第21話 私達、結婚しました!
王宮内の長い廊下を、正装したアガレスとパエラはしっかりとした足取りで歩んでいた。その後ろから、ヒソヒソ声が、2人の耳に入ってきた。
「アガレス様は、どうしてもパエラ様との婚約破棄をしないと言われて、強引に司祭様を連れ出して、結婚なされたとか。」
「いや、私はパエラ嬢が、アガレス王子とでなければ嫌だと言って、夜這いをかけたと聞いているが。」
「そう言えば、アガレス様は、処女のパエラ様を四回も…。」
「あら、パエラ様が何度も何度もおねだりしてと…。」
「それだけでなく、パエラ様は、10回以上…。」
「アガレス様も5回だったとか。」
「どちらにしても、お若い…。」
「本当に、羨ましい…。」
と王都では、上も下もそんな噂で持ちきりだった。後から、それを聞いたパエラは、目から火が出るほど恥ずかしがったが、これは彼女も容認した、故意に流した噂だった。
パエラは、度々王宮を歩いているし、国王もよく知っている。しかし、今までになく緊張していた。
「ア、アガレス様、お、落ちち着いて。」
やはり緊張気味のアガレスにかけるパエラの声が上ずっていた。
「あ、ああ。僕達の未来のたための、戦いの始まりだ、だからね。」
“も、も、もう逃げられないのよね?”覚悟を決めなければならないと思った。
「今日は、何の用で参内したのか?」
玉座の、どちらかというと穏やかな印象しかない国王の声が、ひどく毒を含んでいるように聞こえた。
「我が婚約者のパエラの卒業と私達の結婚の報告に参りました。」
跪いたアガレスが、叫ぶように言上した。2人はつないだ手を、より強く握りしめた。“もう、始まったのね!サヨナラ、私の約束されたハッピーエンド!”
「馬鹿者が!誰の許しを得て、そのような勝手なことを!」
国王は、立ち上がって、怒りの形相で、怒鳴った。
慌てて、穏やかに宥めようとする妃。猿芝居だが、どう転ぶか、アガレスとパエラは、固唾をのんで待った。
「2人とも、さっさと下がるがよい、顔も見たくもないわ。この処置はおって沙汰する。それまでは、二人して謹慎しておれ!」
“取り敢えず、助かったか。”ホッとした。2人を引き離すように命じなかったからである。そうならないように、できるだけ工作はした。
誰もが、ありもしない幼い王子暗殺の嫌疑をかけて、アガレスを王太子から引きずりおろすことは、後味が悪いとは思っていたし、父国王も同様なはずだった。されに、そのような謀叛、反乱に近い罪での断罪は、色々と面倒なことなのだ、法的にも、手続き上でも、その後のことについても。スキャンダルで、国王の感情的な、怒りを買ったことで…と非公式な成り行きの方が、色々と楽だった。パエラの両親にしても同様だった。何と言っても、長年自らのものとして、守り、育ててきたという自負があり、それなりの愛情をアガレスには感じていたから、罪に落とすのは良心の呵責を感じていた。さらに、あの2人の姿を見て、引き離すのは心が引けた。
それでも、ガミュギュンは、
「パエラ殿は、情にほだされたのだろう。そういうのは、風邪と同じこと。静養して、体が回復すれば忘れることだ。それに、私は、処女でないことは、こだわらない。」
と自らが、言いに公爵邸やって来たし、彼の側近は執拗に、パエラとガミュギュンの婚約が優先すると主張してきていた。ガミュギュンとパエラの婚約は、実際には、正式に決まったことではなかったのだが。しかし、ガミュギュンは、2人の噂が広く流れるのを見て、このまま押し切っては、自分が悪者になると判断して降りた。実は、彼も、彼の側近も、彼とパエラの愛情の深さを伝える噂を流したが、はるかに面白みに差があり、全く広がらなかったのだ。
最後は、幼い王子の母バルバドサ妃が、あまりの噂の浸透を知り、息子への悪評になりかねないと判断して、夫の、国王に助言したので、これ幸いと国王がそれに乗ったのである。ただ、実際、どちらに転がるかは、半々だと、アガレスも、ウァサガも思っていた。
それでも、ガミュギュンは、再度、ダビ公爵の屋敷を訪れ、今回のことは全く気にしていないから、パエラとの婚約破棄には及ばないと言った。ダビ公爵は、愚かな娘で、もうどうにもならないと弁解しつつ、アガレスとのことは認めざるを得ないと言って引かなかった。
ガミュギュンとしては、処女でなくなったことは残念だが、逆にアガレスから奪う悦び、そして、自分の方に満足させる勝利感を得ることもよいと思っていた。その自信が十二分にあった。もちろん、彼女を得ることでダビ公爵家と提携関係になることが重要だったわけだが。
しかし、状況は、このまま彼がパエラとの結婚を強要すると、悪者が彼になりかねなくなった。彼の軍師のブエルが、そのことを指摘したことで、彼はパエラのことは諦めた。ブエルは、しかし、主人を愚弄した2人を許さず、厳しい、監禁に近い幽閉となるよう働きかけ始めた。それは、さすがに賛同は直ぐには得られなかった。ただ、さらに彼が働きかければ、実現できたかもしれなかった。
「元婚約者を悲惨な目にあわせることは、あまり気持の良いことではないな。」
とのガミュギュンの言葉に、
「本当に、寛大な、愛に満ちたお言葉、心から感動しました。」
と彼は工作を止めた。ただし、彼らが、与えられた辺境の地に行くまでの道中で、苦労するように、嫌がらせのような工作は、止めなかった。
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