第44話 続出する裏切り 2

 グシオンは、国の南部を西に東に南にと、東奔西走して、戦い、勝利し続けていた。

「私のことは考えるな。私は、お前に命令する。勝って、勝って勝ち続けろ!」

 アガレスは、それを玉座から文武百官議員全員が集うところで、跪くグシオンに命じたのだった。彼は僅か数千の騎兵を主体とした軍勢を率いて、豊富な銃砲を与えられているとはいえ、数で勝る、時には魔族も加わる相手に、勝ち続けていた。

「グシオンを支えてくれ。私は、戦線全体を支えるお前を見ているから。」

 アガレスは、次弟に説明した。彼の本心でもある。第二王子ウァレファルは、卑しい身分の母親の子供であり、自分の母親と対立するような関係の妃であったから、グシオンという異母弟には反感を感じていた、アガレスに対するのとは違って。しかし、異母兄アガレスの自分を見る目、グシオンへの扱い、グシオンの彼への態度を見て気持ちが変わっていった。バイエンの盟友を参謀につけられ、グシオンや女魔王・勇者を支え、南部戦線全体を支える役割を全うしていた。こちらには、アガレスの実母、自分達の母の縁が濃い地域が多く、こちらも有利に働いていた。それでも、裏切りが続出していた。

 グシオンは、後方の軍が反旗を翻しても、完全に包囲されても、慌てるどころか、

「そうか。」

とだけ言って、不適に、楽しむかのように笑い、彼の周囲の男女の将兵は、そんな彼を信じ込んでいるようだったから、それが伝染し、騎兵・歩兵・砲兵を一体化していた彼の数千の軍は、一糸乱れず勝利を勝ち得てしまった。

 そのグシオンの軍と王都周辺の反乱を制圧したアガレス自ら率いた援軍が、包囲されながらも持ちこたえていたウァレファル王子の軍の前に現れ、包囲する反乱軍を押し返したこともあった。南部戦線は、外国軍の侵攻もあり、その後も戦い続けなければならず、

「こちらのことはかまうな、考えるな。お前達が勝つことだけを考えろ。お前達が勝ち続けることで、相手の計画を壊すことになるのだから。」

アガレスは、義兄の応援に1日でも早く赴くことを考えているウァレファル王子を口を酸っぱくして諭した。実は、グシオンの心情も同じだった。

 とはいえ、それが対ガミュギュンの本隊との戦いで後手にまわってしまったのは事実である。

「このくらいの裏切りは、気にしてはなりませんわ!」

 パエラは、アガレスの両手を、自らの両手で握りしめながら、彼の顔を見つめて、力強く言った。“今回は、この程度で収まっている…この程度なら…何とかなるわ。何とかするのよ!しっかりして!あ…もちろん私も頑張りますわ。”パエラは、心の中で自分で突っ込みを入れて、自分でぼけていた。そうでもしないと、平静でいられなかったし、それで何とかアガレスの前では、何とか毅然としていられたのだ。バイエンはいなかったし、グシオンはもっと少ない兵力で転戦していた。大薙刀を振るう女戦士、幾つもの武器を同時に扱う巨漢の戦士、舞を舞いながら魔法を発動する女魔道士、エルフすら足下に及ばない、かつ強弓の弓の戦士達数十人に支えられて、変幻自在、神出鬼没に戦っていた。どんなに勝っても勝っても、裏切りは止まず、敵は減らなかった。いや、増えていった。

「彼らの奮戦、国家への忠誠心を賞せずには出来ない。賞するためには、私が自ら行かねばならない。彼らを賞しなかったら、さらなる裏切りが出る。」

 アガレスは、慎重策、様子見、楽観論を主張する者達を諭すように言った。

「王妃様からも、陛下の暴挙をお止め下さい。」

 何人かの文武官が、パエラの元を訪れたほどだった。“あ~ら、こいつとあいつは内通していたね。”それは飲み込んだパエラは、

「私も、陛下とともに赴くことにしておりますから。」

 唖然とする彼らの顔を見回して、心の中でほくそ笑んだ。が、アガレスも呆れたという顔をした、当然ながら、後でその話を聞いて。

「私は、ただただ心配して、祈っているだけなんか嫌ですから。それに、私も武装していれば、将兵も分かってくるますわ。」

 アガレスの反論が出る前にまくし立て、彼に抱きついた。

「私は知っていますのよ。あなた様が、私から離れたくないと思っていることも、私の言うことに逆らえないことも。私がそうですから。」

 そう言って見上げて、見つめるパエラにアガレスは逆らうことが出来なくなった。

 どちらともなく唇を重ね、舌を絡ませ合うと、パエラも自分を押さえられなくなり、そのままベッドの上に押し倒されてしまった。翌朝、ベッドの上で並んで天井を見ながら、

「勝ちましょう!」

「ああ、勝とう。」

と言ってから、首を曲げて互いの顔を見て微笑んだ。

“今まで、ここで行かなかったわ。今、止めているあいつも、あいつも、逃げ出して、そのことを得意気にガミュギュンに言いつのっていたのよ。覚えているんだから。”その彼らをも、連れて行かざるを得ないことは不安だった。

「お兄様。王都は、私が命をかけて守ります。ですから、勝利を得てのご帰還を。」

 パエラ同様、甲斐甲斐しい武装姿のマルバスア第一王女は、アガレスとパエラの出陣を、そう言って見送った。彼女に、アガレスは王都の防衛を託していた。バイエンの盟友、義兄弟の軍師とグシオン旗下の護衛隊長が彼女を補佐していた。

「義母様のこと、抜かりなく。」

 パエラが囁くと、

「お姉様。もちろんですわ。」

 マルバスアも囁いた。

「ここは、私めにお任せ下さい。陛下は、勝利を。」

 ウァサガは、後方の補給地で別れた。彼女が、そこで辣腕を振るうことになっていた。

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