第37話 ついに凱旋?

 王都に向け出発する馬車の列に、期せずして集まっていた群衆が名残惜しそうに手をいつまでも振っていた。

 窓越しに、アガレスは、“当たり前のことしかしてないのだが…”と思い、これからのことに思いをよせると、心が痛んだ。パエラは、“あの人達の中から、どれだけ死なせてしまうのかしら?もう選択してしまった…何とか変えられない?”と考えあぐねていた。“でも、惨めに死にたくないのよ。あの時は、どうして負けると思った戦いを決意したり、共に毒杯を飲もうと思ったのかしら?”とも思った。

「アガレス様。私は、もうあなたとどこまでもご一緒しますからね。」

 彼の肩に頭を置いて、手を握った。この言葉が、どの気持ちから出てきたのか、彼女自身も分からなかった。“そうだ。パエラを守らねばならないんだ。私のためについてきてくれた彼女を。そのためには…。全てを飲み込むんだ、選択の余地はないんだ!”優しくパエラを抱きしめた。“も、もう、戻れないのよ、戻れないのよ!”と自分自身に向けて心の中で叫んだ。

「すまない。」

 アガレスの言葉に、

「私は選んだのです。謝らないで下さい。」

 パエラの口にした言葉だった。

“アガレス様。パエラ様。”ウァサガは、表情を押さえながら、心の中で呟いた。“わ、私は…。”

 彼女の母は、単純に王都への帰還を喜んでいる。アガレス達のためでもあるが、王都に帰れることがうれしいのだ。そして、その次に、彼女の結婚をしきりに口にした。

 バイエンやグシオンは、アガレスとパエラのために戦う、それは色々な意味で、ことに頭がいっぱいだった。“私は、何を迷っているんだ?”

「ウァサガ。母上の馬車に移っていいのだよ。」

「そうよ。長い時間、馬車に揺られていては、良くなった体も、また、悪くなるかもしれないわよ。見ていてあげた方がいいわよ。」

 アガレスとパエラが心配そうに言うと、彼女はにっこり笑って、

「ご配慮ありがとうございます。でも、そのようなことをしたら、母から、また叱られてしまいますから。」

 それは事実だった。彼女は、自分のために馬車を仕立てくれたアガレス達に、彼女なりの忠誠を示そうとしていたのだ。

「高貴なものとして用いられたなら、高貴な者としての忠義を尽くすものです!」

 母の言い分だった。それは分かる、理解する彼女ではあったが、“国のこと、国民のことを考えるべきでは?”と思っていた。このままでは、アガレスとパエラは、ガミュギュンとの戦いを始めざるを得ない。内戦である。多くの人が死に、国土は荒廃する。二人があっさり死ねば、それはないのである。“そんなことを本気で考えているわけではないのです!”心の中で必死に弁明を叫んでいたが。

“アガレス様は、パエラ様さえ無事に、幸福になればと思っておられる。でも、パエラ様はアガレス様を選んだ。皆が言うように、ガミュギュン様が、アガレス様を見逃すはずはない。パエラ様がアガレス様と共にいることを選ばれた。甘えているだけのようで、強い決意で選ばれたのだ、全てを予想した上で。アガレス様は、パエラ様を守るために戦わざるを得ない。どうなろうと、それしかないのだ。あの方には、それが一番大切なのだ。私は、お二人を守りたい。それだけの恩義がある、母が今無事でいるのは、お二人のおかげだし、今の地位は、やはりお二人のおかげだ。だが、それ以上に、お二人の、嫉妬したくなるような関係を守って差し上げたいと思う。でも、結果、国は乱れ、荒廃する。それでいいの?お二人も、そのことを気にしておられるではありませんか?”

 彼女は、堂々巡りの中に入り込んで悩んでいた。

“ガミュギュン様は、全てを支配するような方。その元に全ての国民が、平等に、国民議会、国民国家ができる。そういう君主にとっては、それこそが最も利益があり、万全な統治な体制になるのだから…なんて幻想よ!彼なら、大胆に進めるなんて、尚更幻想よ!”と叫ぶのだが、かなりの人間が考える?信じる?信じたい?願望?を彼女も捨てがたいものを感じていた。現国王が、アガレスが進めてきた、微温的な進展ではなく、ガミュギュンなら大胆に進める、果断で、とも感じてならなかった。考えていると言うより、信じたい気持ちがそのたびに頭をもたげた。

 そうこうしているうちに、今回は邪魔もなくスムーズに王都の門をくぐることができた。

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