第三歩 喰違い

 8


 翌日の深夜。

「ねえ、本当にやるの? 今日ぐらい見逃してあげてもいいんじゃないかしら?」

「何言ってるんですか。迷える魂達は即刻天界に返してあげる、それがプリーストであるアクアさんの仕事でしょ」

「それはそうなんですけど。私もう眠いのよ」

 アクセルの郊外にある共同墓地で、あたし達は一塊になって息を潜めていた。


 昨夜、共同墓地で怪しい光が見られた。

 この情報が持ち込まれてたギルドが早速調査クエストを発注したので、暇を持て余していたあたしがそれを受ける事にしたのだ。

 しかし、流石に一人では有事の際に対処できない可能性がある。

 そこで……。

「ここまで来たんだから諦めろ。にしても、あれだけ派手に戦ってたのにすっかり元通りになってやがる。やっぱウィズって凄い魔法使いだったんだな、正直忘れてた」

 女神であるアクア先輩に夜目の利くカズマ君。

 この二人に助っ人を要請したのだ。

 めぐみんは既に魔法を打ち終わっているし、ダクネスはまだ事務作業が残っているとかで忙しそうだったからね。

 とまあ、ここまではあくまで建前。

 本当は屋敷すら出ようとしない二人を働かせようと、あたしとダクネス、めぐみんの三人で結託したのだ。

 でもこれを知って二人の機嫌を損ねたら面倒だし、バレるまでは黙っておこうと思う。

「にしても、お前ウィズの代わりにここの除霊を定期的にやるって約束してたよな。またサボったのかよ」

「失礼ね、ちゃんと週一ぐらいでやってるわよ。憶測だけで勝手に私の評価を下げないでくれます?」

 うそ、物臭な事に関しては天界随一と言われたあのアクア先輩が?

「先輩、いつからそんな真面目な人になったんですか⁉ あのズボラだった先輩は一体どこに?」

「聞き捨てならないわね、その言い方だと私が真面目じゃなかったように聞こえるんですけど。と言うか、今私の事先輩って言った?」

 ………………。

 しまった‼

「私を先輩って呼ぶ人の数は限られてるんだけど。もしかしてクリスって……」

 ど、どどどうしよう、これ結構ピンチじゃないかな?

 もしあたしの正体がバレたら、何かにつけて絡まれるに違いない。

 それだけは何としても避けなければ。

 でも、一体どうすれば……そうだ!

 こういう時こそ頼れる我が助手だよ。

 藁にも縋る思いで助手君の方をチラッと見たが、その顔は既に諦めていて視線を合わせてくれない。

 薄情者!

「い、いやそのあの、い、今のはちょっと間違えただけと言うかなんと言うか、別に深い意味は……」

 グイグイ顔を近付けてくる先輩に、あたしは苦し紛れの言い訳を、

「もしかしてアクシズ教に改宗したいの? まったく、そういう事はもっと早く言ってくれればいいのに。アクシズ教はいつでも新しい信者を歓迎するわ。さあ、新しい信徒であるクリスもご一緒に。アクシズ教、万歳!」

