第49話 王都決戦3

“あの時は、どのくらいで落ちたかしら?それでも、1カ月はかかったかしら?”とパエラは、塔の上から、アガレスとともに、王都の周辺を見下ろしていた。

 ガミュギュンは、主力を率いて強行軍でやって来た。彼らの軍に加わる者も相次いだ。猛烈な勢いで、包囲陣地を作り上げ、王都攻略を開始した。

 しかし、それは王都周辺に、やはり昼夜兼行で築城した野戦陣地ひ阻まれ、一進一退が続いていた。大攻勢をかけるものの突破できずにいた。バイエンが駆けつけて、王都の守備とともに野戦陣地構築の準備を整えたのである。今は、既に本来ならの戦線に戻っていた。ブエル自慢の攻城戦の戦術も、通用していなかった。

「大丈夫なんだろうな?」

「ここまできて何を言っているのよ?やるしかないのよ。」

 パティアとウァレンフォアだった。彼女達の後ろには、踊り子の身なりをした女達が10人ほどとその付き人の男女十数人が従っていた。元王妃バルバトサに招かれた一団ということになっていた。

 ウァレンフォアは、自慢の長い見事な金髪を、短く切り、くすんだ、金髪には見えない色に変えていた。パティアは、フードをかぶり、少しでも背を高く見せるために、厚底のかつ極端なヒールを履いていた。元王妃、一応王太后、正妃と正式に認められていないため、当然正式な王太后ではないが、と第3王子の救出が一応、第1目的である。一応というのは、アガレス暗殺が可能なら、それを優先させること、王太后母子の生死は問わないということになっていたからだ。

「ここまで、手配してあげたんだから、失敗しないでちょうだいよ。」

「ふん。わしを見損なうな。わし一人でも十分だが、此奴らがこれだけおるんだ。」

 チラリと後ろの煽情的なドレスの踊り子達に視線を向けた。ハイエルフの暗殺部族である、彼女らは。正確には、ハイエルフが使う、ハイエルフからいわゆる、人間達の言うダークエルフまで含んだ集団である。ハイエルフの少数部族が身寄りのないエルフの少女達を引き取り、暗殺者に仕立てたのである。

「グシオンの暗殺には失敗したと聞いてるわよ。」

「あやつは、ここにはおらね。」

 そう言いつつも不安を感じてならなかった。それでも、二人は臆してはいなかった。数日前の、ガミュギュンの戴冠式での感動が二人の気持ちを後押ししていた。形ばかりの戴冠式を彼は、この戦場で行った。ライバルであるアガレスが、父親の喪ということで正式な戴冠式を行っていないことから、正当性を得る先手と集まって来た勢力、軍の士気を高めるためであった。“それよりも。”と二人は思った。死んだ“あやつらのためなのだ。”と二人は思った。二人も含めた六人が、王妃の冠を彼から授けられた。生きているのは、その場にいたのは4人だけだった。ブエルの演出の妙が大きかったが、天幕の中で、全て粗末な代用品しかなかったが、ガミュギュンから放たれるオーラで、そこにいた誰もが感動に包まれた。この二人も、王妃として選ばれた喜びに包まれた。だからこそ、彼の勝利のために命を捧げることに迷いはなかった。“この小娘、此奴らがここまで手配できるとはな。なかなかやるわ。この後の締めくくりは、我がしっかりしないとな。”

 一行は、王宮の大広間に入った。王太后は、内乱で心を痛め、気持ちが落ち込んでいることから、それを晴らすために舞踊団を招き、国王夫妻、第一王女も参列することとなっていた。彼らが入った時には、他の踊り子の一団が反対側に陣取っていた。清楚な出で立ちの舞姫達だった。その傍らに、数人のフードをかぶった面々がいた。

 ここでは、踊りだけを見せて、王宮で夜を過ごすこととなるから、彼女達の色香で入り込み、暗殺、破壊活動を行うのも悪くはなかった。彼女達は、官能の罠も、戦闘力も超一流だった。特に色香の方は、エルフばなれしたゴージャスな肉体をしたものもいる。あらゆるタイプが揃っている。

「それもよいが。」

 今、アガレス達が揃っている。護衛がいるが、質量ともに戦闘力は圧倒的に上回っている。あちら側にいる踊り子達は元々戦力ですらない。戦う義務も、意思もないのだから。“ここでやりましょう。”“ここでやる。”二人は小さく頷いた。その時だった。もう一方の踊り子の一人が、つかつかと歩き出し、彼女達とアガレス達の間に立った。

「エルフの死の踊り子さん方、これ以上は行かせませんよ!」

 その女は、扇をサッと開いて、冷たい笑いを浮かべた。

「何のことでしょうか?私達は、王太后様をお喜び申し上げるために招かれたもの。そこをお退きいただけませんか?」

 慌てることなく、平然と答えるウァレンフォアに、“小娘。なかなかやるではないか。”とそれ以上に落ちついた風情のパティアは感心したが、

「あなた方、そこにいるのはお仲間でしょう、以前の?」

 その言葉を合図に、彼女の後方のフードを被っていた一団が、一斉にかなぐり捨てた。

「お、お前たち!」

 グシオン暗殺に失敗して、死んだはずの連中だった。

「生き残りがいたのよ。グシオン様が説得したら、素直に改心したのよ。あ、ちなみに他の女達の大半を殺したのは、わ、た、し。」

「私が殺した方が多かったぞ。」

 声がした方を見ると、グシオンの女騎士シュトレアが、いつの間にか立っていた。

「まさか、グシオンが?馬鹿な、足止めされていたはず…。」

「ごめん、ごめん。失敗しちゃたよ。」

 頭をかく女が現れた。彼女、レアイアはブエラから、反乱した都市を制圧したグシオンは、そこで兵や糧食、資金を調達する、当然市民に不満が出る、それを扇動して彼の動きを押さえるように指示を受けていた。彼女は、彼女自身もブエルも、それができると信じていた。人は、利益、利益追求の自由を求めると信じていた、彼女は。グシオンが、意外に行政官としても有能であり、短時間のうちに治安、秩序を確立していることは知っていたが、すぐに崩せると思っていた。が、失敗した。反発を受けたのは彼女方で、あっという間に摘発されてしまった、突き出されたという方が近い。グシオンは、彼女の能力を評価して助け、自分の幕僚に加えた。それに打たれて、すっかり心服している。そして、彼が秩序を確保すること自体に利益を感じるものである以上に、巧みに民衆の利益も考慮され、さらに、それに留まらない感情を彼は作り出していたのである。その彼が慕うのが異母兄のアガレスであり、グシオンを支える民政担当官僚は、アガレス、パエラが彼に付けたことも知った。彼女らは、グシオンとともにアガレスに従うことに、疑問を感じなくなったのである。

「こ、この裏切り者ども!恥を知れ!ここにいる謀反人共は、皆殺しじゃ!」

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