第3話  バイトと嫉妬する彼女(仮)

 朝起きると下の階からいい匂いが漂ってくる。

 俺は制服に着替え学校に行く準備をしてから一階に降りた。


「母さんおはよう。今日のごはん何?」

「零おはよ〜今日は目玉焼きとカツ丼〜」

「朝からカツ丼って……テスト日じゃないんだから」

「だって〜広告の品のカツ買いすぎて消費期限が今日だからぁ。まぁ頑張って食べて」


 母さんは明るくて優しい性格なのだが少し天然なところがあってたまに困る。

 でも母にはすごく感謝している。

 父が居なくなっても母は女でひとつで俺を育ててくれた。

 それに今何不自由のない生活ができるのは母のおかげである。

 いつか孝行しないとなぁ。


「ねぇ零?昨日の日曜日どこに行ってたの?」


 母の質問に少し戸惑う。

 付き合ってる彼女がいるって言うわけにもいかないしなぁ……

 仮の恋人関係だから。


「あなたが休みの日に出かけるなんて珍しいかったから」

「そっかな〜」

「それにあんなに買い物して帰ってくるなんて」

「たまには買い物もいいかなって……」

「零。彼女できたんでしょ」

「ちがっ!」


 これが女の感というやつなのか!

 母親恐るべし。


「また紹介してね。家にあそびに来てもらったら?大丈夫、私はすぐ出ていくから」

「だから違うってぇー」


 もう確信に変わっているだと……


 ブーブーブーブー


 な、なんてタイミングの悪い!それに初めての琴葉からの電話……


「ほら〜でなさいよ。鳴ってるわよぉ」

「いや出なくていい。友達のいたずらだろうし」

「ふーん」


 セーフ。

 これで話題を変えればいいだけ!


 ピーンポーンピーンポーン


「ん?!」

「あらお客さんかしら珍しいわね。出てくるわ」


 や、やばい。

 母さんは玄関に向かい俺も後ろから追いかける。

 そして母さんが鍵を開けドアを開けると……


「氷高くーん!おは〜あれっ? お母さん?」

「あら〜可愛い子ね。零この方は?」


 俺の家を訪ねてきたのは琴葉ではなく琴葉と仲のいいクラスメイトの早乙女栞さおとめしおりだった。

 なんで家に……


「この人は同じクラスの早乙女さん」

「あら〜二人は付き合っているの?」

「付き合ってない!」


 ん?なんで早乙女さんが顔赤くしてんだ?

 まぁいっか。


「それでどうしたの?」

「ちょっと話したいことがあってね。もう外出れる?」

「あ、うん。ちょっとまってもらえるかな?」

「うん!」


 俺は一旦家に入ってから歯磨きをしバックを持って外へ出た。






 俺はなぜか早乙女さんと学校へと歩いていた。


「それで話しってなに?」

「うん。ウチね、商店街の近くのカフェでバイトしてるんだけど明後日にある夕方のシフト入れる人が私だけらしくてね、氷高君にその日だけ手伝ってもらいたいんだ」

「え、なんで俺?」

「だってウチ男友達いないし話したことあって優しそうな人氷高君しかいなかったから」

「ならそのお手伝いするよ」

「え?!ホント!マジありがとぉー。ちゃんとその日の給料は出してくれるみたいだから」

「うん!わかった」


 バイトかぁ、初めてだし緊張するな〜


「あ、でも琴葉と帰らなくていいの?」

「大丈夫。俺から言っておくから」


 こうして俺は早乙女さんが働いているカフェで一日手伝いをすることになった。






「氷高君今日はよろしく〜」

「うん。俺バイト初めてだから色々助けてもらうかもだけど」

「大丈夫私に任せなさい」


 早乙女さんは自分の胸をドンと強く叩いた。


「それとぉ、私の苗字って長いし言いずらいじゃんっ!」


 早乙女という苗字が言いづらいのかはあんまりわからないが珍しい苗字だと思う。

 早乙女さんと同じ苗字の人は知り合いにもいないし。


「ということで今日からはしおりって呼んで欲しんだけどいい?」

「うん。じゃあ俺も零でいいよ」


 なんかこの下り一度あったような……

 でも早乙女さんは明るくて可愛いな〜ちょっとだけギャルっぽいけど。


「じゃあ今日は一日よろしくねっ!」

「ああ!よろしく」


 カフェに入ると店長が俺にエプロンとその日の給料を渡してくれた。

 それから控室に入ってロッカーに荷物を置きエプロンを着けていると早乙女さんの俺を呼ぶ声が聞こえた。

 表に出るともう数人のお客さんが店内にいた。


「零くん、あそこのカウンター席のお客様にお水持って行ってくれる?」

「わかった」


 女子に初めて呼び捨てで呼ばれ少しドキっとした。

 集中しろ俺!少女漫画のヒロインみたいなこと考えるんじゃない!

 邪念を捨て去れ!





 二時間後。

 俺は成績優秀ということもあってレジ打ちは完璧、皿洗いも完璧と仕事をスムーズにこなしていた。


「零くんすごいね!初めてなのにこんなにもできるなんて!」

「そっかなぁー」

(実際は自分でも凄いと思っている)


 店長が後ろから肩を軽く叩いてもう上がってもいいと言ってくれたので俺は帰る準備をしカフェを出た。

 少ししてから栞も出てきて一緒に帰ることになった。


「今日はほんとにありがとぉ〜」

「うん!俺もいい経験ができたし楽しかった」

「零くんに頼んでよかったよ。また頼んでもい?」

「あ、うん。全然いいけど」


 カフェのバイトというのは意外と楽しいもので意外と給料もよかったのでまたしてみたいと思った。


 俺と栞が横に並んで帰っていると後ろから声が聞こえた。

 ふりかえってみるとそこには琴葉が立っていた。


「二人ってそうゆう関係だったの?」

「違う!今日は栞のバイトの手伝いをしてただけなんだ!」


 栞も頷いている。


「でもいつからそんなに仲良くなったの?栞って呼んでるし」

「それはだな……」


 琴葉は顔を赤くして怒っている。

 別に俺たちも嘘の恋人なんだしいいと思うのだが。


「ほんとだよ〜ウチが無理言って手伝ってもらったんだ」


 栞がカバーに入ってくれ琴葉はため息をついて肩を落とした。


「やっぱり二人はアツアツだね〜」

「もう…栞のせいなんだからねぇー」


 琴葉の表情も元に戻り俺は修羅場を回避した。


「じゃあ私帰るからー後はお二人で〜」


 そう言って栞は帰っていき、俺は琴葉の冷たい視線を感じた。


「ねぇなんで言ってくれなかったのぉ〜」

「だって俺たち嘘の恋人なんだから別に言わなくてもよくないか?」

「それはぁ……バカ。……」

「……」


 顔を赤くしてまた琴葉が口を開く。


「彼女がいるのに他の女の子と仲良くしすぎるのはダメなんだからね……」


 俺の彼女(仮)は可愛すぎる脅迫魔だった。

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