第30話 逸話
昔、この世界で死刑囚達に話す逸話で、こんな物があった。
『その死刑囚は、罪の限りを尽くした。
強盗、強姦、殺人、暴行、器物損害、考えられる限り、全ての罪を犯した。
だが、そんな事が永遠にできるわけでもなく、その男はとうとう捕まった。その男が捕まった時、国民の大多数が歓喜したという。
ある時、死刑執行が1年後だと確定した。
その男は、する事が無い為か、過去の事を少しづつ思い出し始めた。
そうして半年が立った時、ある考えに至った。
自分のした事は醜悪極まりない愚かな事だった。なら、俺が今すべき事は償いでは無いのか?と。
その考えに至ってからは早かった。牢獄の中で仕事の手伝いをさせてくれ、とずっと懇願し続けた。最初の方は要注意人物だったのもあり、看守も首を縦に降らなかったが、その熱意が伝わったのか、力仕事を手伝うようになった。
その働きぶりは凄かったらしく、職員の負担がかなり軽減されたというのだ。
そのほかにも、孤児に与える寄付の量を少しでも増やす為に色々な事にに貢献したり、時には脱走しようとした者を捕らえる、という事もあった。
そして、死刑執行の前日、この男の噂を聞きつけ神官がやってきた。
男は、きっと贖罪を受けるのだろう、と思っていたがその神官は男が思ってもみない言葉を放った。
「よく、あの場所から抜け出し、善人になる事ができたね。」
と。
男は最初、現状を確認する事ができなかった。
何故?一体あそこまでの罪を犯しておいて、俺が許される?死刑は覆らないにせよ………何故だ?
男は前日になって、その神官から異例の死刑囚でありながら、聖職者の肩書きを与えられた。
さらに男はわからなくなった。
死刑執行当日。
男が最後に所望したのは、以外にもナイフだった。
「普通なら、死刑囚にそんな危険な物はあたえられませんが……貴方なら、大丈夫だろうと、上層部から許可されました。」
男はナイフを与えられた時、そういえば、と、もう一つの所望をしました。
「回復系統の魔法を使える人を……何人か……連れてきてくださいませんか…?」
その男の監視を任された男は、頭に?を浮かべながら、
「わかりました。相談してみます。」
死刑執行の時間がやってきた。
死刑の日にしては珍しく、多くの者が集まった。その男から被害を受けた者、親族を殺された者、色々居たが、罵声は飛んでこなかった。
そして断頭台に立たされたその瞬間に、男は懐からナイフを取り出したかと思うと、自分の横腹に刺した。
「キャアアアアアア!!」
その様子を見た女性が悲鳴をあげると、野次の方から段々と驚きと困惑が飛んできた。
そして、その男は自分の腹に刺したナイフを抜き、
もう一度別の場所に刺した。
男は、うめき声をあげながらその行動を繰り返す。
そして、監視を任されていた男は気がついた。これをする為に回復魔法の所持者を呼んだのか、と。
そこに唖然としていた回復術者たちが必死に魔法をかけていく。
「……はぁ…はぁ…はぁ……。あ……りがとうございます…。」
そうして、傷が全て回復した頃に、
またその行動を始めた。
何度も、何度も、何度も、何度も。ずっと、その行動を続けた。
「もうやめて!」
そんな声が聞こえた。だが、その声を聞いた男は怒鳴りかえした。
「これをやめれば貴方達が一方的に不幸になっただけで終わってしまいます!これは私……いや、俺の贖罪なんです!やめる事はできません!」
そういって、男は回復術者たちの魔力が切れかけた頃、ようやくその行動をやめ、断頭台に立ち、命を絶った。』
と。
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