「いえ、改宗する気はないです」

 目をキラキラさせたアクアさんから一歩離れ、あたしは丁重にお断りした。

 セシリーさんと言いご神体本人と言い、なんでこんなにアクシズ教に勧誘されるかな。

「おいアクア、あんまりクリスを困らせるなよ。あと、もうちょっと周囲を警戒しろ。いつモンスターが出て来てもおかしくないんだからな」

「そのセリフ、優雅に寛いでおきながら良く言えたね」

「急にコーヒーが飲みたくなったもんでして」

 コップに初級魔法で水を入れ下からライターで焙っているカズマ君に、あたしは呆れた目を向けた。

「あっ、カズマ、私にも頂戴。カフェラテを希望するわ」

「ミルクは持って来てないからブラックで我慢しろ」

「なによ、使えないわね」

「顔に熱湯ぶっかけてやろうか」

 カズマ君の言葉にバッと距離を開けるアクアさん。

 そうは言いつつも、カズマ君はしっかりと新しいコップにコーヒーの粉を入れていた。

 おかげですっかり休憩モードに入ってしまっている。

 緊張感など欠片も存在しない。

「あのさあ、今はクエスト中なんだからもっと真剣に取り組みなよ。そんなだからキミは事ある毎に死んじゃうんだよ」

 あまりの目に余る光景に、あたしは棘のある口調で咎める。

 するとカズマ君は申し訳なさそうな、でもどこか納得がいっていないような複雑な表情を浮かべた。

「クリスにはいつも迷惑かけて悪いと思ってるけど。俺が死ぬ一番の原因はこいつらのお守りをしてるからだ、そこは履き違えないで欲しい」

「何でもかんでも私達のせいにするのはやめてよね。寧ろちゃんと毎回生き返らせてあげてるんだから、もっと私に感謝なさいな」

「それ以上にお前らからは迷惑被ってんだよ!」

「だから、今はクエスト中だって言ってるでしょ! いい加減真面目にやってよっ!」

 不毛な言い争いをする二人にたまらずあたしが大声で割り込んだ、その時。


「お、おい、あそこなんか光ってるぞ!」


 カズマ君があたしの後ろを指さした。

 振り返ってみれば確かに、複数の光子が墓地の上で浮遊している。

 その微粒子はふわふわと宙を漂っていたかと思うと、突然すっと地面の中に吸い込まれる様に消失した。

 束の間辺りがシンと静まり返り。

 脈絡なく地面がボコボコッと隆起し無数の手が飛び出した。

 枯れ枝の様にやせ細った手をぎこちなく動かし地面から這い出したそれらは、何度も崩れながらゆらっと立ち上がり、その姿を月明かりの下に現す。


 ――ゾンビの誕生である。


 数は三十体ぐらいだろうか。

 その動きはどれも鈍い。

 暫くその場を動かずにもたついていたそれらは、ピタッと動きを止め。

 あたし達が隠れている茂みへと一斉に行進を始めた。

「結構数が多いな。アクア、あいつらの狙いはどうせお前だ、いつも通りサクッとやってくれ」

「任せなさいな! あれしきの集団、ターンアンデッドで一発昇天……あっ」

 あたしは腰回りに手を添えて態勢を低く構え……。

「おい、何だよそのやべえ感じの『あっ』は」

「……足つって動けない」

「おまっ、こんな時にそんなボケいらねえよ! いいから早く立て!」

「うひゃあああっ⁉ やめてやめて! 今冗談抜きでピンチだから、身体中がビリビリしてるからっ!」

「こっちもそれどころじゃねえんだよ! やばいやばい、囲まれてる。お前のせいで一気にピンチになったじゃねえか! お頭、何とかなりませ……お頭⁉」

 助走スキルをフル活用して一番手前のゾンビに肉薄し、すり抜け際に素早く抜刀した。

 ザザーッと土の上を滑って勢いを殺し、次の戦闘に備えて即座に身構える。

 チラッと目をやると、先ほどのゾンビは首が跳ね飛び、切り口から徐々に体が崩れ去っていた。

 あたし特製のダガーは今日も絶好調らしい。

 未だにのろのろとアクアさんに向かって歩くそれらを捕捉したあたしは、背後から容赦なく切りかかった。

 若干の抵抗はされながらも、一体、二体と順調に討伐していく。

 そして六体目を切り崩しスピードが落ちた時、同時に三体のゾンビがあたしを囲って腕を振り下ろしてきた。

