父親は、眉間にシワを寄せながら迫力がある低い声で俺に圧力をかける。


「君は……本当に礼儀がなってないな……年上と言うのは敬う……それは、常識ではないか?……」


 どうも、俺に説教をするようだ。

 だが、ここで負ければ杪夏は悲しい思いをしなればならなくなる。

 絶対にそんな事はさせないために、俺は更に切り込む。


「あなた方が、尊敬に値する。年上ではないからですよ! 娘一人も見れない癖に、会社の中身なんて分かるわけないですからね!」


「君! 本当に無礼だな! 私が誰と分かっていってるのか!」


 俺と杪夏の父親の言い合いは、昨日と比べ物にならない位白熱する。

 入ってきた看護師お姉さんは、聞いてはいたが仕事をしたらすぐに出て行ってしまった。

 

「それに……娘は、もう後少しで死ぬだ! どう接しても、無意味! 君も分かってるだろ……」


 そんな事は分かってる。

 だけど、俺は杪夏に笑顔で居て欲しいからたとえ、杪夏の父親がどんなに権力を持っていようと戦わなければならない。

 だって、好きな女の子には男なら幸せになって欲しいもんだから。


「あんたは……それでも親かよ! 親なら、子供の心配するだろ! 娘が苦しんでるのに、何で分かってやろうとしないんだ!」


 俺は、この父親が腹が立ってしょうがない。

 それは、杪夏が可哀想だからではない……

 杪夏は、父親の事を思って今までやってきたのに本人はもう娘がすぐ死ぬからと言って。

 まるで、壊れた機械を捨てるように今まで無視し続けたからだ。

 これは、ネグレクトと言うやっちゃいけない事だ。

 それも、平然と顔色変えずにやるところがわをかけて達が悪い。


「君は……本当に、現実って物が見えてないな……はぁ……明日教えてやる……帰るぞ!」


「あ~! 待って! あなた!」


 それだけ言い残して、杪夏の両親は共に帰っていった。

 俺と杪夏の病室は暫く、重い空気が流れ続けてなんだか寝付けなかった……

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