第5話

 「37.5度。 完全に熱ね」


 「うわー……」


 「学校に休みの連絡入れておくからゆっくり寝ていなさい」


 「はーい……」


 母が自室から出ていき額に冷えピタを貼っている明日華は一人ベットに寝転んだ。


 予想はついていた。


 最近になって風が冷たくなった屋上でカーマとカーミアの三人で遊んでいたことを思い出す。


 二人に合わせて付き合って、肌寒さを感じた時には手遅れであった。


 火照った明日華は頭を上げるのは重く、こめかみを刺激されているかのように痛みが続く。


 「……早く治して、カーマ達に謝らないとな」


 「そんなこと気にしなくていいから。 早く寝ることだね」


 薄れる意識でこぼした言葉に、知っている声が聞こえる。


 「カーマ!?」


 「ん」


 「……頭痛い……」


 思わず飛び起きた明日華は頭を抑えた。


 「起きるときついよ」


 ベットに落ちた明日華の乱れた毛布を体にかけるカーマ。


 「……どうやって入ったの」


 「体を光に分解して、数ミリの家の間から入った」


 「へぇー」


 「さすがになれた?」


 「もう何やっても驚かない」


 「お話は終わり、おかゆでも作ってくるお母さんは仕事でしょ」


 「台所は」


 「壊さない程度に勝手にやってるよ」


 明日華の部屋からカーマはそそくさと出ていった。


 「……一人になっちゃった」


 仕方ないので明日華はベッドの中で目を閉じる。


 頭にズキズキと痛みが走るが眠気が迫っていき、穏やかに意識を手放した。




 「明日華」


 静かに戸を開け中に入るカーマ。


 中では明日華が静かに眠っている。


 「寝ちゃったか……」


 カーマは明日華の近くの胡坐をかいて座り込む。


 時間など気にせずにカーマは明日華の寝顔を見つめ続ける。


 じーっと動かず見つめ続ける。


 カーマはある事に気づき、明日華の額に貼ってある冷えピタを左手ではがすと右の掌を額につける。


 カーマは目をつむり集中する。


 体中がほのかに光りだす。


 体中の光を右手に集中し、体が光らなくなった代わりにカーマ右手は眩く光り輝いていた。




 明日華は夢を見ていた。


 いつものように屋上に入ったところだ。


 屋上の中心ではカーマが涼しい風に長い髪を揺らしながら、立ち尽くしながら空を見上げていた。


 「カーマ」


 「ん」


 「何やってるの」


 「何しようか考えてるの」


 「ふーん」


 カーマの隣まで歩んだ明日華も空を見上げる。


 「カーマってさ」


 「ん」


 「どこから来たの?」


 「……」


 「なんで、そんな力があるの?」


 「……」


 「これからどうしていくの?」


 「……」


 「……ごめん。 夢の中だから答えてくれるかと思っちゃった」


 「……」


 「忘れて。 って言っても夢の中か」


 「……嫌になったんだよね」


 胡坐をかいて座り込んだカーマにつられて体操座りをする明日華。


 「生まれつき強い力を血生臭くて陰湿で窮屈な世界で暴れているうちに何やってんだろって思うようになっちゃって、私が守ってきた平和がどれだけ平凡でかけがえのないものか感じてみたかったんだ」


 「……」


 「妹そっちのけで来たのは悪かったけど、結構追い詰められてたのかな~」


 「そっか」


 「だからさ、私のことをあんまり知ってほしくないけど、一緒にはいてほしいんだよね。 わがままでしょ」


 「うん。 すっごくわがまま」


 「へへへ……」


 「そうだね。 昔の君とか関係ない。 今わたし達は友達なんだから。 その平凡ていうのをこれからも味わっていこう。 一緒に」


 「ありがと」


 「うん」


 明日華と見つめ合うカーマ。


 「実はさ、明日華」


 「何?」


 「君のことを気に入ったのは」


 「?」


 「一目ぼれだったりして」


 「!?」




 赤くにじんだ頬で起き上がった明日華。


 「おはよう」


 明日華の横で胡坐をかいて座っているカーマが一言。


 「……おはよう」


 明日華も一言、答える。


 「おかゆ作ったから持ってくるよ」


 「……ありがと」




 お粥の入ったどんぶりを明日華に手渡すカーマ。


 「いただきます」


 小さなスプーンで一口。


 「美味しい」


 「妹が良く熱を出してたから、その度に作ってたんだ」


 卵の風味が食をより進めさせる。


 あっという間に食べを得たお粥のどんぶりをカーマに手渡す。


 「ごちそうさまでした」


 「お粗末様でした」


 どんぶりを受け取ったカーマは立ち上がる。


 「さてと」


 カーマの全身が急に光りだす。


 「眩しっ!?」


 光が収まるとカーマが成長したような女性が立っていた。


 「カーマ?」


 「流石に前の姿じゃ説得しにくいからね。 ちょっと大人に成長してみました」


 「説得?」


 「お母さん。 あと5分で帰ってくるから」


 「そんなこともわかるんだ」


 「まあね」


 「カーマ」


 「ん」


 「明日からまたよろしく」


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