第45話 続出する裏切り 3

対峙した両軍は、同じような戦術をとった。戦場の各地に、野戦陣地を構築しながら、それを拠点にしながら、相手に攻撃をかけた。野戦と小規模な攻城戦が隣り合わせで展開される構図となっていた。持久戦になりつつあるように思われた。持久戦は、今の所、ガミュギュンにやや不利だった。国王軍が、やや押し気味の戦況となった時に、

“ああ、やっぱりこうなるのね。”

 その時まで優勢だったのだ。最初から資材を規格化して加工しておいて、さらに作業手順も規格化して、最小限の手間と時間で組み立てられるようにしておいて、その作業に熟練させた者達からなる部隊を編成しておいた。賢妻と工夫した便利道具や魔法を駆使した、それより早く、堅固な野戦陣地が構築され、より多い銃砲の火力、魔法もそれを利用、補助して、相互作用でより威力を増している、によりガミュギュの軍の大攻勢を凌いでいた。凌いでいるだけでなく、押し返していた、一部では。“この状態を見れば、反旗を掲げるのは止めるのでは?”とパエラも、ふと思ったのだが。ただ、ガミュギュン側の激しい攻勢は見た目が派手で、それに目が奪われたのかもしれないし、それが自分達の裏切りをせっついている、強迫していると感じたのかもしれない。両方を計算したのかもしれない。

「これしきの裏切り、大したことはありませんわ!押し返せますわ!」

 パエラが叫んだ。アガレスは、動揺してはいなかったし、絶望してはいなかった。二人の態度が影響したせいか、本隊は動揺しなかった。各陣地、バイエン子飼いの7人が構築し、指揮している野戦陣地は包囲されながらも戦い続けていた。若い男女らだったが、その指揮する姿は、目を見張るものだった。

 それでも、ここぞとばかりにかける大攻勢に、何とか耐えるので精一杯だった。アガレス自ら銃を撃つまでになっていた。その銃の弾込めをしていたパエラが、銃を、構えて撃ち始めた。

「パエラ。危ない。」

 銃の狙いを定め、撃つという動作は、敵に見える、見えれば、矢弾、投石が飛んでくるし、魔法攻撃もくる。アガレスの心配を、

「大丈夫です。アガレス様が弾よけになってくれてますから。」

と平然と言うパエラに、“あー!なま温かいのが…。鼻をつまんで~、火薬の臭いでわからないわよね?”、

「王妃様を死なせるな!」

との声が上がり、敵を押し返し始めた。

 その時、聖鎧やドアーフの盾着て、構えて突入してくる騎馬隊がいた。矢弾石槍が集中し、魔道士やエルフも危険を顧みず、正面に立って、魔法攻撃を放った。次々に落伍する者がいたが、構わず突進して、アガレスとパエラのいる本陣になだれ込んだ。

「来るなー!」

とパエラは、手近に見つけた槍を横殴りにふるい、アガレスは大盾を振り回して敵兵を吹っ飛ばした。聖槍、多分、を振りかざした大男か、二人の前に立ち塞がった。

「パエラ!」

「アガレス様!」

 二人が、互いをかばい合って倒れたところに、その聖槍が突き出された。男は、二人を突き刺した後に、自分が叫ぶ言葉が頭の中を流れるのを聞いた。が、彼は、聖槍ごと吹き飛ばされた。それに巻き込まれる形で、馬ごと飛ばされた。

「あ、れ?」

「あらら?」

キョトンする二人を尻目に、グシオン選抜の近衛兵小隊が、聖槍使いの大男共々、突入してきた騎馬隊を一掃した。

「君が?」

「あなたでしょう?」

と言い合うアガレスとパエラに、

「驚きました、陛下、王妃様!」

 グシオン選抜近衛兵小隊のエルフが、興奮して言った。

「衝撃防御魔法を、しかも聖槍を圧倒するほどの威力のあるものを、お使いになられるとは。それも、お二人で一体で発動されるなど、我らエルフでも聞いたことがありません。」

「そうなのか?」

「そうなんでしょう?」

 顔を見合わせる二人だった。二人も魔法は使えた。どちらも生活系、支援系の魔法だった。こんなものが使えたとは知らなかったから、唖然としていた。

 それを境にして、戦いの潮の目が再び変わってきた。勢いに乗じて、アガレスの兵が、ガミュギュンの軍を突き崩して、押し返し、ずるずるとガミュギュンの兵が後退していった。あくまでも戦線の一部でのことだったが。だが、時を同じくして、反旗を翻した軍の幾つかが崩れ、それを見て勢いづいたアガレスの諸隊の攻勢で、ガミュギュンの軍が、一部ながらも壊走し始めた。

 反旗を翻した軍の中で少数ながらも、それをよしとしない隊が決起したのだ。

「若。ここは、我らが殿軍となりますから、撤退を。」

 ”若“に、アガレスもパエラも苦笑した。彼の実母に縁の強い場所である。その地の有力者で、元軍人で義勇軍を率いて参加していた初老の大柄な、かなり頭がはげ上がった男であった。彼は、アガレスの前に跪いていた。彼は、アガレスのために死ぬ気なのだ、ということはよく分かった。既視感を感じた。彼とともに戦い、そして敗れた時も、禅譲して僻地の領地に赴く時も、随行を申し出た、従った者達がいた。

 あの、ガミュギュンの妻としてアガレスの敗北を楽しんだ時、この男は?アガレスのために戦い、決起した農民軍に捕らえられ、処刑された者達がいた。あの農民達は、ガミュギュンを慕って決起し、彼の下にはせ参じた、とあの時は信じていたが、事実はどうだったのだろうか、そもそも彼らは本当に農民達だったのだろうか?

 そんなことも考えた。“彼の妻であった時は信じたけど。”

「我らが主のために、不落の砦を作りました。」

 そう言って、彼と自分の前に平伏する粗末な服装の男女を見て、満足感を味わったものだ。“彼を敵とした時は?”至る所で、彼のために決起する農民達に苦渋を舐めさせられたのを覚えていた。“皆殺しにしてやりなさい!”と思ったことも一度や二度ではなかった。結局口には出さなかった。それは、アガレスにそのつもりが全くなかったからであり、度々、

「我らの真意では、ありません!」

と言いにくる、その地の農民達がいたし、自分達を助け、自分達を守るために戦う農民達が現れたからだった。

「なにを言っていますの?まだ、諦める時ではありませんわ!」


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