第6話

 7月の中旬の日曜日、10時を回った頃。


 「Zzzz……。 Zzzz……」


 「カーミア。 これぞ人間の可能性。 トランプタワー!」


 「すごいです! このなんとも言えない芸術を生み出せる人が目の前にすでにいたとは」


 とある温泉旅館の和式の部屋。


 カーマは腕を枕にカーミアは明日華の出す珍妙な特技に目を光らせていた。


 「Zzzz……。 Zzzz……」


 「今度はこれ、あやとり! 上上下下右右ここをこうこう。 はいっ、流れ星」


 「おおぉ! すごい! 早い!」


 カーマと明日華、カーミアは温泉旅行に来ていた。




 一時間前。


 「明日華。 ちーす」


 「おはようございます。 明日華さん」


 「うん。 おはよう」


 先日、熱を出していた明日華。


 1日ゆっくり眠り、体調は無事回復。


 チャイムが鳴り、玄関を開ければカーマとカーミアがやってきたのだった。


 「ふたりとも上がってあがって」


 「ん」


 「お邪魔します」


 明日華はカーマとカーミアを自分の部屋に案内した。


 明日華とカーミアは女の子座り、カーマは胡座をかく。


 「今日は何をしに来たの?」


 「しに来たんじゃなくて、これからする。 っていうか行く」


 「?」


 カーマの言葉に明日華は首をかしげる。


 「昨日明日華のお母さんに挨拶しただろ」


 「はい」


 「それで一応明日華の先輩ってことにしといたんだよ」


 「はい」


 「それとは別に温泉の宿泊券があります」


 「?」


 右手に三枚の宿泊券を見せるが、何を伝えたいのかよくわからない明日華。


 カーミアが口を開く。


 「まとめると大人化した姉さんが明日華のお母様と仲良くなり、姉さんのしゅくはくけんがもったいないので家族で使ってくださいと言ったところお母様は信頼した姉さんに明日華のと一緒に行ってあげてくださいと返された訳です」


 「というわけで行こう」


 「そういうことならわかりました」


 承諾を聞くとカーマとカーミアはハイタッチで意思を表現する。


 「それでいつから行くんですか」


 「えっ、今から」


 「今から……。 えっ!? 今から!?」


 「うん」


 明日華が驚くとカーマが首を縦に振った。




 「おまたせ、荷物持ってきた」


 「うっし。 それじゃぁ、行こうか」


 「ところで、どうやって行くか聞いてないんだけど。 姉さん」


 三人がリュックを背負って明日華の玄関前で集合した。


 「どうやってって、ワタシで行くんだよ」


 「あー、なるほど」


 「えっ、姉さん」


 カーマの体が輝きだし、大量の光の粒子に変わる。


 光の粒子が明日華とカーミアの体を包み込むと数キロ先の上空まで登って行った。


 光の粒子が、両手を何かを包む形の巨人の姿へと集まった。


 「おっ、お姉ちゃん!? 人前で力を使っちゃダメだよってあれほど言ったのに!」


 「誰もいないのは確認してるから大丈夫だよ」


 「おぉぉ!」


 怒るカーミア、受け流すカーマ、興奮の冷めない明日華。


 「はい、出発」


 「お姉ちゃん! まだ話は」


 「あれ、動いた?」


 「降下しまーす」


 「聞きなさい! 無視するなー!」


 そんなこんなで、旅館に入りくつろぐことになった。




 「ん……くあぁぁぁ……。 よく寝た……かな……」


 「すぅ……すぅ……」


 「むにゅむにゅ……お姉ちゃんの……ばか~ん」


 目覚めたカーマは雑魚寝している明日華とカーミアに目を向ける。


 「今何時だろう」


 部屋に取り付けられた時計を見ると午後の6時に針が迫ろうとしていた。


 「そろそろ夕食か。 起こそう」


 「すぅ……すぅ……」


 「Zzzz……。 Zzzz……」


 「おーい。 起きろー」


 「んんん……」


 「お姉ちゃんうるさい……」


 「しょうがない」


 カーマは明日華に近づき。


 「起きろー」


 「ん……。 むにゃむにゃ……。 あ痛っ!?」


 カーマは明日華の額にデコピンを一撃。


 「いったぁ……。 カーマ……おはよう」


 「はい、おはよう」


 眠そうに眼をこする明日華にカーマは返事をする。


 カーマはうつ伏せに眠るカーミアに近づき、


 「ほいっ」


 「いったあああぁぁぁ!?」


 カーミアのお尻を引っぱたいた。


 「何すんの!」


 「夕食の時間だから起こしたんだよ」


 「起こし方ってものがあるでしょう!」


 「ごめんごめん」


 「謝る気があるならよそ見するな!」


 「二人とも、行こう」


 「おう」


 「バカ姉! しっかり謝れ!」




 「ここのご飯おいしかったな」


 「うん。 さすがって感じだね」


 「姉さんは食べすぎですよ」


 「いいじゃんか。 旅行なんて一度も行ったことなかったんだから」


 「それもそうだけど」


 彼女たちは夕食を済ませ、旅館の廊下を進んでいた。


 「それじゃあ、部屋に常備されてる温泉。 入ろうか」


 「さんせーい」


 「そう思ってました」


 と言うわけで、


 「「「くあぁぁぁ……染みるぅぅぅ……」」」


 三人は温泉に浸かるととろけたような声を上げる。


 「「すやあぁぁぁ……」」


 「くすっ」


 「「ん」」


 「いや、姉妹だなあって」


 「そうだなー」


 「姉さんとお風呂入るなんていつぶりだろう」


 温泉で緩み切っているせいかふわふわした言葉が出てきてしまう。


 「本当にあんなところ飛び出してよかったよ」


 「そうだね。 今思うとお姉ちゃんの考えに賛成」


 「二人とも苦労してたんだね」


 「本当よ。 わたしたちを女だからって甘く見ちゃってさ」


 カーミアが嫌なことを思い出したかのように嫌悪の表情を浮かべた。


 「そういうなって、おかげで今みたいに自由の尊さを知ることができたんだから」


 「それもそうね。 結果オーライってことにしときましょう」


 カーマとカーミアがお互い同じような表情で温泉に浸かる。


 「これからも一緒にいられるかな」


 明日華の口から出た言葉にカーマとカーミアは、


 「わたしは戻る気ないけど、お姉ちゃんどうするの」


 「そうだなー。 まずは邪魔になりそうなやつらを掃除しちゃおう」


 「「それから」」


 「それからは明日華とカーミア。 一緒に気長に遊ぼうよ。 お金なら16年分溜まってるからねー」


 「さすが、お姉ちゃん。 頼りになる」


 「カーマなら何でもしちゃいそう」


 「これからもずっと一緒だ。 ワタシがそうさせる。 とりあえず」


 「「とりあえず」」


 「温泉でゆったりしよう」


 「「さんせーい」」


 「「「くあぁぁぁ……染みるぅぅぅ……」」」




 「明日は何しようか」


 明日華が言う。


 「わたしは姉さんに任せるよ」


 カーミアが答える。


 カーマは「んんん」とうなり声をあげ、


 「決めた。 明日考えよう」


 「姉さんったら」


 「カーマの言う通りにしちゃおっか。 明日も自由だねー」


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