第11話 第三王子
「ギャ~!」
パエラの腕の中で赤ん坊が、この世の最後の審判で地獄行きになったような叫び声をあげた。必死に彼女はあやすものの、その泣き声はひどくなるばかりだった。その彼女の手から、アガレスが赤ん坊を取り上げると、ピタリと泣き声が止んだだけではなく、笑い声をだして、しばらくするとすやすやと眠り始めた。
「今回も負けましたわ。」
すっごい不満顔で、それにもまして不満そうな声で、アガレスをパエラは睨んだ。
実は、第三王子を抱いたのは二回目で、前回も大泣きされていた。今回は、リベンジだったのだが、あえなく返り討ちになったのである。しかし、アガレスはパエラの耳元で、
「これで、3回目の理由ができたよ。」
と囁いた。“そうよ。これでかえっていいのよ。これが目的なんだから。”彼女は、心の中で声を大にして言い分けした。
第三王子が産まれて、早速祝いの言葉を言いに訪問したが、
「ああ、可愛い男の子だったよ。」
とアガレスはパエラに語った。それを聞いたパエラは、頻々に訪れて、新しい弟を可愛がれば、義母もアガレスが自分の子供を害することはないと安心するかもしれないと提案した。“効果は疑問だが、やらないよりはましだな。”“まあ、やって損はないと言う程度だと思いますけど。”
「しかし、あまり頻繁だとかえって不審がられないかな?」
するとパエラが、自分の顔を指さした。
「私が、見たいと言って聞かないと言えばよろしいのでは?」
アガレスは、嬉しそうに笑って、うなずいた。
その時、大泣きされたのだ。その時は、“次に来る理由が出来ましたわね。”と余裕があったが、今回もとなると、俄然火がついたし、男のアガレスにあんなに懐くなんて悔しくてならない、“私だって、妹や親戚の子をあやしたわよ!”
「でも、アガレス様は、本当に可愛くて仕方がないという感じですね。」
「そうかい?」
お付きの侍女に、幼い弟を預けるアガレスに本心から、そう感じた。そして、少し焼き餅も感じた。
「弟、妹達の時にも、義母上様に言われたような気がするな。」
それにも焼き餅を感じてしまった。
「お兄様。少し可愛がりすぎです。」
「兄上。僕もそうだと思いますよ。」
異母弟妹からも言われているアガレスを見て、さらに焼き餅を感じてしまった。“な、なによ、どうしたの、私!”
“?。異母弟妹に慕われて…。”首をひねった。彼の義母で、弟妹の実母は、かなりやり手の、かなり怖い女だったはず。アガレスの実母を毒殺したという噂すらあるのだ。
「義母上は、私の母から私のことを託されたのだ。私のことを、本当の子供のように愛してくれた。まあ、厳しいことも、確かに黒いこともしたが、私が王太子でいられたのは、義母上様のお蔭なんだ。自分の実子、あの二人に幼い時から、兄を守ることが務めだなどと厳しく教えたものだった。だからこそ、私は二人を守りたいと思う。そして、あの幼い弟も守ってやりたいと思うんだ。それが、私を可愛がってくれた義母上様に酬いることのように思えるんだよ。」
“本当に思ってるんだ?”そして、可とも思い、不可とも感じた。
“信じてないわね。”3回目も大泣きされたパエラは、彼の母を観察すると、アガレスを見る目には、そう感じた。
「アガレス様は、兄弟姉妹が大好きなんだ、と少し呆れてしまうほどですわ。」
「王太子様のような兄上がいて、心強く感じますわ。」
微笑みあうパエラと義母バルバドサを見て、“怖い…。”とアガレスは感じた。
「浮浪者を大量逮捕して、軍隊や開発したばかりの農場にたたき込む、どちらも環境がいいというわけではない、軍隊では最底辺での盾代わり、農場では体のいい農奴扱い…。ということでしたわ。浮浪者狩りとか慈善とか小手先のことではない、職を与えることで解決していると喧伝される実態がそれだ…等々の話でした。」
ウァサガが、北辺領から流れてきた者達の話を集めて、パエラに伝えた。パエラは、半信半疑だった。“それでも、まだましな生活を与えているのでは?”とも考えてみた。それを言うとウァサガも一応同意した。
3度目も、大泣きされたことだったが、その後はバルバドサを訪れなかった。アガレスが、地方巡察にでたこともあるし、それを理由に訪れない言い分が出来たためでもある。まあ、3回も泣きさけばれて意気消沈したのが、おおきかったのではあるが。
「婚約者のアガレス様が、王太子ではなくなるという噂を聞きましたかしら?」
数人の女子生徒を引き連れた女がパエラに声をかけた。
“誰?ああ、同じクラスの、どこぞの公爵家の娘?”同じ公爵家でも、格の違いは月と星屑並みの違いがある。それでも何人かの取り巻きができ、それだけにパエラに対抗心を抱いていた。
「アガレス様が王太子でなくなっても、アガレスご自身が変わるわけではありませんから。王太子でなくなったアガレス様は私の婚約者に代わりはありませんから。」
パエラは、模範回答でやりすごした。“あの時は、これはなかったわね。”自分と彼女の立場が、変わるわけでもないのに、と馬鹿な女としか見なかったが、“私が励ましたから、あの人、抵抗しているのかしら?それで情報が漏れて?不味い?”
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます