第28話 反抗

 小さな港湾都市エッダの閉じられた門の前に、アガレスとパエラは、じっと立っていた。都市側が、二人の入城を拒否しているのである。反乱、そこまでではないが、抵抗、反抗し、彼を統治者と認めていないのである。ここは、国王の直轄都市である。今は、アガレスに譲られている形である。それ故に、色々負担を強いられるのだが、その見返りの特典、特権がある。それを理解しての上でのとかどうかは、分からないが、彼を拒否している。代官は、事態を収拾できていないようだった。彼の前で代官の説明は、要領を得なかった。バイエン達を付けて、彼を都市の中に帰した。バイエンは、経験が広く、このような交渉も委せられるとアガレスも、ウァサガもおもったのである。

「では、市を代表しえる者達と話し合おう。」

 彼らに状況を説明したバイエン    にアガレスが答えた。その後、バイエンが巧みに取りまとめたため、アガレスとパエラは入城することができた。

 要因は、複数あった。

 代官が長年特権のようにしていた付け届けの半ば義務のようにさせていたことなどの反発。そもそも、王家の統治を受けての負担を強いられる不満。特権階級や上層階級の横暴への中流以下の市民の反発等々である。とはいえ、どれも今、この時に爆発するのか、というものではなかった。代官のことなら、まずアガレスに訴えるという行動がまずあるべきだし、普通ならそうだ。多少だが、王家への直轄状態からアガレスの領地となって、取り敢えず負担は減っていた。

「領主の交代で、不満が噴き出すことはよくありますが。」

 バイエンが意味ありげな顔でパエラに言った。

「あなたの使える方は、我が夫であるアガレス様になったのですよ。何時までも、私の使用人感覚は忘れなさい。」

 にっこりとしながら、彼女は窘めた。

「申し訳ありません。」

 一礼してから、彼はアガレスの方に向き直って、口を開けようとした。

「いい。聞こえていたから。それで、例の嫌がらせというところかね?」

 穏やかな表情ながらも、バイエンを確かめるように尋ねた。

「多分。ただ。」

「ただ?」

「どうも工作が雑な感じです。本当に、単なる嫌がらせ、さほど能力のない者を1人送ってきたというところかと。アガレス様を、かなり見くびっているかと。」

 悪戯っぽい目だった。

「それは、悔しいが幸いだね。それで、そいつはまだ市内にいるだろうか?」

 バイエンは、小馬鹿にするように微笑みながら、勿論アガレスにではなくだが、

「その程度の奴は、臆病ですからもういないでしょうし、同時に得てしてグズグズしているものてますから、まだ近くにいるでしょう。」

 少し考えるよう表情になったアガレスだったが、

「分かった。グシオンに探させよう。念のため、市内を調べておいてくれ。」

「そう言われるかと思いまして、既に探索しております。」

 二人はニヤリと笑った。それから、真顔に戻ったアガレスは、それぞれのグループに話はつけてあるか?ついでに分断もしてあるか?」

「既に。閣下さえよければ、何時でも。」

「分かった。まずは、ウァサガに話させてから、会う形にしてくれ。いいかな?」

「分かりました。」

 バイエンは、一礼して部屋を出た。アガレスは、グシオンとウァサガを呼んだ。二人が来ると、まずグシオンに、

「市民を焚きつけた工作員が、市外に出たらしい。すたこらさっさと逃げるつもりだろうから、すぐに捜して捕まえてくれ。」

「分かりました。」

 グシオンは、不適に笑うと、あれ、いつの間に?と思えるくらいの早さで消えていた。ウァサガは、彼が消えた方向から、視線をアガレスに戻し、

「私は?」

「バイエンの工作で、各グループがそれぞれやってくる。まず君が会ってくれ。」

「分かりました。会って私に何をせよと?」

「私の真意を伝え、奴らの本音を聞き取り、そして、脅しつけ、寛大な措置があることを叩き込んでくれ。」

 二人は、小さく笑った。“魔女ね。”背筋が冷たくなった。あらためて、彼女の恐ろしさを思い出した。“アガレスも、こんな顔になるのね。”怖くもあり、そして頼もしく思った。“あの時は見せなかった?”彼と共に戦った人生を思い出した。あの時は、ウァサガやグシオンの献策を受け、指示を出す時の顔は、“悲壮感に満ちていたわね。”圧倒的に不利な状態から始まった戦いの日々。アガレスは、パエラとの日々を守るため必死で、その危機を毎日目の前に感じ、それとも戦っていた。

「アガレス様。そろそろ彼らとの正式な会見ですよ。」

 パエラは、アガレスの腕をとった。

「そうだな。頼むよ、パエラ。」

「はい。」

 二人とも緊張で心臓の音が、互いに聞こえるくらいだった。

“私も、きちんと役割を果たさないとね。使える連中を物色しないとね。敗者なんか嫌だもの。”

 市の有力者、各ギルドの長や色々な団体の面々が、服装も雰囲気も、身分も、立場も全く異なる多数の人間で、ぎっしり詰まっている市の公会堂のひな壇に二人は立った。

 アガレスが、皆の意見や要望を存分に言ってくれたまえと告げると、次々に発言があがった。数時間、二人はただただ耳を傾けた。

 議長が終会を宣言すると、

「皆の要望を検討する。数日中には、回答を行動で示したいと思っている。」

“疲れたわ。でも、本番はこれからなのよね?”

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