スノーの破壊と別れの時

むかしむかしそれは異世界でのお話。

王子の名はシューランデルス。これは王子と王子を取り巻くものたちの物語




珍しく、シャルファーサ王女がテルモノに正式訪問してきた。ここにいるのは国王と二人の兄とシューランデルス王子、それぞれの近衛隊長と宮廷付き魔術師28名とカデリアだった。


「それではテマル国王はスノーを持ち帰るために出陣したというのだな?」

「ほぼ、まちがいないと思います。表向きは偉大なるデオナルドを墓に収める為となっているのですが…この一ヶ月兄様の申しますには水晶球のスノーばかりを覗き続け北国から大量の氷箱と氷を仕入れていたとかで…」


「それが本当だとして何故、わが国に相談に来たよ姫君」

「この国は魔術師王国と言われています。そしてこの前忍びでご一緒させていただいたときにスノーは死んでなお魔力を放ち続けていると、そんなものを大陸の中心、第一の世界樹の近くに近づけたらどうなるか私には検討もつきません」


「行ってきた人間の判断からしますと、老人一人は体に縛りつけ下ろす事は可能かと思いますが、魔女の氷付けを下ろすのは至難の業かと思います」

「凍った魔女に浮遊の術をかけた場合はどうなのでしょうか?」


「シャルファーサ王女、あれは生きているものにしかかけられません」

テルモノの宮廷魔術師が魔術師を代表して言う。テマルには三人の魔術師しかいない。レベルもテルモノの魔術師と比べるとひよことにわとりだ。空中遊泳の術は使えるものはいないだろう。それにしても困った王様だ。止めて聞く人でもない。


「まずはだ運ばれてきたとしてここら一体の地を守る統べはあるのか魔術師」

20人以上の魔術師がざわめき話し合う。そこへカデリアが黒い石を放り出す。

「その石なら1000年は死んだ魔女の魔力を吸収するじゃろて」


「おお、魔源石。こんな大きな石は見たこともない。だが魔源石は本来吸収されている魔力を魔法のさい抽出して自分の魔力を補うもの。逆に石に故意に魔力を吸収させる方法があるのですかな?」


「わしゃにはできん。できるものは岩谷のマーシャくらいしか知らないな」

「カデリアおば様、魔女の魔力に勝てるかは解りませんが若輩ながらこのサラリーがその魔法は習得しております」


「サラリー、長生きしたければ余計なことは言わないことじゃ。一人じゃ不安ゆえ、マーシャに事情を話し連れて来てくれ。嫌とは言わんだろうて」

王の命令で伝達者として一人の魔術師が呼ばれすぐに旅立った。


「それで臨時にはどうにかなるとして根本的解決にはどうしたらいい」

「それがそのー、非常にいいにくいのですが、あのー、魔術師の意見としては…」


「宮廷魔術師殿、せん越ながら私が申し上げさせていただきます。魔術師全体の意見としては大国テマルの国王を怒らせてしまうかもしれませんがスノー自体を破壊してしまうしかないと思われます」


