第25話 次々に来る者達

 ウァサガは、アガレスとパエラにそれほど遅れることなく、バイエンの一行と共にやって来た。と言うより、バイエン達はウァサガを連れてやって来ることになっていたので、あくまで彼女の都合に合わせても旅立つことになっていたのだ。

 彼女は、病気がちな母親がいるため、出発は遅くなるだろうと思われたから、バイエンには彼女を待って出発するよう命じていた。

 が、思いのほか、早く彼女は出発を申し出てきたのだ、しかも、母親を伴って。

「何を言っているのですか?アガレス様、パエラ様は、一刻でも早く、あなたの助けを必要としているのではありませんか?能力を認められ、用いられた方に尽くすのが人の務めというものです。母親のことを優先するとは何ごとですか?あなたは伯爵家の娘なのですよ!我が家の再興のためにも…。その顔は…分かりました!私もついて行きます、今すぐ行きます、さあ今からいきましょう!」

と、しばらくして出発することを告げに行ったウァサガに母親が叱りつけたのである。

 かえってバイエンが、

「我々の準備の終わるのを待って下さいよ。」

と慌てて、宥めるほどの勢いだったという。

 それを見て、躊躇していた、アガレスに引きあげられていた二人が刺激されて加わる効果もあった。

“ええと…、あの二人、最後までアガレスの元に馳せ参じなかったわよね…確か?”とパエラ。

 ウァサガの母親は、パエラから送られた菓子や薬、そして医師のお陰で多少とも元気になっており、旅でかなり疲労した様子だったが、倒れるような状態ではなかった。

 そして、彼が来た。ウァサガが到着した翌日の夜だった。

「よく来てくれた。グシオン!」

 後ろに数人の部下らしき者を従えて、その彼は平伏していた。

「お久しぶりです。アガレス様。私のような者をお呼びいただき、光栄です。」

 彼は、あくまで平伏したままで答えた。

「兄弟の仲で堅苦しい態度は止めないか?」

「一介の平民、戦士でしかありません。それに、陛下には命を救っていただいた身であり、そのようなことはもったいないことです。」

 上げた顔は、女にも見える美少年である小柄な男だった。

 アガレス様の父、現国王の妃の一人を母とする、アガレスの異母弟である。妃ではあったが、身分の低い母親の死とともに、そのまま追放され野垂れ死ぬか、将来に禍根をのないために、密かに抹殺されるはずだった。彼の母親が、アガレスの育ての義母と仲が悪かったためだった。競争相手という立場ではなかったが、出身身分が低いだけに反抗的だったからかも知れない。その義母を説得して、身の立つようにしたのが、アガレスだった。

「我が将として、私を支えてくれ。」

 態度については諦めて、アガレスは期待を述べた。

「は。数万の軍であろうと、魔族の大軍であっても、ハイエルフ、オーガが大挙して現れても、撃破いたします。」

 グシオン・ガト、ガミュギュンとその軍師ブエルがウァサガの次に恐れた天才的軍指揮官、彼がもう二人いれば、アガレスは負けなかったろう。“あれ?こいつも、戦死してたわね、確か?どうして敗れたんだったけ?確か、常勝の指揮官だったはずだけど。”

 エッダ州カナン。小さな港湾都市を含む地域で、港から馬車で数時間のところに、彼らの新しい領地と館があった。そして、この地方の知事は、アガレスの実母の一族に連なる者だった。そのため、早々に挨拶に来て、便宜を図ってくれた。ちなみに、その隣の知事は、ダビ公爵家の息のかかっている男だった。館は、国王が訪れる時のためのものだが、アガレスの父がこの地方に来たことは、今までに一度だけである。アガレスは何度か訪れてはいたが、それだけであり、管理人が最低限のことひしていたものの、しばらくは木賃宿に泊まっているような状態に近かった。領主として公私ともに相応しい状態にするためには、皆が文句を言わずに、働いてもしばらく時間がかかった。アガレスとパエラは、領内の統治のため、上から下までの話しを聞くため、領内を駆け巡り、同時に必要な物の提供を求めた。それも、あまり負担をかけないようにしなければならなかった。まずは、ここを固めなければならない、ここで不満を持たれては、ならないのだ、絶対に。そう、もう戦いは始まっているのだから。ここを勝ち取らねばならないのだ。

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