第8話 バッドエンドはお断りよ。

「アガレスとの婚約破棄で、ハッピーエンドなのよね、やっぱり。」

 どう考えても、彼にバッドエンド以外の結末は、有り得ないようだった。

「それに、ガミュギュン様の方が、ずっと名君、明君だもの。」

 弁解するように思った。“あの方との領地政策とは段違いじゃない、それに。”お互いに、目の下に隈を作っていたアガレスとともに、彼の領地をまわりながら思おうとした。

 ソロ王国は、封建国家ではない。しかし、王族や貴族の領地も各地にある。例外が、魔界や強力な異民族の領域に接する辺境軍管区であり、三つあるが、その長官により軍民両権限が一任されている、半独立国的な性格を持っている。ただし、北辺軍管区の他2カ所は色々と制限措置がある。北辺軍管区は、はるかに他の2カ所より大きいだけでなく、ほとんど北辺公ガミュギュンが統治する独立国の様相を呈している。

 ダビ公爵家は、それとは比べるとはるかに小さいが、貴族の中では最大の領地を持ち、その経営、開発、新規事業の導入には熱心である。パエラは、それをよく知っている。彼の父は、その面でもかなりの才覚があった。単なる過去の財産の上に胡座をかいている存在ではない。

 たが、ガミュギュンは、自然条件が厳しく、人間以外の種族も多くいる北方で、大胆な人材登用、各種族の統合、官僚機構の掌握、効率的な中央集権と各地域からの意見集約のできる体制を整えながら、開発を続け、その首都ルシフアは、王都サタンに匹敵する立派な大都市であり、その周辺には、広大な農地や放牧地が広がっている。そこだけでなく、各地でも同様な開発が進んでおり、貧しい北辺軍管区は都市伝説の類いにしかならなくなっていた。少なくとも、パエラは思っていた。

 それに比べると、ずっと条件のよい場所で、何もしていないように思えた。それに、アガレスが国王の代理で国政を担った5年間は、彼の軍歴同様に、良くいえば微温的、悪くいうと姑息な改革という程度に過ぎなかったのも、思い出した。

「あの風車?あちらの風車?見かけない形ですわね?」

 皆で、馬に乗って、アガレスの領地を見て回っている時、馬上であら探しをしていたパエラだったが、声をあげて指さした。

「ああ、あれか。よく気がついたね。」

 アガレスが説明する前に、ウァサガがすかさず、

「確か、2年前、より小型で効率の良い水車と風車の設計案が発表されましたが、それではないのですか?しかし、政府の採用にならなかったはずでは?」

「色々反対があってね。試しにやらせてみようと思って、呼び寄せたんだ。そのまま常駐してもらっているよ。農民達にお願いして使ってもらっているから、不具合があったら改善できるようにね。」

「農民にお願いしてですか?」

「理論通りにならないことも多いからね。その場合の補償も、約束してね。」

「それで結果はどうなのですか?」

「色々トラブルはあったが、中々好調だよ。ただし、理論値までは達していないよ。彼らは恐縮しているが、もっと長い目で見ないとね。」

「そうですわ。さすが王太子様。それで、具体的にはどのような?」

 ウァサガが、現状と理論値の差を熱心に質問が終わるのを待って、

「そう言えば、この前、狩りをした時、狩猟場からでているように触れをだしましたわね?いつも、農民が入っているのですか?」

「狩猟場が荒れない程度に、キノコや山菜や木の実をとるために入ることを赦しているからね。採った分の5%を差し出す条件をつけているが、それも一定量以上の場合ど、ほとんどの者はその量にも達しない。狩りは、そんなに好きではないし、実際、そんなとき暇はあまりないしね。」

 当たり前のように言う彼に、パエラは首をひねった。

 その後、市場も訪れたが、豊かさを感じられるものだった。

 しかし、孤児院や浮浪者の収容施設、護衛付きでの貧民街を見た後は、やはり一方的に、アガレスにマイナスを与えていた。

「パエラ様都アガレス様は、アガレス様を嫉妬したくなるほど、楽しそうにお話しをなさっていますね。いつの間にか、私なぞ、パエラ様は、忘れておられるようです。」

「え?」

 ウァサガの指摘に慌てながらも、“危ない、危ない。アガレスに情を感じては。いや、これは彼女が彼を意識し始めている訳?喜ぶべきことかしら。不味いわ。でも、彼女も、彼から引き離さないといけないんだわ。ずいぶん彼女には苦労させられたから。あー、矛盾しているー!”

「あ~あ、そうやって、私のことなぞ忘れて、アガレス様に甘えられて…。」

 ウァサガは笑っていたが、その笑顔には一片の邪気もなかった。微笑ましいものを見ている目だった。“あー、もう!…でも、この頃は、こいつを信じて甘えていたんだわ。体に染みついているのね。”懐かしく思いつつも、ひどく不快だった。

“それにしても、いい娘よね。”身近で接していると、聡明で、しっかり者だが、優しく、誠実な女性だと感じてならなかった。彼女といると楽しくなる。彼女も、パエラにいい意味での好意を持っていた。“このウァサガが、アガレスと密通なんかするとは思えないわね。あ、彼女はしていないと言っていたか。いや、分からないわ。尻尾を掴んでやるわ。こうして、近づけてやったんだし。”

 しかし、それは見つからず、学園生活に戻ることになった。ただ、異なるのは、本格的な王太子妃教育が始まることだった。王宮内での立ち居振る舞いから、国政の知識まで、王宮女官や官僚達が入れ替わり立ち替わり、彼女の屋敷で休日に時には手取り足取り、イロハから教えることとなっていたのである。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る