「ふむ。怒るだろうな。姫君抑えられるか?」

「無理です。戦争になりかねません。ですが不可抗力が起きたなら仕方がないかと思いますので、本人に壊させるのが一番いいかと思われるのですが」


「それならば運び降ろすときが一番じゃないか?おろすのは難しいのだろう?ならば落とさせればいい。風を吹かせるなり、縄が切れるなりいろいろ考えられる」

「それではスノーが無くなった後の北国をどう守るかの議題に移れますね」


「北国には北国の特産品や珍獣や娯楽がある以上守らねばならないだろうな」

「その通りでございます。第二王子様」

「あの山からなら狂える雪嵐を拡張永久持続させるのが一番だろうて」


「カデリア待って、私の意見的にはあの山が雪山である必要性はないのじゃないだろうかと思うのですが」

「第三王子、それはもっともな意見です。スノーが居なければあの山は春山だ」


「ならば北国に飛んでそれぞれの国の中心に凍える吹雪を永久持続すればいいじゃろうて」

「その魔法使えるものは何人おる」

21人の人間が手を上げた。王は若いのから5名選出し、残りの魔術師と各近衛から2個大隊を編成し残りの魔術師と第一王子、第三王子を引き連れ山へ出陣した。


「寂しいだろう?せっかくサラリーと仕事が出来ると思ったのに分かれちまって」

「仕事だ。割り切ってる。凍える吹雪をかけまくるんだ統率者がいる」

「私が始終ひきずりだすし、結婚生活の邪魔してるよね…」


「姫君、他の女に走る男も多いが離れてる間に思いを溜め込んで燃え盛るような夫婦もいる。サラリーとはそんな関係だ。お互いまだ若いしな」

「17歳で結婚しちゃうんだもんね。凄いよね。私なんかまんま餓鬼だわ」


「そこ!おしゃべりのしすぎだ遊びに行くんじゃない隊列を乱すな!!」

第一王子の叱咤が飛ぶ。体格は父親似の筋肉質で大柄な人だ。性格は無骨で融通が効かない。それが真面目な方に走ってくれてる分だけが救いだがやりにくい。


「兄上様、申し訳ございません。わたしが口をだしてしまいました」

シューランデルス王子が一応、謝る。カロルもそれにならい敬礼する。それを見て呆れながらもシャルファーサ王女もお辞儀をした。そして各自の場所に帰る。


テマルの国王軍に追いつくのに夜間通しての強行軍だった。結構な人数をこちらも連れているが追いついても気付かれるわけには行かない。皆白装備に着替え慎重に歩いていく。シューランデルス王子が自分たちが登り始めた場所をみつけた。


「国王陛下。わたしはここの崖を登りました。しかしながら気配を感じません」

「ふむ。兵を10組に分けて道を探索しよ」

「兵を10組に分ける!各自のリーダーは………急いでだが慎重に行動しろ!」


第一王子が聞く。

「姫君。貴方もこの崖を登ったのかな?」

「登りました」


「厳しかったろうに。父王は安全な道や隠し通路もしくは魔法の道筋を教えてもらえなかったのかしりたいのだが…」

「そんなものあれば私が知りたいくらいです。知ってて黙ってたなら正直ショックで夜も眠れない気分です」


「見つけました。こっちに死体が転がっています」

「すぐ連絡の水晶球で全員を召集!」

連絡をして帰ってくるのに1時間ほどかかった。急ぎ死体の転がっている場所に行くとまた死体が増えている。宮廷魔術師が一人一人脈を測り死んでいるのを確かめ一人はまだ温かいので蘇生可能なことを知らせる。


「状況が知りたい。すぐに生き返らせろ」

「兄上様、ここは私が魔力感知した真下になると存じ上げます」

それを聞いて宮廷魔術師が急ぎ魔法をかける。うなづいて


「確かに末王子の言うとおり真上から強い魔力を感じます。昨日の強行軍もありますし、氷を切り出すには時間がかかるかと思いますゆえ、今日はここまでかと」

「馬鹿かストレートに真上に上るなんて相当な技術が要るのに…国王も上か?」


「それはこいつが教えてくれるだろう。テマルの国の兵よ、ここまでのいきさつを知りうる限りみな話せ。でなければ首を刎ねる。一度死んでる怖くはなかろう」

「あんたたちどこの国のものだ?どうでもいいわが王を止めてくれ兵隊が半分以下になっちまう」


兵隊の話では山登りに適した傭兵を50人を雇い300人の兵隊を連れ魔力感知でこの場所を定めた後、王は担ぎ御輿にかつがれ50人の傭兵に守られ真っ直ぐ登っていったという。騎士たち含む300人の兵士もそれにならう。


最初は10人ずつ命綱をしていたが落ちる者はなんども落ちる。その度に体力を消耗していくのはたまらないと切り捨て方式で命綱をほどいたという。そうして登りきれなかった自分たちは落ちて死んだのだといった。


兵士達は氷の墓標を運ぶことを知らされていた。大きく切り縛り上げ350人で担ぎおろす予定らしい。だが山登りは難航し王とは随分と離され統率の無いまま杭を頼りに道を信じて登っていく右にも左にも杭…


ハーケンは打たれており兵隊はそれぞれ判断しバラバラになっている。ここにいるものは真っ直ぐ登ってるものだけ横道にずれた兵士の死体は他にも落ちているだろうとの話だった。


