第42話 国王暗殺の真相?
「お父様。国王陛下が亡くなられた今、悲しむと同時にやらねばならないことがあります。」
パエラは、父公爵と母公爵夫人、弟達を前にして、厳かに言った。
「アガレス王太子殿下の速やかな国王即位か?」
父の言葉に、パエラは首を振った。
「それは、決まり切った当然のことに過ぎません」
「では?」
「北辺大公ガミュギュン様とのたたかいです。大公様は、アガレス様が父上を暗殺したあるいは、幽閉したとして、兵を挙げます。あの方との戦いです。」
パエラは言い切った。
「しかし、それでは国が分れ…、国土が…。」
「かの人は、ためらいはしませんわ!」
“国王陛下の死の真相…暗殺でも何でもなかったのね。”アガレス達の父、国王が急死した。まさに急死だった。確かに、最近、心身ともに弱って心配されていたが、直ぐに亡くなるというほどではなく、前日にはかなり元気を取り戻していた。それが、その翌日、その目は2度と開かなかった。
あの時、“アガレス王太子が、国王陛下を暗殺した。”“アガレス王太子が、父国王を幽閉した。”とガミュギュンは主張し、兵を挙げた。“事実ではなかったのね。でも、そんなことどうでもよかった、あの時は。”大義名分にして、二人を殺せればいいと、驚喜したことを思い出した。
“それから、あの女よね。”
「殺される!」
といって、子供を連れてガミュギュンと自分のもとに逃げ込んできた。快く迎え入れ、その子をおしたてて、簒奪者アガレス打倒の軍を進めたのだ。“どうなったことやら…。”アガレスの処刑の場に立ち会った時は、まだ彼女ら母子の運命は知らなかった。それは、アガレスと共に戦い、炎上する城の中で毒杯を飲んだ時も同様だった。“ああ。あの時は、引き離されて、密かに殺されていたわね。”さすがには哀れに思ったものだ。助けることが出来なかった、何もしてやれなかったとアガレスは嘆いていたのを思い出した。
「いいですか、父上。アガレス様の次は、我が家なのですよ、あの方の標的は!あの方は、目障りにる存在を許しはしませんのよ!」
詰め寄らんばかりに、説得しようとした。あらゆる面でやり手の父公爵は、ガミュギュンと上手くやっていく自信があった。それはうぬぼれだった。幾分かの不安も持っていた、もちろん。
「あなた。パエラの言うとおりですわ。ここは腹をくくりましょう。」
「そうですよ、母上や姉上の言うとおりです。もはや、姉上と共にアガレス様にかけるしかありません。」
パエラ可愛さからの妻、姉を敬愛する息子達の言葉に、彼も抵抗出来なかった。
「グシオン様をはじめとした有能な部下達が、アガレス様のもとにおりますわ。ここで、我が家が、総力をあげてアガレス様に尽くせば、必ずや正義の女神も、勝利の女神も私達に微笑むはずです!」
“自信はないけど…。”万が一を千に一つ、百に一つにしなければならないのだ。
「そうか。グシオンも、バイエン達も実績を上げてくれているか。」
アガレスは、彼らにつけていた副官達の報告を聞きながら満足そうに頷いた。
「将軍達や知事達を顕彰してやらないとな。」
グシオン達への嫉妬や自分からの離反防止のためである。グシオンを活用したことを評価し、そのことで昇進やら報償をくれてやることにしていた。事前に、そのことをいっておいたのである。あくまで、お前こそ頼りにしているのだと、しておかなければならない。ようは、グシオンが3000の兵力を持つまでになっていればよいのだ。バイエン達も同様だ。グシオンが3000の兵を持てば、数万の軍と渡り合える。いざ戦いが始まれば、連戦連勝の実績、勝利の実績で、1万、2万を率いる将に瞬く間のうちに引き上げることが出来る。バイエン達もそうだ。最悪の場合、その他の将は裏切らなければいい、いや裏切りが一人でも少なく、躊躇して、その行動が遅れてくれればいいとすら、アガレスは思っていた。
“誰と誰が裏切るんだったかしら?”とパエラは、将軍、将校達の顔を見ながら思った。アガレスは、決して彼らを粗略には扱ってはいない。皆を信じて、公平に見て、扱っていた。それは当然であり、やむを得ないことだったが、離反策につけ込まれるのである。正当に評価されていないと感じ、そして、高く評価される、高い地位を約束する言葉に心が動くのである。それを語る語り口が、地位、名誉、富に勧誘されていくことを覆い隠し、背徳感を消し去って、正道に、正義にむかうことを選択したという高揚感すら与えるのである。
そして、膨れ上がったガミュギュンへの援助金削減が決定されると、それを見越して、大々的にぶち上げていた各地の支援のための私財の提供をご破算にした、わるいのは、簒奪者アガレスであると。よく考えれば、そうはならないのだが、全てが上手く演出されていた。
ガミュギュン大公は、兵を挙げた。父である国王を暗殺した簒奪者アガレスを倒し、故国王が次期国王として選んでいた、正当な者を王座に据えるとして、15万人の将兵を20万人と号して、軍を南下させたのだった。
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