第26話 協力して良き国を作ろう

「公爵殿。私は、今回のことを恨みには思ってなぞはいない。こうして、国の両翼を担うことになってしまった以上、協力して良き国を作るため、協力していこうではないか。」

「さすがガミュギュン閣下。私も、微力ながら、ご協力させていただきます。」

 アガレスとパエラがいなくなった王都サタン、王宮の一室で、ガミュギュン大公とダビ公爵は2人だけで会談をしていた。

“パエラが似つかわしいのは、やはり大公ではなかったか?”公爵は、少し寂しい思いだった。“何故、娘は、あのような選択を?”アガレス王子には、今も好意は感じる。子供の頃から庇護し、接してきたのである。その成長には、我が子に感じるような気持で喜んでいたものである。ガミュギュンには、豪放磊落にして繊細、清濁併せ持ち、果断にして慎重、威厳と気安さが、厳しさと優しさなどが同居している、その人物の大きさを感じていた。同時に、その危険性をも。

 領主としてだけでは、事業家としてもやり手であり、戦場でも活躍し、政治家としても有能な公爵でも、ガミュギュンの前では圧倒され、魅力を感じてしまう。その彼にとっては、パエラは容姿もさることながら、才能、性格立ち居振る舞いその他自慢の娘だった。かなり親馬鹿が入っているが、彼女は、実際そのように評価されていた。その彼女には、あらためてガミュギュンが相応しかったと感じた。ただ、心の中に引っかかるというか、躊躇するものも感じていた。

「兄上は、父上が作り上げたこの国の繁栄をよく維持された。しかし、腐敗や怠惰が蔓延し、弱きものが報われず、対立がはびこるようになってきている。私は、それを解消させたいと思っている。腐敗や怠惰、対立を一掃し、全ての者が報われる国にしたいと考えているのだ。」

 その後、少しの間を置いてから、

「もちろん、上下一体、話し合い納得してもらった上で進めたいと考えておる。」

と付け加えた。

 幼少から文武の才能を高く評価され、しかも実績を次々に上げて、誰しもが評価したにもかかわらず、先王が国王にと望ながら、なかなか後継者に恵まれなかった現国王に長子アガレス王子が産まれ、それでも、ガミュギュンを王太子にと望み、もう一歩で実現する直前に先王が死去して、全てが無に帰した。北辺大公として、広大に地域で絶対的な権限を与えられながらも、彼の挫折感は大きかったろうことは、現国王の傍で長く補佐してきたダビ公爵は知っていた。それでも彼は、自暴自棄にもならず、立派に北辺を統治し、実績を上げてきた。その彼の手腕には、期待する者は上下かかわらず多い。しかも正反対の立場のものがそうなのだ。

「その思いには、全然賛成です。アガレス王子も、それを望んでおられましたが、大公様の意気に感じました。」

「父上の目指したものを、実現していこうではないか!」

 両手を握りあって、協力を違った直後、ダビ公爵は微かに心の中に冷たいものを感じた。

“この方は、アガレス王子を、いや現国王陛下すら認めていない。この方が、あの幼い王太子を補佐する立場に留まっていられるだろうか?ま、ま、まさかパエラは…?”

 ガミュギュンとの婚約を受け入れたように見えていたパエラが、突然アガレスを選んであのような行動をとったことに思いが飛んでいた。

“あの娘は、弟達に何と言った?獲物がいなくなったら、煮られるのは狩猟犬なのよ!ではなかったか?”

 彼の目の前のガミュギュンは、突然、国王の道を閉ざした者を許さない、その怨念を忘れていない人間に見えた。その怨念が、黒いオーラとして立ち上っているのを感じるように思えた。その一番は、アガレス王子である。考えてみれば、あのような謀略に積極的に加担していたではないか。全てアガレス王子への怨念だったのではないか。第二は、現国王、それに続くのは、自分であり、幼い王太子ではないか?彼はそこまで考えが及ぶと、冷たくなるものを感じた。自分が、アガレス王子を見捨てるように、アガレスの事実上の追放に加担していたのを忘れて。その気持ちを、顔に現れないように必死に耐えなければならなかった。

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