「馬鹿じゃないの。自分は手馴れたものに御輿に担がれて肝心の国の兵士を置き去りにして指揮系統もあったもんじゃない。ついてこれないほうが悪いというの。ならば何故傭兵を雇った。命は国のたからよ。大国テマルにとってはもっとも大事なものよ。それをたかが死んだ魔女を連れ帰るために捨ててるの。信じられない」


「シャルファーサ王女…」

「王女、ここで魔女を引き止めるには自国の兵はもっと失うやらも知れん。ここで待つがいい。これ以上の犠牲を見ないですむ」


「いいえ、私はテマルの王女です。これから山に登り父王に追いつきます。魔女を運ぶそのロープ私が切って見せます。テルモノの者に斬首の刑を要求させるような真似は私がさせません」


「アロン、山登りに適したものを10名集めよ。姫君に傷一本つけさせずに父王の元へ届けさせるのだ御輿はわしのものを使え。強行だがやってくれるな」

「その必要は無かろう。明日の朝で充分じゃ、全員運んでくれる」


「カデリア、空中遊泳の術で少しずつ運ぶのかい。何人かは使えると思うけど」

「わしゃ、ひとりで充分じゃ。テマル国王に知られぬよう上のたなを探して全員をそこにおいてくれる。嬢ちゃんだけテマル国王の元へ届ければいいのだろう」


次の朝、それぞれが戦闘準備を整える気付かれぬよう白装束の毛皮を着たままだ。

白い毛皮は貴重である。北国に住む獣達からしか取れない。それを100人以上保持していたのだから驚くところである。第二王子は国で留守番しているがこれを用意してあったのはその王子だ。何を想定したのかはわからぬがさすがと言えよう。


テルモノの者達を固めるといっきにカデリアは空中に浮かし凄いスピードで上がっていく。途中で山を登るテマルの兵士達が見えた。他の魔術師たちもびっくりしている。この人数、この速さ、この安定感、カデリアの歳でなおこれだけの魔術を操るのかと思えば宮廷の魔術師達がいかに生ぬるい生活をしているか思い知る。


丁度、スノーの氷付けの上に三つの洞窟があった。国王、第一王子、アロンの指揮の元三部隊にわかれて入る弓で狙うにもいい位置だ。これは故意に作った洞穴だろう。おそらくスノーを守るために…それが壊されるために使われる。悲しいことだ。


「嬢ちゃん手を取り父親のところへ連れて行くよ。覚悟はいいね」

「もとより、今回の行動には呆れ果ててますゆえに、父様から見れば私の命もさほど重たくは無いのかもしれませんが…覚悟はできております」


「シャルファーサ王女、わたしもいく連れて行って」

何か言おうとする王女を前にカロルに抱きすくめられシューランデルス王子は止められた。泣きそうな顔をお互いしてそれでも一息、息を飲み二人は別れた。


「王子が政治には口出しできぬことは各国すでに承知ですがそれでも戦争になりかねません。それゆえに俺たちはここに留まっているのです」

「国が違う。それだけで友人も守れないなんて王族は辛すぎる」


カロルが抱きしめる。アロンが何か言おうとしてカロルの顔をみてとどまる。すでにただの友人のレベルは超えている。本人達が気付いてないだけだ。涙を流すシューランデルス王子をただただカロルは慰めた。大丈夫だからと根拠もなく。


たなの目立たぬところに下ろしてもらい、そこから父王の元へ歩いて向った。

「国王陛下、娘としていさめに参りました。何人もの兵が麓にしんでおりました。まだ登っている兵も居ます。そのような氷の彫像を切り出す暇があったら先に兵を助けまとめ上げてくださいませ。一国の国王として恥ずかしい限りです」


「都合のいい時だけ娘に戻ってもわしの耳には届かんぞ。女のお前にはこの美しさ、この貴重さがわからないのだ。お前の母親も美人だったがその比ではないぞ。美しいものは側で愛でる物だ。こんな山奥に置いておくなど間違っている」


「スノーには強い魔力があります。連れ帰れば自国が雪国になります。他国も影響を受けるでしょう。そして今まで雪国だった地方は魔力をうしない不安定な季節の中すごさねばなりません。しかも雪国の特産や生態、娯楽など生活が奪われます」


