《 第25話 入れ替わりの行く末 》

 そして待ちに待った休日。



「ただいまー!」



 自宅に帰ると、香ばしい匂いに出迎えられた。


 ルナがジタンのために手料理を作ってくれたようだ。


 いったいどんな料理を作ってくれたのだろうか。


 食堂に向かおうとしたところ、ルナが駆け寄ってくる。さっきまで料理をしていたのか、エプロン姿である。



「おかえりパパ」


「ただいまルナっ! ご飯作ってくれたのか!?」


「うん。パパみたいに上手くできなかったけど……」


「そんなことない! パパより上手だぞ!」


「まだ見てないのに?」


「見なくてもわかるさ! うん、美味い!」


「まだ食べてないのに?」


「食べなくてもわかるさ! 匂いだけでこれなんだ、食った瞬間ほっぺがとろけるに違いねえ! さっそく食っていいか!?」


「うん。温かいうちに食べてほしい、けど……」



 ルナがもじもじする。


 照れくさそうに見つめられ、ジタンはハッとした。


 手料理に舞い上がり、すっかり忘れてしまっていたが、楽しみなことがもうひとつあったのだ。



「ハグしていいか?」


「うん、いいよ」



 娘をぎゅっと抱きしめる。


 傍目には世界一可愛い少女が凶悪な面構えのおじさんを抱きしめている構図だが、ジタンにとっては愛娘とのハグだ。


 ほっそりとした腕で、たくましい肉体を強く強く抱きしめる。



「痛くなかったか?」


「ちっとも。パパの身体は強いもん」


「そっか! ならもっとハグさせてくれ!」


「いいけど、あとでしない?」


「あとでっていつ!? メシ食ったあとか!?」


「入れ替わりが終わってからだよ」


「いいぜ! 今度はパパの身体でハグしてやる!」



 ジタンはうきうきしつつ食堂へ。


 テーブルに並べられたご馳走の数々に、思わず目を輝かせる。



「これ全部ルナが作ってくれたのかっ?」


「うん。パパはお肉が好きだから、肉料理を中心に作ってみたの。あとケーキも冷やしてるよ」


「そりゃ楽しみだ! さっそくメシを……食う前に、まずミュセルに連絡すっか」



 どこにいるかはわからないが、入れ替わりを解除する魔導具マジックアイテムは準備できていると言っていた。


 連絡すれば、すぐに送ってくれるはずだ。


 ジタンは食卓につき、以前ミュセルが送ってきたケータイで連絡を試みる。


 実験に没頭しているのだろうか。ちょっと待たされたが、ミュセルは相変わらずの大声で応答してくれた。



『はーい! もしもーし! ミュセルちゃんデスよー!』


「おうミュセル。俺だ。いま家にいて、ルナも一緒だぜ。なんと俺のための手料理を作ってくれたんだ。羨ましいか?」


『お腹ぺこぺこなことを思い出しちゃったデス!』


「だったら帰ってこいよ。今日は無理だが、帰ってきたらメシ作ってやるから。懸念していた魔族も葬ったことだしな」


『さすがジタンくん、もう倒したのデスね! ……怪我してないデスよね?』


「怪我なんかしてねえよ。余裕でボコボコにしてやったぜ。そんなわけだから帰ってこい」


『いまは無理デス! 魔導具マジックアイテムの開発が忙しいデスからね!』


「開発って、月に行くためのか?」


『いまは違うデス!』


「だったらなにを作ってんだ?」


『ジタンくんとルナちゃんの入れ替わりを解除する魔導具マジックアイテムです!』


「……は?」


『聞こえなかったデスか? ジタンくんとルナちゃんの入れ替わりを――』


「聞こえてる! 聞こえてるから! そ、それマジで言ってんのか?」


『マジで言ってるデスよ!』


「ちょ、ちょっと待てよ。すでに用意してるんじゃなかったのか?」


『用意してませんよ?』


「けどお前、言ってただろ! 心配いらないって!」


『もちろん心配はいらないデス! 私は天才デスから! そのうち完成するデス!』


「そのうちって……入れ替わりの魔導具マジックアイテムを開発した時点で作っとけよ……」


『あのときは早くルナちゃんを助けなきゃって焦ってたデスからね!』



 実際、焦って正解だ。


 のんびりしていればインプの襲撃に間に合わず、ルナは怪我していただろう。


 最悪、パロマを助けることができず、ジタンは愛娘に襲われることになっていた。


 それを思うと、ミュセルに文句は言えない。


 言えないが……



「完成はするんだよな? ずっとこのままってわけじゃないよな?」


『心配ご無用デス!』



 とても元気な返事だった。


 ミュセルがそう言うなら信じるしかない。


 ぜったいに開発してくれよ、と念押しして、ジタンは通話を切る。



「ママ、なんて……?」


「ああ、それが……入れ替わりを解除する魔導具マジックアイテムはこれから作るんだと」


「あらかじめ用意してなかったんだ……」


「ママは後先考えずに行動するタイプだからな。だから……悪いが、しばらくパパとして過ごしてくれないか?」


「うん。いいよ」



 意外にもルナは明るくうなずいた。


 落ちこまれるよりはマシだが……



「無理してないよな?」


「無理なんてしてないよ。学院生活も楽しみたいけど、パパとして過ごすのも楽しいもん」


「不便じゃないか?」


「全然不便じゃないよ。家の魔導具マジックアイテムはボタンひとつで使えるし、魔力が切れたら誰かに頼めばいいだけだもん」


「そっか……成長したな」



 人見知りだった頃からは想像もできない姿に、ジタンは感極まる。


 涙ぐむジタンを見て、ルナはくすっと笑う。



「とにかく、わたしの心配はしなくていいからね。それよりご飯にしない?」


「だなっ。ルナの手料理、味わわせてもらうぜ!」


「うんっ。あ、だけど食べすぎないようにね?」


「せっかく作ってくれたんだ。残さず食うぞ」


「今日はいいけど、学院でだよ。クロエちゃんが言ってたよ、いつもはわたしの5倍食べてるって。同じ身体なのに、どうしてそんなに食べちゃうの? お腹がぷにぷにしててびっくりしちゃったよ……」


「ルナのためだ」


「わたしのため……?」


「ああ。ルナってさ、胸が小さいだろ?」


「む、胸が……?」


「風呂に入ってるとき気づいたんだ。クラスメイトは全員胸がデカいのに、ルナだけ小さいことにな」


「そ、そう……」


「そんなわけで、毎日もりもりメシを食うことにしたってわけだ。おかげでちょっとだけデカくなってきたぜ!」


「……」


「なんで黙りこむ? もしかして疑ってんのか? パパは嘘とかついてないぞっ! ルナの胸は間違いなくデカくなった! 毎日揉んで確かめてるから間違いねえよ! よかったな、ルナっ!」



 愛娘が身も心も成長するのは、父として嬉しい限りだ。


 にこやかに告げるジタンに、ルナは顔を真っ赤にして叫ぶのだった。



「パパってばデリカシーなさすぎ! やっぱり早く元に戻りたい!」

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父娘逆転生活 ~史上最強のパパ、いじめられがちな娘と入れ替わる~ 猫又ぬこ @wanwanko

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