 マズイ、避け切れない。

 これはダメージ覚悟で、カウンターを狙うしか……。

「『狙撃』っ!」

 突然遠方から声が聞こえたかと思うと、耳元を何かが掠め。

 次の瞬間には、前方にいたゾンビの眉間に鏃が突き刺さっていた。

 狙撃による反動で後方にのけ反るゾンビ。

 その刹那を逃さず、あたしはそれに突進して二体のゾンビからの攻撃を回避する。

 地に手をつき前転しつつ、それらから距離をとったそこへ。

「『ターン・アンデッド』!」

 高らかな声と共に、墓地を覆いつくす程の巨大な魔法陣が展開される。

 ゾンビ達は次々と浄化されていき、光が収まった頃には欠片も残らず消失していた。

 こんな高威力の浄化魔法を使えるのは、天界の中でもそうはいない。

「おーい、クリス、無事か?」

 墓地の中心で立ち尽くしていたあたしに、カズマ君とアクアさんが駆け寄って来た。

「助太刀が遅くなって悪かった。このアホの足が戻んのに時間掛かってさ」

「自分の事を棚に上げて偉そうな口開かないでよ! カズマだって大量のアンデッドを前に震え上がって、何もしてなかったじゃない」

「おお俺はお前に集ってくるゾンビを牽制したり、クリスの危機を華麗に救ったり色々してたからな。地面に這い蹲って悶えていたお前と一緒にすんな!」

「私だってアンデッド共をまとめて浄化してあげたじゃない!」

 ギャーギャー騒ぎながら喧嘩を始める二人。

 そんな彼らを半眼で見ながら、あたしは手にしたダガーを鞘に戻した。

「理解したよ。キミ達って家だろうと何処だろうといつもそうなんだね」

 あたしの言葉に、カズマ君達はポカーンとしてから顔を寄せて囁き始めた。

「カズマさんカズマさん。私達褒められてる? これって褒められてるの?」

「いや、多分馬鹿にされてるんだと思う」

「馬鹿にはしてないよ。褒めてもないけどね」

 言葉の裏を汲み取れなかったらしく、二人はキョトンと首を傾げた。

 かと言って、実際今の言葉に大した意味はない。

 ただ、二人を見て何となく思ったのだ。

 どんな状況下でも素でいられるのは、この二人だからなんだろうなって。

「そう言えば助手君、さっきはありがとうね。お陰で助かったよ。まあ、あとちょっとでも狙いがズレてたら、あたしの脳天に突き刺さってただろうけど」

「不意に打ったのは悪かったですよ。でも、俺とお頭の幸運値の高さなら、万に一つも当たらないって確信してましたし」

 悪びれもなく、助手君はそう言い切る。

 次いであたしは、アクアさんに視線を向けた。

「アクアさんもありがとうございました。アクアさんがいなければ、あれだけのアンデッドを相手するのはちょっと厳しかったと思います」

「まあね、私にかかればあの程度のアンデッドなんてちょちょいのチョイよ!」

 そう言って、アクアさんは大きく胸をそらした。

「でも一番驚いたのはクリスだ。ダクネスから聞いてはいたけど、本当にアンデッド相手だと容赦ないんだな」

「確かに、クリスっていつもニコニコしてて清廉を装ってるのかと思ってたけど、意外と残忍な子だったのね。アンデッドの群れに無心で突っ込んで行くあの姿には、流石の私もドン引きだったわ」

 そ、そんな風に思われてたのか。

「当たり前じゃないですか。アンデッドと悪魔は忌むべき存在、見つけ次第一匹残らず駆除しないといけませんから」

「そ、そうね」

 あれ、おかしいな。

 先輩の事だから、もっと激しく共感してくれると思ったんだけど。

 カズマ君もだけど、なんでそんなに引き攣った顔をしてるんだろう。

「よ、よしっ、取り敢えず依頼はこれで完了だ。ギルドへの連絡は明日にして、今日は帰ろうぜ!」

「いい事言ったわカズマ! あまりに帰りが遅くなったらめぐみんとダクネスも心配するだろうし、さっさと撤収しましょう!」

 どこかわざとらしいやりとりをしながらカズマ君達は街へと足を進めた。

 あたしとしても特に断る理由は無いので、黙って二人の背を追いかける。

「なあ、クリス。お前の趣味を止めるつもりはないけど、あんまり無茶しないでくれよ」

 あたしの趣味?

