第11話―眠るような静寂―

こんな事態だからこそ千代の前では明るく接しないと。そう自分に鼓舞をして移った家の前に立つ。

そしてインターホンを押して待つと千代が来てドアを開ける。


「…また来てくれて、ありがとうねセンガク。でも勉強とかあるし無理とかしなくていいんだよ」


笑うような元気さえもないか…いつか立ち直れるか不安が襲うが諦めるには早いじゃないか。


「何を言っているんだよ。

無理なんかするような配慮する間柄じゃないだろう?

帰り道に抹茶味の納豆という怪しいものが売っていたから今夜の食卓にでも使ってくれ」


「嬉しい…もう帰る?」


「まぁさか。これで心ばかりの物を受け取って帰らせようとシンプルに言われたらいくら俺でも傷つくぞ。

冗談はこの辺にして、どうだ千代。そのへん散歩とかしないか?」


おそらく一日中に家の中でいたのではないかと思う。気が病んでいる精神で

じっくりと考える閑居にいても

悲哀が強いのであれば外の空気にでも当てたほうがよいだろう。


「わかった」


小さく頷いて同意を示した千代。

落ち込むとここまで口数が減るのか。

支度が終わるまで待っている間にスマホで[彼女支える言葉]と検索して

調べるが異性にモテるための方法しか載っていないため根本的な解決よりも内容に苛立ち閉じる。

そして千代が私服姿で、やってくると階段を降りて公園に向かった。

午後5時が過ぎているのか人が誰もいないため近くにあるベンチに腰を降ろして話を振った。

けど千代はどう見ても無理して笑顔になって相槌を打つ姿は痛々しくて悲しかった。

話題を変えることにした。千代は家で楽しくしているのか尋ねると思いもしないことを口にした。


「立ち直れそうにないから精神科に治療を受ける…俺もついて行っていいか千代。せめて同行したいんだ」


「いいよ」


なんて淡白とした返事なのだろう。

そして翌日になると俺は千代が喜びそうなものを持参して家に訪れた。

千代は言葉だけ歓迎して家の中に上がってと言った。

そして精神科に予約した時間帯になると家を出るが道中はどう話すればいいのか言葉を探して結局は気まずいまま喋らずにいた。

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