第46話 どちらとも勝利した?

「お嬢様!お力になればと思い駆けつけて参りました。」

 パエラの父の飛び地のような領地の有力者の女が、農民達を引き連れて、囲みを突破し食糧などの物資を届けに来たのだ。パエラは涙を流し、彼女をはじめとする面々の手を取り感謝の言葉を口にした。

「代々のご恩に報いる時と思い…。」

 一行を無事に連れてきたのは、その地の子飼いのような地方騎士の面々だった。彼らにも、パエラは泣いて感謝した。

 これは、バイエンの手配のおかげであることを、程なくしてアガレスから聞かされた。

「全て君のおかげだよ。」

「そんな…彼の功績ですわ。領民達の気持ち…、そ、それにアガレス様が彼を抜擢して…、それに政策が…。」

とパエラは言ったが、アガレスは彼を見いだしたのはパエラであり、領民は彼女を慕ってのことであり、だから、パエラに助けともらっているという思いで一杯だった。“ちょっと~。”と、パエラは思ったものの、アガレスはこのことでの結果を見る目は冷静だった。何とか持ちこたえられる時間、日数が、増えた、士気が上がった、しかし、それで勝てる訳ではない。“相手も苦しい、先に根をあげる、を期待せざるを得ない…。”顔にも、態度にも、指揮、作戦にも、その焦りが出ないようにと、彼は何とか抑えようとしていた。まあ、周囲からは、バレバレで同情され、“我らが何とかせねば!”となっていたが。

 数日後、これ以上は…、と感じて、いつ、どうやって退くかを考えていた時、ガミュギュンの軍が退いていった。

 その前日まで、ここぞとばかりの攻勢を受けていた時でもあり、アガレス、パエラをはじめ、意外に感じたのだった。“あの時も、補給が結構厳しかったけど…。”

 その日、数で劣る銃砲を集中的に配分された一隊を中心に攻勢をかけてきた。アガレスとパエラも銃を、特に銃身の長い狙撃用の銃を構えた。二人の支援系魔法は、その照準、弾道、初速、射程、弾丸そのものを強化することが出来た。相手側の隊長クラスを次々に負傷させていった。そして、二人の銃の筒先が一番中心にいた女指揮官に向けられてた。とっさに脇にいた魔導師達が、防御結界を張ったが、二人の銃弾はそれを突き抜けて、彼女の胸板を、豊かな胸だったが、貫いて体内で破裂した。

 それを見て、重装甲騎兵の指揮官が猛然と、突進してきた。それに部下達も従う。集中される銃弾、アガレスの近衛兵達が左右から攻撃する。しかし、損害をものともせずに、死体の山を作りながらも、指揮官を守り彼らは進んできた。

「義兄者の仇!義兄者の妃様まで!恥を知れ!」

 アガレスに、まっしぐらに進んできた。聖鎧が銃弾を弾く。アガレスとパエラの銃弾が、聖鎧の一部分を弾き飛ばす。そこに銃弾が命中するが、流れる血をものともせずに駈ける。ついに聖矛が、二人を捉えた。逞しい男だった。アガレスとパエラが構えた剣が、砕け散る。次の一撃が…。その時、数人の男女の魔導師達が血を流しながらも、詠唱を奏でていた。彼を支援してだ。二人が聖槍を弾いたことへの対策だった。が、聖矛の一撃は、再度、その持ち主と共に弾き飛ばされた。彼は、自分を援護しているはずの魔導師達を見た。彼らは、一人も立っていなかった。全員殺されていた。彼らを、防御結界で守っていた魔導師達と護衛兵達と共に。一撃の直前、アガレスの近衛兵の精鋭達に蹂躙されたのだ。起き上がろうとする彼に、上から、至近距離で銃弾が撃たれた。激痛に苦しみながらも立ち上がろうとした彼に、

「間に合わなくても、国王夫妻の力で、愛の力かな、お前さんは弾かれていたよ。」

 頭の上から聞こえた言葉に、

「偽物が。」

 それ以上は、永遠に言うことは出来なかった。

 そして、二人の死が、ガミュギュンの撤退のきっかけとなった。

「陛下!駄目です。冷静になって下さい!」

「義弟殿達も、陛下を危険な目に遭わせるために、亡くなられたのではありません!」

「そうです。ブルソナだって、自分の死で陛下が危うくなったと死ったら、泣きますよ!」

 ボティサ、パティア、サレオサ、彼の3人の愛妃達が必死になって、自ら陣頭指揮どころか、自ら斬り込んで、アガレスを義弟達、愛妃ブルソナの仇をうつ、アガレスを斬り殺すと、号泣しながら飛びだそうとするガミュギュンにすがりついて、止めようとした。

 彼女らの夫にかかれば、簒奪者アガレスなど一刀のもとに斬り伏せることは確実だと信じて疑わない彼女らだったが、豪傑無双の彼の義弟達を、知将であり、魔法も武術も一流のブルソナが、どういう卑怯な手段を使ったかは分からないが倒されて、空しくなって帰ってきたのである。ここは、止めなければならないと感じたのだった。“ブエル殿。早く戻って!”3人は心の中で一致した叫びをあげていた。

 そのブエルは、なんと、その直ぐ後に姿を、現した。さすがに疲労困憊といった感じだった。物資補給、後方地の安定化、本拠地の統治、同盟軍との交渉、謀略に八面六臂、各地をまわっていた。それ故、前線を他人に任せなければならなかった。彼がもう一人前線にいれば、このような事態にはならなかったろう。だが、彼が二人いた場合、並び立ち得たであろうか、は疑問であるが。

「一旦、前線を後退しましょう。」

と彼は意外なことを言った。半日の道のりに、拠点となる城を築城した。元からあった城壁を持った小都市に徹底的に、短時間のうちに手を入れて、拠点となる城塞に仕立て上げたのだ。

「彼らは、我が軍が後退すれば退かざるを得ません。我が軍は、事実上、ここに留まることになり、彼らは撤退し、我が軍の勝利が確定いたします。」

 後退に際して、彼らが追撃してくれば、数倍の損害を与えて、無事後退出来ると胸を張った。物資の不足は深刻で、実際、もう戦うのは限界に近かった。新たな拠点で、しばらく充足を待たざるを得ないのである。

 巧みな弁舌と誠実さを前にして、愛妾達の涙に、流石のガミュギュンも折れた。

 ガミュギュンの軍の後退に、アガレスの軍に追撃をかける余力はほとんど残ってはいなかった。だが、それでも、狙撃と少数の部隊での最後尾への小規模な襲撃を行った。

 ブエルは、それに対応するための伏兵を、巧みに配していた。が、それはことごとく蹴散らされた。ただ、ガミュギュンの軍は、大きな損害もなく、後退し、新たな城に入城できたのは事実だった。

 アガレスの国王軍は、この後しばらくして、戦場から撤兵したので、ブエルは勝利を宣言した。

 アガレスの側の防御線は、逆に多少とも前進したので、当然勝利を主張した。

“とりあえず、負けなかったことを是としましょうか?”

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る