「スノーの魔力は封じればいいではないか」

「テマルの宮廷付き魔術師には荷が重過ぎます」

「ならばお前の好きな国テルモノの魔術師を呼べばいい。小国故に嫌とは言わないだろう。賃金をはらえば大抵の仕事は引き受ける。プライドの前に飯が先だ」


「テルモノの人間にはプライドというか誇りというかそういうものは人一倍持っています。そんなこと頼めばスノーを破壊しに来るでしょう。戦争になるの覚悟で。

それよりもお願いです。既に死んでいる者ではないですか、そんな危険なものを持ち帰るより母君を大切にしてあげてください」


「娘一人無くしただけで狂いよった女なぞ、それこそ死んでもいいわ」

「ならば10億を超える民のことをお考えくださいませ。国王陛下はテマルの頂点に位置する存在です。多少の私欲を抑えても民を幸せに導くことが義務です。その為の税収であり貢物であり城で割の合わぬ給与でも働く兵士達の給仕たちへの礼儀にございます。私たちには権利だけでなく義務が生じているのです。


スノーの為に苦しい国の税金をどれだけむだに使いましたか?兄様の話では難民、乞食たちへの施しも中止なされたとか、生きる財産兵士達が今、命がけで国王の元を目指して山を登っています。スノーを降ろすとなればさらに犠牲者は増えましょう。お願いです。思い直してください。今すぐ山を降りるのです」


「遊び呆けているお前に何が解る。端々から縁談を断り、冒険者の真似事などしておるくせに。国王の責務は重責だ。多少の税金、多少の命犠牲にしようとも国王の安楽の時間を与える役目をになうのも民の役目だ!!スノーは私の宝になる!!」


「ではどうしても聞き届けてくれないのですね。ならば最後まで見届けさせてもらいます」

そう言うと国王の前まで来て思い切って平手打ちをする。構えてなかった王は揺らぎ、口を切った。


「この娘!首を刎ねられたいか!!」

「刎ねたければはねればよろしい。ここに居る者達がその真実を伝えましょう。テマルが存在して以来の愚王です貴方は。そのことを人々が言い伝えるだけです。


そこの傭兵ハーケンと綱を出来る限り貸してください。兵士に綱を下ろします」

「姫君じゃ無理だ。俺が行こう」

「俺も行こう。そことそこの者も手伝え」


「まて縄もハーケンも氷を降ろすのに必要なものじゃ、持ってくことは許さん」

「この人数じゃどちらにしろ氷は降ろせない縄は解いてまた使えばいい、ハーケンはいつだって余分にもってる山登りの常識だ」


五人ほどのものが大量の縄をもってシャルファーサ王女についてくる。洞穴のすぐ横はもろいといい少し奥へハーケンを打ち込みそこへ縄を結びつけいくつもの縄が一本の綱に結ばれる。登ってくる兵士の上のハーケンにまた結びつけたらす。


疲れきった兵士達には頼みの綱だった綱を伝い登ってくる大勢の者達が綱に頼るのでハーケンが緩んでくる。違う場所にハーケンを打ち込みそこへ綱を結びなおす。

何人もの人がぶらさがってる綱を結びなおすのだ。確かにシャルファーサ王女には真似できない。付いて来てくれた傭兵に礼を言う。


後は登り切った兵士達一人一人に励ましと礼の言葉をいい王の元へ行かす。兵士たるもの普段は遊んでいても仕事となれば安楽の時はない。洞穴に戻ると

「ふん。少しはそうして姫らしく働くがいい。大人しくな」


「国王陛下の為に働いてるわけではありません。わが民たる兵士の為に働いています。止めれるものならなんとしても止めたい気持ちで今も一杯です」

シャルファーサ王女は氷に閉じ込められたスノーを睨む。どんなに悲しかったかはわからない。でも世界の天候を変えれるほどの魔女が私怨に負けてはならないのだ。


どれほどの犠牲が生まれたか想像もつかない。そして今、また大勢の犠牲を生もうとしている。兵士傭兵350人道連れにしてでも止めてみせる。悪いけど氷ごと体も粉々に割れてしまうがいい。肉体が無くなれば魔力も消えるはずなのだ。


