第27話 二人の違いは
「ガミュギュン様は、確かに自由を言うわ。アガレス様は、自由を制限していますわ。広場で自由に物を売る、演芸をする、それを許す、出来る、それがガミュギュン様の自由です。アガレス様は、現実には政治的な言論の自由を制限しています。アガレス様の下では、言論はあるのよ。その上での制限なのよ。それも、かなり緩くされてきた。ガミュギュン様の下では、それはないのよ。ある?あるわね。ガミュギュン様を肯定する自由とあの人の政敵を攻撃する自由がね。諫言をよく聞くことと、自由度は異なるのよ。」
ウァサガは、自分自身に言い聞かせるように、若き女官僚との論争の中で結論づけて終わらせた。
“あの女。やたらとガミュギュンを褒めるわね?それなら、なんでここに?”
彼女は、パエラがアガレスと共に王宮を脱出して抵抗を続けた時に、駆けつけてきた者達の中にはいなかったことを思い出した。アガレスとウァサガが捕らえられた時、“あ!いた、ガミュギュンの傍らに!”
ガミュギュンの息のかかった内通者?とも一瞬思ったパエラだったが、彼の常に果断な対応や個人として諫言に耳を傾ける態度は、期待を抱きがちな気持は分かるような気がして、“彼女も迷っているのかも?”と思い直した。彼女は、アガレスが彼と提携する道に希望を抱いているのかもしれない。だが、それはガミュギュンが自分への批判の自由を許すのと同様にあり得ないことだと彼女は、今は考えている。彼が、たまたま自分を風刺している絵を市場で見つけて、
「そこでは見えずらいだろう。もっと見える場所に置いてやれ。」
とか、別の時には、自分を風刺する歌を聴いて吹き出して、大笑いしたという、人心を掴むエピソードは確かに事実ではあるのだが、そういうものは徹底的に取り締まっていたのを知っていた。“話を聴いてあげようかしら?”ウァサガに完膚なきまでにやられて、しょんぼりしている彼女を見て思った。ただし、
「あの女に監視して。」
と侍女の一人に命じることは忘れていなかった。さらに、
「あなたの気持は、分からないではないわ。」
と彼女に声をかけた。
「あの方は、頼もしい、何でもやってくれそうな気持にさせるわ。夫だってそうよ。」
“お、夫て…。”何かひどく恥ずかしく、嬉しく感じてならなかった。
「でも、あの方は天に太陽は二つはいらない、そういう方よ。でも、夫は、アガレス様は違うわ。上手く言えないけど、そう思えるのよ。」
苦し紛れにひねり出したのだが、言ってから、“ああ、そうだ。劣っているとかじゃない。違うのよ…。なんて言ったら…。”その言葉に、パエラに優しく語りかけられたことで、彼女は嬉しそうに、そして、パエラの言葉を反芻しているかのようだった。“スパイというわけではなさそうね。そう言えば、あの時もガミュギュン達の側近とかというのではなく、その他大勢だったような…。引き留めることは出来るかも?”
ウァサガが、二人に加わった。先ほどの激論で、完膚なきまでにやられた屈辱を忘れさせるような優しく、明るい、そして自然な感じで、彼女と話し始めていた。“さすがに、あいつから、魔女と罵られただけはあるわね。”パエラは、あらためて感心した。ウァサガの方は、“パエラ様は、本当によく見ておられる。いつも、私の先にいて、私のやることを指し示している。”と思っていた。
パエラもだが、ウァサガにしても、その他1名にしても、アガレスを選んぶことには、躊躇い、疑問が残っていた。ウァサガにとってすら、二人からの恩、そして能力を認められ、期待感されたことが発端である。ガミュギュンに関する話が、かなり巧みな宣伝であるとは分かっているものの、色々な意味で魅力も、期待も持てる存在だった。ただ、3人で話しているうちに、“少なくとも、彼は私達を絶対的に支配する存在…。”と思い入った。それがどうしたと言えば、反論出来なかったが。
アガレスも含めた数十人の生活は、突然の出現であり、領内からの物資の供給はなかなか安定しなかった。そのため、しばらくは二人も含めて、質素な生活を余儀なくされていた。今まで、地代を王都に送っていたのがなくなった代わりに、ここに居住するアガレス・パエラ夫婦と郎党を養うための…になっただけではあるが、変わらないというわけではないし、もう既に負担するものは負担したというものが多く、そうそう要求出来なかったからだ。ある程度の資金はあり、王国からの支給はあるが足りなかった。ダビ公爵や弟妹王子王女からの仕送りがあってもだった。それに、過度の負担をさせて不満がでるのは防がなければならない。戦いの前には、内を固めたなければならないのだ。しばらくは、自分も含めて耐乏生活を甘受し、皆にも願いつつ、有力者から寄付なりを少しでも求めようと、アガレスとパエラは、公開食事の見学出席者にしたり、ささやかな茶会に招待したりということから、領内の視察を行う方々彼らを特に招いて意見を聴いたりした。とはいえ、これもやり過ぎるわけにもいかなかった、不満や嘲りを受けかねないからだ。
「いや~、あの噂が、もうここまできているとは…、私が?ここでのことは無実ですよ。」
バイエンが、パエラの前で頭をかいていた。噂とは、パエラが招き、招かれるお茶会やサロン、なにがしかの集まりで、興味津々、
「パエラ様が、アガレス様でなければと言って、寝室に引き入れたとか。」
「アガレス様の寝室に、パエラ様が押し入ったと聞いておりますが。」
「私は、アガレス様が有無を言わせず、お姫様抱っこをして、パエラ様を寝室に連れていったと…。」
「いえいえ、わたしが聞いた話てわは、パエラ様がアガレス様に抱きついて離れず…。」
と小声で聞いてくるのである。“顔から火が出るくらい恥ずかしかったわ。”それが、一回や二回ではないのだ。
しかし、バイエンは王都で流したものがここまで伝わってきたのだと言う。
「噂が流れるのは早いものですし、広がりも予測し難いものです。どこかで抑えられるというものではありません。まあ、民衆が、上も下も喜ぶ内容だったので…。」
と苦笑いする彼を、“まあ、悪い方にはなっていないからいいけど。”と不満だったが、パエラはバイエンを責めなかった。その代わりに、アガレスには、彼も似たようなことを質問されていたが、
「私が淫乱女のように言ってないでしょうね?」
と釘をさすのを忘れなかったが。
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