第4話 褒められの翁

「う…んっ……。」


俺は眠気に全力で抗って、目を開ける。


意識が覚醒するのはとても不思議な感覚で、例えようがない。


頑張って例えるのならば、着衣泳のあとに水着で泳ぐみたいな感じ。

…………やっぱ、俺の例えって分かりやすいよな?


「おはよう。よく寝られた?」


…………へ?


なんか俺が睡眠と起床の間をパンパシフィックしてたら、そんな声が聞こえた。


嘘だろ、うん嘘だ。


いくら俺が人生どん底だからって、起きたら美少女が!!なんて、展開にはならないだろう!


「偉いじゃない」


「え?」


思わず声を出してしまった。


嘘だよな?

でも、確かに聞こえたんだよ。

幼くかつ、とても知性に帯びた声が。


「偉いわよ、貴方。ちゃんと勉強もしていたし、サッカーだって頑張ってた。それに、あの子に告白するのに、何日も前から考え抜いていたじゃないの。偉いわ、すっごく偉い。」


「あっ、あの、どちら様で?」


何かとてつもなく嬉しいことを言われているし、今すぐ飛び跳ねて喜びたいけど、今はそれやりも彼女は誰?今どんな状況?といった、疑問のほうがツヨツヨのつよしだった。


「私のことなんていいの、今はあなたのことよ。貴方今、とても落ち込んでいるでしょう?」


目を開けて声の主を見ようとすると、小さな手で目を隠されてしまう。


その手は普通の女子高生の手よりもかなりちっちゃかった。ソースは俺。


「ま、まぁ死にたくなるくらいには。」


状況は飲み込めない。10円ガムを一気に噛んだときぐらい飲み込めないけど、この人は悪くないということはなんとなく理解できた。


なので、俺は紳士的に対応する。


…………別に声が可愛いから顔も可愛いだろうし、こんなこと言ってくるんだから脈アリだとか思ったわけじゃない!!絶対に違う!!


「そうよね、辛かったわよね。でも、大丈夫よ。貴方は偉いの、頑張ったのよ。周りが全部悪いとは言わないけど、環境はいつも味方してくれるとは限らないの。だから、悪いのを全部自分のせいにしないで。」


優しく俺の頭を撫でながら、ゆっくりと紡がれる俺を褒め称える言葉の数々。


普通に聞けば、耳を塞ぎたくなるくらいの甘々度合いだけど、今の俺にはこれくらいが心地よい。


「…………。」


あまりにも彼女の言うことが心に刺さりすぎて、俺は黙ってしまった。


普通に彼女っていったけど、これは果たして本当に女なのか?

いや、流石にこの可愛らしい声で男ではないだろう。

いや、でも今どき男の娘なんてものも流行ってるし、ワンチャンめっちゃかわいい男説もある。


…………ヤベェ、なんかそっちの方が興奮するかも。


変な性癖をここで開花させた俺は置いておいて、この子のことだ。


なんで、俺は膝枕されて、褒めちぎられてるん?


俺が寝たのは冷たいコンクリよ?

寝起きの俺のベッドぐらい湿ってるコンクリよ?


実はこの子コンクリの擬人化でしたぁ!パティーン?

俺、そこまでマイノリティな性癖してないと思うんだけど。


「駄目なときはダメでいいのよ。ゆっくりと休んでれば、貴方自身は変わらなくても環境の方は変わっていくからね。大丈夫なのよ。」


俺がしょうもないことを考えている間にも、褒めちぎりは続いていく。


このままだと褒めちぎられすぎて、紙くずになって風にのり飛んでいく説まで出てくるけど?


「偉い偉い。大丈夫、大丈夫。貴方ならいけるわよ。」


心のなかでは誤魔化しつつも、実際その褒め言葉は、しっかりと俺の中に響いていた。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 


☆☆☆よろしくおねがいします!

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