第18話 侍女達は言い争う

 清貧で、比較的だが、権力にも富にも暴力にも毅然とした態度をとる、これも比較的ではあるが、司祭は、二人を引き裂こうとしている勝手な意思に反発を覚えていた、だから、かなり不安で、心の中で多少震えていたものの、第一王女の嘆願に応じて、アガレスとパエラの結婚の祝福を与えていた。

 アガレスとパエラは、その短い時間の中で過去の回想をしていた。

 物心がついた時には、婚約者として教えられていた。当然のこととして聞き、それを否定したいとも、変えたいとも思ったことはない。

 目の前の赤ん坊が、婚約者だと言われても意味の分からなかったアガレスだが、可愛いと思い、度々あやしにやってきた。彼があやすと、母親でも、乳母でも泣き止まなかった彼女が嘘のように大人しくなったという。妹のように可愛がり、本当の兄のように懐いた。本当の妹(アガレスの)と兄(パエラの)が、焼き餅を焼くほどにだった。別に、そちらの方を疎かにしたつもりは、彼らにはなかったが。成長するにつれケンカもし、言い争いをすることもあった。異性に強い好奇心を抱くようになったアガレスには、手のかかる、つい可愛がってしまう子供のように思えた時期もある。もっと大人の女性を感じる方に目が行き、彼女の口をとんがらせてしまい、宥めるのに大変だったことも何度もある。それがある時、ハッとするほどに美しい彼女を感じた。学校を卒業し、政務に疲れた父国王から、待っていたとばかりに、全てを丸投げされ、何とか頑張り続けたのも、辺境の軍務に根を上げなかったのも、暇を見ては訪れる度に美しく、色っぽくなっていくパエラに誇れる自分になりたいと思っていたことが、支えの半ばを占めた。彼女の胸元に視線がいきがちになるのを、何とか隠そうともしていた。その彼女が、北辺大公ガミュギュンに関心を示し、うっとりしたい視線を向けているように思えた時は嫉妬した、彼女の心変わりを疑った。

“ごめん疑ってしまって。”彼の苦悩を見抜き、心が折れそうな時には励まし、自分から離れようとしている者達を引き留めようとさえした。“あの時、彼が私にとって危険な存在だと見抜いて、考えていたのかもしれない。”彼女の聡明さを知らなかった自分を恥じた。“その彼女に比べて、俺はなんと腑甲斐ない…。彼女にここまで犠牲を強いてしまって…。”それでも、彼女と結婚の祝福を受ける幸せに酔っている自分もはっきり手感じていた。

 パエラも半ばは、彼と気持は通じ合っていた。だが、他方まだ迷っていた。このまま逃げてしまおうかとも考える自分がいることも感じていた。“ああ、なのに体が動かない。こうしていたいと思ってるよー!私ったら。”

 司祭の言葉が終わると、しばしオロオロしたパエラだったが、“もうー、どうにでもなれ!”と服をその場で脱ぎ始めた。

「アガレス様も、な、何をも、もたもたしているのですか?は、早く裸になっていただけません!」

 そう言って、彼の服まで脱がせ始めた。結婚の証明をするとは聞いて、覚悟はしていたが、この場で裸になるパエラに一同唖然としてしまっていた。

“うぶな子供じゃあるまいし。私ったら、ガミュギュンと、アガレスともしてるんだから。”と心の中です叫んでいたが、アガレスをほぼ裸にし終えてから、今の自分達は初めてなのだと気づいた。そして、“パエラの裸体…。何て魅力的なんだ。”感嘆しているアガレスの視線を感じで、“真っ裸で、恥ずかしいー!”体全体が真っ赤になるほど恥ずかしくなった。

「は、早く、な、ななにをを、しているのの、で、ですか?ア、ア、アガガレスさ、様。ち、誓いの口づけをを。」

「あ、あ、わ、わ、わかったよ。」

 ぎごちなく抱きしめ合って、口づけをかわしたが、いつもと違い、壮絶な歯と歯のぶつかり合いになってしまった。

「あ、アガレスス、さ、様。お、おち、落ち着いて…。し、深呼吸を。」

 思わぬ衝撃に口を手で覆いながら、やはり口を手で覆っているアガレスに、

「そ、そ、そうだな。ご、ごめん。」

 自分自身が落ち着いていないことも分かっていたから、彼に合わせて深呼吸をした。少しは落ち着いたと思い出、あらためて口づけをかわした。今度は、いつもどおりの甘い、甘い、優しい口づけだった。その時、パエラは、体が熱くなるのを感じた。アガレスも同様だった。