「もしかしてアンデッド狩りの事を言ってる? あれは趣味じゃなくて義務だよ義務」

「義務でも業務でもどっちでもいいけどさ、アンデッドを狩ってる時のクリスって危なっかしく見えたんだよ。鬼気迫ると言うか、自分の身を顧みてないと言うか。だから、もう独断で突っ込まないでくれないか?」

 暗くてはっきりとは分からないけど、カズマ君の声色からあたしの身を案じてくれているのは分かった。

「心配してくれてありがとう、次からは気を付けるよ」

「そうしてくれ。クリスの身になんかあったら、ダクネスに殺されかねな……」

「カズマ‼ あれっ、あれ見て!」

 カズマ君の言葉に割って入り、アクアさんが歩いてきた方角を指さした。

 つられるように、あたしはそちらを向き――


「急に大声上げんなよ! 一体何が見え……また光⁉ まさかこれって、根元を断たないと延々と湧いてくるやつじゃ……ってクリス! だから一人で突っ込もうとすんなっ!」


 9


 結局、あの後に三度アンデッドの大群が現れ。

 墓地を離れた頃には、かれこれ一時間が超過していた。

 これは後になって判明したのだが、不自然なアンデッドの大量発生は、高純度の魔力生命体があの場所で葬られた事が原因だそうな。

 生命力溢れる生物が死んだ場所では、そのエネルギーに吊られてアンデッドが増殖しやすくなる。

 故にその手の生物は悔いが残らぬよう丁重に送られるのが常識なので、そもそも人間用の墓地に埋められるはずもないのだが。

 きっと誰かがそれを疎かにして適当にあそこへ葬ったのだろう、というのがギルド側の見解だった。

 それを聞いたカズマ君達は何故か蒼い顔でどこかに行ってしまったが、行先は今でも謎のままだ。

 

 無事街に到着し、街灯光る住宅地を横断しながらあたし達は――

「ここまでクリスが強情だとは思ってなかった! お前ってやつは、一体何回特攻すれば気が済むんだよ!」

「こっちこそ、キミがここまで融通が利かない人だなんて思わなかったよ! 忌むべき存在を抹消して何がいけないのさ‼」

「ちょ、ちょっと二人共、そろそろ落ち着きなさいな。あんまりうるさいと町内会のおばさんが怒り出すわよ」

 周囲も憚らず大声で喧嘩を繰り広げていた。

「だから、アンデッド狩り自体は止めてないだろっ! そうじゃなくて、クリスの戦い方は見てるこっちがハラハラすんだよ。お前、自分がどんな顔してアンデッドに襲い掛かってるか知ってるか? 真顔だぞっ! 感情をどこに置き忘れたのかって疑いたくなるぐらいな無表情! おまけに俺達の声も届いてない、それで止めない訳がねえだろうがっ!」

 アクアさんの発言を聞いてか、声のトーンを抑えながら尚も言ってくるカズマ君に、あたしも声を潜めながら反論する。

「人の戦法に口を挟まないでくれるかな、実際このやり方で今まで問題なくやれてたんだから良いじゃない!」

「良くないに決まってるだろ! 今日だけでどれだけ俺がフォロー入れてやったと思ってんだ! あれが無かったら今頃クリスは傷だらけだからな」

「サポートには感謝してるけど、それはそれ。仮に傷を負ったとしてもあれしきの攻撃、教会のプリーストに頼めば跡も残らない。冒険者が怪我を恐れて戦わないなんて選択を選ぶ訳ないじゃないか!」

 どうしてこんなに話が通じないんだろう。

 頭が固かった頃のダクネスだって、ここまで食い下がってくる事はなかったのに。

 眉をキリキリと吊り上げて睨み合っていたあたし達だったが、ふとカズマ君が盛大にため息を吐いた。

「なあ、何がそこまでクリスをアンデッド狩りに駆り立てるんだ? あいつ等だって元は人間だろ? なにも自分から好き好んでゾンビとか悪霊に成り下がった奴はいないと思うんだが。それに、中には友好的で心優しいリッチーとかもいるかもしれないじゃん」

 は?

