第51話 王都決戦5
ブエルが配置した隊列で、ガミュギュンが指揮する撤退は、追撃の部隊を撃破しながら進められていった。
が、全てがブエルの意図通りに進まなかった。グシオンの騎兵隊数百が密集陣形で追撃してきた。それを、変幻自在の、時には百近くに、次には十数騎になって襲いかかる総計一千騎が、天下無敵騎兵隊と名付けられた部隊が、周囲から襲いかかり、クジラを襲うシャチの群れのごとく、追いすがるグシオンの騎兵隊を壊滅するはずだった。が、更に少数の騎兵の部隊が彼らの邪魔をし、数十騎の部隊が少数になった騎兵隊を取り囲み、一つづつ壊滅させてゆく。それに対して、変幻自在に動き、形を変えて迫り、仲間を助けようとするが、少数の騎兵隊が邪魔をして救出できなかった。兵を集めようとすると、また、それを少数の部隊が邪魔をし、ようやく集まると銃砲を重装備した一隊の集中砲火を、浴びてしまう状態に陥っていた。天下無敵騎兵隊を壊滅させた、グシオンを先頭にした一隊は、ガミュギュンの本隊の末尾に食いついた。
「陛下!叔父上を攻めては不義!早く、軍に叔父上のいる隊を攻撃するなとの布告を!」
宰相の一人が、自らも追撃に出ようとするアガレスの前に息せき切って、立ち塞がるように叫んだ。近衛達が彼を捕らえようとしたが、アガレスが止めた。
「戦いに躊躇はできない。」
と、彼の顔を疑うように見ながら言った。その脇から、パエラが彼の前に立った。
「陛下!彼の言い分ももっともではないかと。」
意外な援軍に驚いた顔をしたが、ホッとしてもし、更に話を進めようとした。が、それを遮るように出たパエラの言葉は意外なものだった。
「叔父君のご葬式は、やはり王族でありますから、それなりの格式が必要かと思います。また、捕虜なった場合の処遇も同じかと。今のうちに準備しておくべきかと、彼の言うとおり。」
唖然とし、しばらくしてから自分に降りかかることの恐ろしさに気がついた。
「分かったよ。叔父上の死を予想しての意見、よく分かった。その件は君に任そう。」
とアガレスは厳かに、彼に命じた。
「彼が、ガミュギュン様が確実に敗死されるから、然るべき葬式を準備すべきと論じたと流しましょう。」
“魔女よね。”
彼の手伝いを依頼されたウァサガが、妖しい笑みを浮かべて言ったのを見てパエラは思った。もちろん、彼女にそれを期待したのだが、アガレスもパエラも、何も言わずに察する彼女を心底怖いと感じた。ガミュギュンのために彼は動いている。ブエルが、彼を利用しているのもわかっている。そして、この結果、ガミュギュンの死を言い立てる形となってしまった彼をブエルは赦さないことも分かっていた。さらに、これでブエルの徒党からの裏切りがかなり出ることも予想ができた。庇護を求めての。ブエルは、彼を殺すだろう。それは、彼にとってマイナスに作用するが、彼は分かっているが、彼を赦せないだろう。ガミュギュンの死を口にしたことになり、それが実現してしまってはなおさらだった。
「手を下すことなく、見せしめになってくれますわ。」
そう言って頭を下げるウァサガにも、その言葉に頷くアガレスにも、パエラは怖くなった。しかし、それに満足している自分にも怖くなった。
グシオンは、今こそ見せ場とばかりに出てきた、ガミュギュンの軍側の勇者をいなして、ガミュギュンの本隊に肉薄した。が、ガミュギュンは負傷したものの逃げおおせた。グシオンは、ある程度のところで兵を止め、後方から来たアガレスの本隊と合流、残敵の掃蕩を始めた。
しかし、ガミュギュンはこの後、さらに負傷、深傷を負うことになり、途中で駆けつけたブエルに後を託して死んだ、バイエンの追撃の結果だった。
ブエルは、本拠地に戻って、その場にはいなかったが、彼が指示した竜虎の陣形13段で、ガミュギュンの撤退を援護しようとした。10剣士を主体とする精鋭達とブエル工夫の武器、魔具、魔道士達、魔獣などを揃えていた。
バイエンの側は、彼子飼いの七将と称される若者達などの精鋭と充実した銃砲を持って砦から打って出た。さらに、追撃する側である彼の軍がいつの間にか野戦陣地を築城して、そこから出撃してきたのである。10剣士達は全滅し、陣形は突き崩されたが、ガミュギュンが、何とかその場を逃れることができたのは、彼の陣形、作戦、兵器と何のかんのとはいえ勇者とその仲間達の奮戦のおかげであった。その勇者達は、ガミュギュンを守れなかった責任を、ブエルから追求され、処刑された。
ガミュギュン亡き後、ブエルがまとめた将兵は、故ガミュギュンの大公領に何とか、本当に何とか整然と逃れることができた。
内乱は、終わった。
各戦線から、王都に将兵が集まって来ていた。
魔族間の戦いも終わっていた。勇者イボンと女魔王アウマ、第二王子ウァレファル達は、グシオンを送り出すために、彼に
「国王陛下のもとに駆けつけてくれ!後は、私達に任せてくれ!」
と皆で、アガレスにここで勝ちまくれと命じられているとこだわるグシオンを説得した。兵を僅か数百人しか率いて行かなかったとはいえ、彼が抜けることは大きな戦力のマイナスになる。それは、彼もよく分かっていた。だが、彼らの力も分かっていたし、彼らの熱意に勝てなかった。
そして、彼が王都に来援したことで、全ての均衡が崩れ、全てがこちらに傾いたのだ。
もちろん、戦いの勝利の功績が彼だけにあるわけではない。彼の素早い進軍、強行軍は、パエラの父ダビ公爵が、自分の領地、関係先を掌握し、彼を支援したからできたことでもある。彼を死なせずに、彼を使える状態にできたことが重要だった。
「あの時、彼と合流できていれば、まだ戦えたのよね。」
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