第48話 王都決戦2
国王の王都帰還は、どうしても必要だった。各地域、各勢力を調整し、内乱中とはいえ国政を進めるためには国王が必要だったのだ。
「お兄様。申し訳ありません。私の力不足でどうしようもなく。」
「なに言っているんだ。お前だからこそ、ここまで支えてくれたと思っているよ。」
「そうですよ。」
第一王女マルバスアに、国王夫妻、アガレスとパエラはしきりに慰めることが、初めの仕事だった。彼女は、すっかり疲れ切っているようだった。次から次へと難題が、国中の対立する諸勢力との調整、決定しなければならない事態が発生したのである。戦いや治安の維持などは、それに比べれば気が楽なほどだった。
「良くやってくれたよ。」
「そうですよ。」
とアガレスとパエラが慰めた。その彼女が、数日後には強行軍で王都に戻ったアガレスが日夜、懸案解決のために苦悩し、パエラがそれを支えている姿を見て、
「流石にお兄様ですわ。次々に懸案を解決されて…。でも、私にも頼ってください!」
と両手を握って、力づける立場になったいた。“こんの~を、ブラコン娘!”と思ったが、そういう彼女には、彼女のために、アガレスに献身的に仕えるシスコン弟達がいるのであったが。弟達は、各戦線で兵を率いて、妹はダビ家の所領の一つの管理、防衛に奮闘していた。
とはいえ、人材はいくらでも必要だった。
「あちらはどう?」
「あのくそババア、あやしい連中と接触してるんですよ。その先には、あの小娘が…。」
その言葉に、パエラは流石に苦笑した。ババアとは、前国王の愛妃であり、第3王子の母である。小娘は、ガミュギュンの王都での愛人である。どちらも彼女とさほど年齢の差はないのだ。
“でも、気になることがあるのよね、他にも。王都への侵攻では確か…。”
“お、お兄ちゃん、助けて!”
と心の中で叫ぶ長い見事な黒髪の若い美人を抱きしめた、やはり黒髪の若い男が、
「わ、私のことはいい。妹だけは助けてくれ。見逃して…逃がしてくれ!」
と蒼白な顔で、周囲の武装した兵士達に懇願する光景が展開されたのは、アガレスとパエラの王都帰還から一カ月もたっていなかった。
二人は、ゼパル侯爵ボティスとその妹のエルゴル伯爵夫人バティアだった。彼女は、1年少し前に、エルゴル伯爵と結婚したばかりだった。ゼパル侯爵自身が結婚して2年弱でしかなかった。
「お兄様。どうしてこんな所に?」
「それはこっちのセリフだよ。お前は、北辺大公の傘下に入ると…。」
「は~?それは兄さんでは?陛下を裏切ると言い出したと言うので、慌てて駆けつけて…。」
彼女は、“兄上はどちらだ。ご意見しに来ました!”と勢い込んで、乗り込んで来たのであるが。二人が対面したのは、地下牢の中だった。
「あの女…義姉上は…、あ!」
彼女は、バティアを迎え、捕らえて、牢獄に連れて行かせたのだ。だから…。
「ちなみに、私をここに押し込めた連中の先頭にいたのは、お前の夫だよ。弟もいたが。」
「えー!そんな~。あの馬鹿ー!」
頭が混乱しているうちに、牢獄の前に、跪いた男が、
「侯爵閣下。お助けに参りました。」
それに従わざるを得なかった。そのまま城外に出て、しばらく行き、一目のないところまで来たとき、従っていたはずの30人ほどの男女の戦士に囲まれていた。護身のための武器も手渡されることもなかったため、嫌な予感がしてはいた。自分からでていって、死んでくれた方がいいのだ。
「お兄ちゃんが死んだら駄目よ~!」
抱きしめ合う二人に同情する素振りもなく、なぶり殺す快感に酔い始めていた。が、彼らの後ろから悲鳴が上がり、あっという間に乱闘が始まった。
「若。もう大丈夫です。」
二人の目の前に、跪き、いかにも緊張しつつも、ホッとした顔をあげているのは、二人の幼い頃から仕えている老臣だった。彼の説明だと、状況は分からなかったが、二人の身に大変なことが起こっているというこだけはわかったので、集められるだけの仲間で、僅か数人、中には年輩の侍女まで入っていた、助けに赴こうとしたが、警戒が厳しく入り込めずにいたところ、出て来た一団の中に二人がいるのを確認した。しかし、周囲を囲む連中の雰囲気に違和感を感じて、合流することなく、様子を見ながら、後を着いてきたと言うことだった。
「ありがとう。また、爺や達に助けられたな。」
「ありがとう、爺や。」
二人の感謝の言葉に、思わず涙を流す彼とその後ろの数人だったが、
「我々だけでは、とてもお救いできませんでした。この方々が…。」
さらに十数人の兵士達が跪いているのが分かった。
「国王陛下から、もしもの時にお救いするよう命じられておりました。閣下の忠信、陛下も心より嬉しく思われておられるでしょう。とにかく今は、急ぎ安全なところに。」
とその長と思われる男が早口で、せかすように言った。
「既に、騎兵の一部が入城した模様です。」
報告を聞きながら、動揺を隠し、対策を考えている風のアガレスを見ながら、“やっぱり、こうきたか。”とパエラは思った。
ゼパル侯爵領が勢力圏に入れば、王都への侵攻は容易になるし、侯爵領には王都防衛の要の城塞もある。それが落ちたのだ。
“強行軍で大公は、本隊を率いて進軍しているだろうな。王都での決戦となるな。加わる者もさらにでるか。”はアガレス。
“でも、完璧ではないわね。後方を落としてないわ。ゆっくりとはいかないわね、あの時に比べると。”とはパエラ。
“勝てる見込みはある。”と二人は思っていた。
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