 この人は何を血迷った事を言ってるんだろう。

「なに、キミはあれの肩を持とうって言うの? 怨念や執着で現世にへばりついて魂の循環を滞らせるだけでは飽き足らず、罪のない人々に危害を加えては増殖して人の道を外れさせるあれは悪くないって、キミは本気で言ってるの?」

 あたしを見て何故か怯んだカズマ君だったが、

「わ、悪くないとは言ってない! ただ、中にはそういう奴もいるかもしれないから、せめて言い訳ぐらいは聞いてやってもいいんじゃないかと思いまして……」

 言葉尻を徐々に小さくしていく甘っちょろいカズマ君に、あたしはやれやれと肩をすくめた。

「そんなもの浄化した後に聞けば十分だよ、あれには現世に留まる価値がないからね。アクアさんからも助手君に言ってやって下さいよ。アクアさんだって、アンデッドは即刻滅すべきだって思ってますよね?」

 確実に同意してくれるだろうと踏んで、あたしはさっきからオロオロしていたアクアさんに話を振った。

「えっ? ええっ、そうね、勿論その通りよ! アクシズ教の教義にもしっかり書かれているわ。悪魔殺すべし、アンデッド土に返すべしってね、うん」

「……アクアさん?」

 予想と異なり、どこか言葉に力の籠ってないアクアさんの様子にあたしは眉を顰める。

「そうなんだけどね。でも……もしかしたら何かしら同情できる理由があるのかもしれないし、場合によっては言い訳ぐらい聞いてあげてもいいんじゃないかしら」

 おずおずと言い出したアクアさんの言葉に、あたしは目を丸く見開いた。

 信じられない。

 昔からあんなにアンデッド嫌いな事で話が盛り上がったアクア先輩が、アンデッド相手に手心を加えるだなんて。

「目を覚ましてください! あなたはアクシズ教のご神体なんじゃないんですか? 自分で言い出した事を勝手に曲げるってどういう神経してるんですか‼」

「おお落ち着いてクリス! 話を、話をしましょう! しっかり話し合ったら、きっと私達分かり合えると思うの。だ、だからそんなおっかない顔して揺さぶらないで!」

「待てクリス、頼むから一度冷静になってくれっ!」

 涙目になった先輩の胸元を掴み迫る私を、カズマさんが後ろから羽交い絞めにした。

「放してください! 私は先輩と話をしてるんです、あなたには関係ない!」

「そういう訳にもいかないでしょう! このままだと……」

 くっ、振り解けない。

 こうなったら頭突きの一発でも食らわせて……。

 と、近くの家の扉がバンっと開かれ。

「うるっさいんだよ、何時だと思ってるんだい!」

「「「す、すいません!」」」

 般若の顔で飛び出してきた奥さんに、あたし達は慌てて頭を下げた。

 その後、延々と説教をされ。

 十分ほど経過した所で、奥さんはピシャッと扉を閉めた。

 すると、アクアさんが怯えたようにあたしの方をチラチラと見てきて。

「ね、ねえ、一体どうしちゃったのクリス? 私、あなたがそこまで怒るだなんて思ってもみなかったんですけど」

「……いえ、もういいです」

 きっと先輩は、自分の変化に気が付いてないんだと思う。

 察しがいい人では決してないが、自分の中の正しさに忠実で表裏が無い人だ。

 なら、これ以上とやかく言っても仕方ないだろう。

「お、おいクリス。何処行くんだ?」

「帰る。ついてこないで」

「……今は同じ屋敷に住んでんだから、帰り道同じなんだけど」

「それでもついてこないで! キミと一緒にいたくない‼」

「ちょっ、カズマさんしっかりして‼ 大丈夫、傷は浅いわ。これぐらい、数多の女の子に敬遠された実績のあるカズマさんにとってはなんてことないでしょ!」

 後ろが何やら騒がしいが、それに構わずあたしは屋敷へと帰って行った。

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