 争うように唇を貪る口づけとなった。涎が、流れ落ちる。長い口づけが終わり、体を離すと、目を潤ませたパエラの姿がアガレスの視線に、上気したアガレスがパエラの目に映った。

「もう。」

とどちらともなく声が出た。アガレスは、パエラを抱き上げ、お姫様抱っこで、寝室に飛び込んだ。パエラは、残りの薬を持ってくるように叫んだ。倒れ込むように、長く使われていなかったため、少し湿ったベッドの上に横になった。侍女から受け取った塗り薬タイプの媚薬を互いの下半身に塗り、スムーズに進めるためのローションも、下半身に塗った。後は、性に関する知識を総動員して、二人は結婚の証明を始めた。

 立会人達は、唖然とし、呆れかえって、見ているほかなかった。そう言うことにしておかないと、困ると言うこともあるが。

「父上。母上。申し訳ありません。でも、物心ついた時から、婚約者、将来の夫として思っていたアガレス様以外の方のものになるなど考えられなかったのです。どうか、陛下にお許しいただくようおとりなしを。」

「子供の頃からの思いを捨てられなかったのです。どうか、そのような哀れなら私をお許しいただくよう、お伝え下さい。」

「申し訳ない。パエラを愛する気持ちに逆らえなかったのでだ。どうか私達を赦してくれ給え。父上、陛下にも、私達の気持ちを伝えてくれ。」

「大公閣下には、申し訳なく思っているが、どうしても彼女を愛する気持ちを耐えられなかったことを、許していただきたいと伝えて欲しい。」

 慌てて駆けつけたパエラの両親や血相変えて半ば乱入してきたガミュギュンの側近に、二人は必死に訴えた。

 彼らが、この状況の所で来るように、巧妙に行動していた結果なのだが。パエラは、それをアガレスの上に跨がって、形のいい乳房を揺らして激しく動いている中で、或いは、尻を高々と上げ、上半身を土下座のようにしながらこしを動かしている最中に言ったのである。アガレスもまた、腰を激しく突き上げるように動かし、手で彼女の乳房を握り、或いは、彼女の腰をがっしり掴んで、下半身を激しく打ちつけながら言ったのである。

 こちらも意気消沈、呆気に取られてしまい、何かする気力もなくなっていた。それでも、ガミュギュンの側近は、

「淫婦が。」

と罵る言葉を残して、去っていくのを忘れなかった。

 そして、二人は荒い息をしながら、激しい動きを止めることなく、次々にこれからすべきことの指示をしたのである。 

 全てが終わった時、息絶え絶えの二人は、抱き合ったまま眠りに落ちていた。

 日が高くなってから侍女に起こされた二人は、ふらつく足で、彼女らに言われるままに、入浴して体を洗い、遅い朝食を取った。その後ろで、

「アガレス様。お嬢様は、初めてでしたのですよ。それを昨晩、あの様に執拗に…。」

とパエラの侍女が非難しかけると、すかさず、

「パエラ様が、せがまれたのですよ、しかも際限もなく。少しは、淑女のたしなみと言うか。」

と反論し始めた。

「あ、あれは、アガレス様が執拗に求むられのことですよ。初めての血で汚れたシーツの上なのに、あの様に、4回も…。」

「その血の上で、何度も何度も、もっともっとと言われたのを、30回は聞きましたよ、パエラ様の口から。」

「それはアガレス様ですわ!」

「あの求めるような目でパエラ様が…。」

 それに割って入るように、

「あれは媚薬のせいで…。」

「そう、そうだ…、まあ、パエラが魅力的過ぎたのは確かだが…。」

「も、もちろん、アガレス様がよかった…。」

と止めさせようとしたのが、脱線しかけてしまった。

 その時、

「いや~、あの媚薬はそんなに効果があるわけでは…。」

 陽気な声が聞こえてきた。媚薬や強壮剤その他を作った禿鼠、バイエンだった。

「男なら一回程度までで。」

 その言葉にパエラの侍女がドヤ顔すると、

「女性でも三回程度で…。」

 その言葉にアガレスの侍女がドヤ顔をした。しばらく睨み合ったが、仕舞いには吹き出し、

「待ち遠しく思っていた日が、ある意味、期待以上であった…わけですわね。」

「本当は、喜ぶべきなのでしょうね。」

 二人は、ため息をつきながらも、温かい目で互いを見た。

 


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