第28話 仲良し5人組、役割分担を決める
「この竹の灯篭とかなら、私たちでも作れるかもしれないわね。それから、
「そうだね。竹ならその辺に売るほど生えているから地主の人にお願いすれば調達できるだろうし、幟に使う布も、古くて使わなくなったものを募れば手に入りそうだ」
美鈴と宙吉は目を合わせて、ふむふむと頷く。
「道具作りならば自分にお任せ下さい! と言うより、実際問題、自分がお力になれるのはこの分野だけかと存じます!!」
「確かに玉五郎は昔から大工仕事は得意だったな。この店を発見したことと言い、僕はお前がこんなに頼もしく思えたことはない気がするよ。ならば、教室を飾り付けるための大道具は玉五郎をリーダーとして、主に男子生徒中心でやっていくことにしよう。責任重大だが、やれるか?」
「はっ! 身命に賭して、完遂してご覧に入れます!! では、自分は早速設計図を……」
言い終わるのと同時に、紙を広げて鉛筆を忙しなく働かし始める玉五郎。
選択肢を前にすると迷走した挙句間違った道へ彷徨い歩くのがお約束の男だが、一度道筋を立てれば目的に向かって猪突猛進。
そうなった玉五郎は、実に頼もしい。
「ねね、タヌキチ! 料理もさ、このホームページに載ってるヤツを参考にしない!? ってか、どれもすっごく美味しそうなんだけど! 見た目も珍しいから注目度もバッチリっしょ! 絶対に映えるヤツじゃんかー!!」
「じゅるり。本当にどれも美味しそうだねぇー。超美味そうだねぇー!」
「あ、でも、勝手に真似したら怒られちゃう感じ? どう思う? タヌキチー」
「うーむ。まあ、文化祭でやる模擬店だけの話だし、平気じゃないだろうか」
確信は持てないが、このように雄大な店構えをしているのだから、「がははっ」と笑って許してもらえそうである。
このような田舎の学生のモノマネに目くじらを立てるほど、店も暇ではないだろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「でも、一見するとどれもシンプルな料理に感じるけれど、実際作るとなるとどうなのかしら。誰か、的確な指示を出してくれるリーダーがいればいいのだけど」
「そうだよねー。それにお店のメニューってことになると、最低でも4品くらいは欲しいよねぇ。えっと、おにぎりと、お蕎麦でしょ。それから、山賊焼きと、魚の塩焼きと。あとはね、じゅるり」
奈絵は先ほどからよだれの分泌を抑えきれていない。
あれほど見事にネコを被るのに、食欲は制御できないらしい。
「やー! 確かにそれだけあれば、間違いなく注目浴びるっしょ! 作るっきゃない!!」
「茉那香。希望を言うのは良いのだけれど。それ、誰が作れるのよ……」
「あ、わたしは無理だよぉ? 食べるのは専門だけど。わたしに作れるのは精々お鍋が限界だから!!」
まず奈絵の霊圧が消えた。
「ぐぬぬぬっ。……玉ねぎの皮むきならあたしにだって!!」
茉那香の霊圧も風前の灯火である。
女子3人が困っていた。
どうしたものかと宙吉は考える。
実は彼女たちの悩みを解消する手立てはあるのだが、如何にして切り出したものかと迷っていた。
言葉を間違えるとなんだか嫌味な親戚のおばさんみたいになりはしないだろうか。
だが、今日のタヌキは一味違う。
従者の玉五郎が奮闘しているのに、主の宙吉が口ごもっていてどうする。
今こそ立つとき。頑張れ、宙吉。燃え上がれ、宙吉。
「あー、そのだな。僕なら、多分作れると思うのだが。あ、いやいや、勿論、本家のクオリティを再現するのは逆立ちしても無理だけども。ただ、真似事で良いのならそれなりの物が作れると思ったり、思わなかったり」
力強く自分を鼓舞した割には、随分質素な燃え方であった。
「えっ、マジで言ってんの!? タヌキチ、これが作れちゃうの!? すごっ、マジぱないんだけど!!」
「まさか、田沼くんの女子力がここまで高いだなんて。人は見かけによらないわね、本当に」
思った以上の好リアクションに、宙吉はむしろ尻込みした。
なんだか元気のなくなった同じ化け物を見て、小声で奈絵が問いかける。
ネコ被ってないバージョンである。
「どうしたん、宙吉?」
「いや、だって、私が先陣切ってもし失敗したらみんなに悪いし」
「乙女か!! 馬鹿言ってないで、やればいいし! やってみてダメだったら別の方法考えればいいだけだし! バカ吉! ウジウジすんなし!!」
「な、奈絵さん……!!」
「声がデカいし! ……こほん。えー! 宙吉くん、頑張ってみるの!? すごーい!!」
ネコの毛皮を再び被った奈絵。
変わり身の速さには尊敬の念すら覚える。
「そだっ! あたしも、多分そんなに役には立てないけどさ! 協力する!! 超協力するから!やってみよーぜぃ! タヌキチのためなら、一肌でも二肌でも脱いじゃう構えよっ!」
「ま、茉那香ぁぁぁ!! 僕は、僕はなんて幸せ者なのだろう!! ああ、神様!!」
茉那香が背中を押してくれるのならば、勇気百倍、やる気千倍の宙吉である。
「なんか、わたしと茉那香とで反応が違いすぎるのが腹立つし! …ふんっ!」
「ああ、どうしたのだろう! 脇腹が痛い! これが幸せの痛み!!」
宙吉様、少しばかりバグる。
奈絵の手刀を受けてなお、彼は幸せそうであった。
「じゃあ料理担当のリーダーは田沼くんで、その補佐が茉那香。これも決定しちゃっていいわね。あと茉那香、今の服で二肌脱いだら露出狂よ」
「ちょ、美鈴ぅ! ものの例えじゃんか! 脱がないよ!? いや、気持ち的には脱ぐけどさ! とにかく、タヌキチっ! 2人で一緒にがんばるぜー! せーのっ、えいえいおーっ!!」
「お、おおーっ!!」
宙吉は再び神に祈った。
一瞬、二肌脱いだ茉那香を想像してしまった愚かな私をお許しくださいと。
邪念を振り払うためにも、気合を入れて茉那香と一緒に拳を空に向かって突き上げるタヌキが1匹。
「あとは、そうね。喫茶なんだから、売り子と言うか、ウェイトレスやウエイターをする人も必要よね。だったら衣装かしら、次の問題は」
いつの間にか、話し合いは美鈴中心で進行している。
それだけ彼女の指揮統率能力が秀でているのでこれは致し方ない。
と言うか、むしろ助かる。頼りになる委員長である。
「ああ、神様! 神様、感謝いたします!!」
宙吉がこの調子では、誰かが引っ張ってくれないと日が暮れてしまう。
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