第12話―眠るような静寂つづき2―
千代の精神的な治療を受けてから奥深くまで傷ついた癒せてはいない。
それも5月はじめに入っても同じだった。いや前よりも悪化していた。
世の中はゴールデンウィークの到来に
そんな浮かれた気持ちは俺も千代もある筈がなく彼女のリビングで昼食のコンビニお弁当を食べていた。
「なぁ千代。せっかくのゴールデンウィークなんだし気分転換に遊びにいかないか?
「そう、だね。あはは…センガクといられるならどこでもいいよ」
乾いた笑顔だった。おそらく心配させまいと本人なりに明るく振る舞おうとしている。けど目は笑っておらず
見ていて息苦しさを覚えるほどだ。
(こんな笑い…みたくない)
「はは、そうか。なら一緒に行くか」
「うん、行くよ」
いつから、こんな他人行儀のような会話になっているのか。
いや、それすらも成立していないほど俺たちは無理している。
「よし決まりだな。明日とかにするかデートみたいでドキドキしてきた」
「…うん」
悲しみなんか超えるほどの強い言葉を使おうと狙ってみたが失敗。
そして翌日になって千代を連れて今日は遊び回ることにした。
俺がどれだけ笑って千代の前はしゃいでも効果はあったのかさえも分からなかった。
感情の起伏は無いのではないかと幼馴染みである俺でさえも思ってしまうぐらいになっている。
手を繋いでの帰り道、このまま永遠に千代はこのままなのかと俺は夕焼けに染まる落葉樹の
(そんな、はずがないじゃないか!
毛利弘元だって言ったじゃないか…
幸せにさせられるのは俺だけだって。
だから俺が諦めたら立ち直るのは、ずっと後になる。
そこまで苦しませていいのか?いや、絶対にダメなんだ!だからこそ
頑張らないといけないんだ)
恋人にはなっていないのでデートとは呼べないものだったけど千代と
いつかは仮のデートでも心を弾むぐらいに回復してほしい。
そう願い遠くない未来にそうすると自分に誓って千代の家を見送り歩いて行くと家の近くで見覚えのある後ろ姿を目にした。
誰だろうかと思い出そうとしていると握っていた千代の手がビクッと震えて反応をした。
「パパ?」
千代のつぶやきに反応して勢いよく振り返る父親。でもどこか目は活力があふれていた。
「こんな時間まで
はっはは!実に青春を
(なにか違和感を感じたけど…俺の気のせいか?
それにしても筋肉質なおじさん相変わらず元気な人だな…)
千代の父親である
いわく、おじさんが自慢気に名前の由来は前田利家から取ったんだと語っていた。幼い頃であった俺は誰その人と首を傾げた無知な時期があった。
そして名前負けしていない。
筋骨隆々で数学にめっぽう強くて困って尋ねたときは懇切丁寧に教えてくれる人なのだ。
しかし妻を失ってからは悲しみを打ち払うよう仕事にのめり込むようになっていた。
「なにかあった?いつもと雰囲気は…どこか違う」
「おっ、やっぱり微妙なところを愛娘に気づかれたか。
会社の取引先が美人さんで連絡先を交換したんだよ。いやぁー、さいこう」
「…さいてい」
「な、なかなか愛娘の心からの言葉はキツイものだぜ」
おじさんは頬が痩せており
たぶんこんなことを言っているが娘の前だからこそ強がっているのかもしれない。家にお邪魔して、主におじさんと話してから壁時計を見るとそろそろお暇しないと母さんが心配する。
玄関の外まで千代とおじさんが見送りにきた。
「センガク帰り道には気をつけて」
「がはは。愛娘が心配しているなら護衛してやろうではないか」
「えっ!?いえ一人で大丈夫ですよ」
どうしてそうなったと声にせずツッコミをいれる。両手を横に振ってなんだか強めな断り方を取る。が、そんな
拒絶のある反応どこ吹く風と
気にしておらず。
「そう言うな。
もう襲うのは事実!高校生である栴岳くんを危険な目に合わせるわけにはいかぬからな。なに、この腕で
がっははは!」
辻切りって…ここは江戸時代だったのかな。知らずうちにタイムスリップしたかもしれない。
初老に迎えているとはいえ俺よりも背は高くて激しい運動とかしている方だ。かなりの武闘派なのでリスクは減るかもしれないが…。
(それは治安が悪いどこかの海外の話であって、こんな平和な国で滅多に
起きないと思うだけど)
インドアである俺は武闘派の押される形に勝てるはずがなく加賀利家おじさんに言うことを聞くことにした。
まだ新緑が彩っていない木々を伝うように歩いていると利家おじさんは
両手を頭の後ろに組む。
「頼みがあるんだが千代のことを任せていいか?」
急にそんなことを頼まれてしまった。
歩いている夜の帳をわずかに照らすのは街灯の灯り。
「任せるって…そんなこと思っていませんよ。千代には、たくさん助けられているし少しの恩返しを…いや違う。
幼馴染みが困っているから助ける。
それで義理や損得なんて関係なく人として当然のことですよ」
これを助けると俺は思っているが、もっと適切な言葉があると思うのだ。
それがなにかは勉強不足で見つからないわけだが。
「そうか?幼馴染みなんて意外と冷たいものなんだぜ。栴岳くんと千代が
特別すぎるんだよ。
それこそ現実的じゃない、まるで昨今のドラマみたいだぜ」
苦笑して幼馴染みの定義を口にするが俺はピンとこない。
辞書では幼馴染みの定義はまったく違っているのは自覚している。しかし
幼馴染みは千代しかいないため判断基準がどうしても比較するものがない。
「そういうものですか?」
「でも気にする必要は、ねぇんだ。
栴岳くんだからこそ頼みたい…娘を幸せにしてくれ」
「し、幸せにって……あの笑顔を戻すことに全力でやるだけなので」
さすがの俺でも意表を突かれた言葉だった。勇ましく利家おじさんは「ハッハハ!そうか」と勝手に理解して解釈して納得する。
千代の話題で気づいたら家の近くにたどり着いていた。
「マジで頼むわ栴岳くんグッドバイ」
「グ、グットバイです」
ここは普通に[さようなら]とは言わないのかと呆れと思った以上にいつもどおりだったことに安堵して家の中へと入る。
そして翌日のニュースで加賀利家おじさんが殺人を犯したと告白して自首したとニュースのアナウンサーが淡々と述べていた。
犯行の理由は
才媛の勇者は手を放さない 立花戦 @fadpgf33gaa5d5d
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