第4話 やはり夫は素晴らしいですわ

“このオーラ。力強さ、カリスマ性、勇猛、知性、名将、名君、人を惹きつける…。あの頃は、怖いという印象しか持てなかったけど。”

 “予定通り”“歴史の流れ”で、彼女は北辺公ガミュギュンを祝う宴に、アガレスと腕を組んで、彼の前に立っていた。挨拶のためだった。アガレスは、特別に上質に作られているが、士官の礼服で、パエラは、上質だとすぐ分かるが、白と藍色を基調にした、わりと目立たないドレス姿だった。彼は、いかにも北方を守る将という派手で豪華な出で立ちだったが、パエラの魅力がそれで隠されなかったのと同様に、全く嫌みが感じられなかった。アガレス一人が貧相に見えた。少なくとも、パエラには、そう感じられた。1年に一度は報告のため、王都を訪れることとなっていた。そうでないと、王弟であり、大軍をまかされ、かなり広い地域で全権を握ることを許された将軍にして、諸侯は心配の種である、王国としては。主従の関係を、色々な形で確認されることになるのだ。そもそも、先代国王は、既に王位を、自分の長男に譲位していたが、その国王にまだ子供ができないことを心配して、かつ、未だ6歳ながら、その優秀さが感じられた末子を王太子にと望んだのである。まだ、子供ができる可能性があることから、そうなった場合の将来の不安から、宰相をはじめとした反対で話が進まない内に、現国王の子供が生まれた、それがアガレスである。だが、ガミュギュンはその後も将来を期待させる物を次々示したため、前国王は諦めきれなかったから、もし、もう少し長生きしていたら、王太子ガミュギュンが誕生していただろうとは、公然の秘密だった。

「久しぶりだね。また、一段と美しくなったのではないかね?王太子殿下が羨ましいよ。」

「恐れいります、閣下。」

 彼を見つめる眼差しが、つい熱いものになってしまった。アガレスは、目ざとく見つけたが、

「閣下に、そう言われると、彼女が自分の婚約者である幸福をあらためて感じます。」

 腕を組む力が強まったように感じられて、パエラは慌てた。

「ここでは、叔父上でいい。このような美人の婚約者がいるから、人一倍頑張れるのだな。」

と言って、豪快に笑った。その笑いすら、人を惹きつけるものが感じられた。“どうやったって、太刀打ちできないでしょうが。”

「王太子様は、どのように頑張られたのですか?」

「だいたい、王都の貴族の連中は、箔をつけたいがためにやってくるが、一カ月で根を上げて、何かと理由をつけて帰って、二度と来ないものだ。だが、王太子殿下は、一番大変なところで、半年間、ちゃんと任務を果たした。」

 豪快に、また笑った。“単に、生活に耐えただけ?武勇も、戦功もなく?”と思ったが、パエラはアガレスの方を見つめて、

「アガレス様。私のために頑張られるのは、大変嬉しいですが、ご無理だけはなさらないようにして下さいませ。殿下を喪うことになっては、私は…。」

 うるうると言った感じで見つめた。アガレスは、すぐに感極まった顔になった。“チョロいわね。”

「大丈夫だ。未来の国王陛下は、絶対、私がお守りするから。」

「お願いしますわ。」

「パエラ…。」

“よい、よい。”という風に手を振って彼は離れていった。

「パエラ…、そんなに私のことを思ってくれていて、嬉しいよ。」

「あ、当たり前のことではありませんか?」

“チョロい、チョロいわね。本当にチョロ過ぎるわね。”

 アガレス自身の話でも、その宴にいたガミュギュンの幕僚達の話しでも、魔獣退治程度しか、敢えて彼の武勇を言うものはなかった。異民族や魔族も、活動は不活発となっており、戦いは小競り合いや盗賊対策、魔獣退治程度しかなかったからである。将兵とともに、厳しい環境で辺境の警備についただけである。ただ、功に焦る、経験もないのに、やたらに主張することもなかったと言うことが、誠実だ、優しいと言うこととともに褒められるという体たらくだった、再洗礼式前の半年間の軍歴は。彼女の中で、彼の評価は上がらなかった。

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