【前章『一之線・覚』】

忌々しい記憶思い出してたらクソムカついて来た。

ガクン、と体が揺れて目が覚める。


「チッ……んだよ、クソが」


眠りの邪魔をされて苛立つ。

あのまま夢を見ても腹が立ってただろうが。


運転席の背凭れを思い切り蹴る。

サイドミラーから汚ぇそばかすをした野郎の顔が見えて、俺を睨んで来やがった。

もう一度蹴ると、視線を変えて前を見る。

ボケが、安全運転でもしてろ。

内心、悪態を吐く……いや駄目だムカつくわ。


「前見て運転しろや馬鹿がよ」


もう一発背凭れを蹴る。

多少イラつきが解消された気がした。

俺は溜息を吐きながら窓を眺めた。


薄暗い空。

見据える奥先まで暗い森林。

夕方を超えた夜中に差し掛かる中間の時間帯。


山の奥へと走る大型バン。

何もない山に何をするのかと思えば、これから肝試しだとよ。

夏場でもやる気なんざ起きねぇってのに。

なんで冬の季節にやるんだよ。

とっくに肝なんざ冷えてるだろうが。


「まあまあ、落ち着けよ」


隣に座る厚着をしたデブが絡んでくる。

ドライブスルーで買ったハンバーガーを持って、脂ぎった顔を向けて来やがった。

お前の息臭ェんだよ。歯ァ磨けや、歯垢溜まってんぞ。


「ちッ……」


俺は気分が悪くなって視線を下に向ける。

床には空んなった酒缶とコンドームの箱が転がっていた。

中には接着剤がダースで買われている。

背凭れの後ろにあるポケットには茶色に変色したタオルが突っ込まれていた。

この車はヤリ部屋だ。

適当に女ァ捕まえて、ビデオを回して売ってるんだとよ。

モザイクが掛かってねぇから、そこらのAVよりも高く売れる。

俗に言う裏ビデオって奴だ。

時折、俺も金の為に参加してる。

だからと言って、俺ぁこいつらの仲間なんざ思ってすら居ねぇ。


今日も仕事で一発ヤって、そんで金でも握って帰ろうとしてたのに。

奴らは金は後で、肝試しをしてからにしようと提案しやがった。

下らねぇ余興なんざどうでも良かったが、労働に対する対価は必要だった。


「いつになったら着くんだよ」


既に三時間は走りっぱなしだ。

もう県外を超えて、見知らぬ土地に突入してやがる。


「もうすぐだ」


助手席に座る野郎が言った。

この中じゃ、二番目に付き合いが長いが、名前は知らん。


「此処だ」


やっとの思いで車が駐車した。

ライトを点けっぱなしにして外へ出る。

肺すら凍える空気だ、鼻が痛くなるから俺は嫌いだ。

ドアをぶっ壊す勢いで閉める。


「肝試しって此処かよ」


俺はライトで照らされる建物を見た。

柱が腐り折れちまって、半壊した神社だった。

狛犬に苔が生えてひび割れている。

もう片方の狛犬は、首から上が捥げていた。

砕けた石畳の上を歩く。

鳥居は朱色の塗装が剥げてみすぼらしくなっていた。


次話↓

https://kakuyomu.jp/works/16816700426335346360/episodes/16816700426390591032


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