切り出しが終わる二日ほどは不気味なほど静かで皆氷を取り出すのに必死になっていた。シャルファーサ王女は黙ってみている。これ以上国王陛下に何もいう気はなく、ただ上で心配してくれているシューランデルズ王子のことを思う。


知り合ってまだ三年。でも三年の月日が経っているのだ。本当に幼さを残し自分より背の低かった王子は筋肉も素早さも自分を凌駕していたが最近は身長も伸び、体も男の匂いがするようになってきた。時々どきまぎするのを隠すのに必死だ。


ついて来てくれたとはいえ、テルモノのものに犠牲があってはならない。ならば一人でやるしかない。できるかできないかじゃなくやってみせるのだ。それは命がけになるのはわかってた。下まで落として割れなかったら私の負けだ。



その頃、遠目の魔法を使っていた魔術師が氷の切り出しが終わったことを伝える。それと同時にカデリアが口を開いた。

「わしゃが出る。宮廷付きじゃないのはわしゃ一人だ。氷を壊すのも一人で事足りる。テマル国王に問われても知らぬ存ぜぬで通せ」


「カデリア、それじゃ負担がでかすぎる。自分の歳もかんがえなさい」

「まだ120歳じゃ魔女としては粋のいい歳よ。譲ちゃんは必ず助けるから安心しろ。それよりも一時間しても戻らなかったらテマル国王を殺して氷を破壊することを頼む。向こうは疲弊しきっとる必ずできる。後は息子が賢王になることを祈ろう」


「承知した。お前無き後はこの第一王子が必ずやテマル国王の首を取って見せる」

それと同時ぐらいだった。切り出しが始まり何本もの綱で下ろされていく。最初はたなから降ろしている足場が良すぎる。まだだ、もうちょっと待てとカデリアは祈る気持ちで嬢ちゃんの気配をさぐっていた。


シャルファーサ王女もこの地点では睨みつけているだけで座り込んでいる。時が経つのは早くても切り出しは遅い。テルモノの者もシャルファーサ姫もただただチャンスの時をうかがい、たたずを飲んでいる。そして最初のハーケンに最後の傭兵が足をかけて折り始めたときシャルファーサ王女は立ち上がり氷に向かい走った。


伊達に運び屋はやってない。その足はしなやかで機敏で止めようとするものをすり抜ける跳躍して氷の上に器用に乗ったかと思うと腰の剣を抜き数度に分けで数秒足らずで全部縄を切ってしまう支えを失った氷は下で支えてるものを押しつぶし弾き飛ばし滑っていく転がり始め氷の上でバランスがいよいよとれずに落ちた瞬間


カデリアが腰をとり空中に浮かせる。

「カデリア、何があってもでてくるなと言ったのに」

「わしゃ、国のもんでも宮中のもんじゃない。処罰なら一人で済む」


氷を追いかけ空を降りていく。

「お嬢はものを食ったほうがいいなわしゃでも軽く感じるぞ」

「私は大食漢よ。仕事柄、太らないだけで悩みの種でもあるわ」


氷が地面に叩きつけられる四肢は微塵に割れたが頭と体は無事だ。カデリアが雷を呼び氷を粉々にして、自分たちは透明化するとテルモノたちのいる所に帰る。

テマル国王の憤慨ようは恐ろしく、雄たけびが雪崩れを起こし被害を拡大した。


来た時の1/3に減ったテマルのものたちは帰っていく。シャルファーサ王女はテルモノの城で預かっていたが一ヵ月後、返すようにテマル国王から正式な書状が届く。

カデリアも国に差し出すように言われてきた。



「ねぇ、シューランデルス王子、抱いてよ」

「何を急に言い出すんだ。わたしたちはそのような関係に無いだろう」

「でも、最後かも知れない。何も知らずに死ぬのは悔しいし、今一番大切な人だ」


シャルファーサ王女が真剣な顔でシューランデルス王子を覗き込む。

「シューランデルス王子だってこれが最後ならどんな結びつきを望む?」

「………この部屋でいい?」

「王子の部屋行こう」

「カロルがいるよ」

「構わない」

「ついておいで」


次の朝、シューランデルス王子はカデリアとシャルファーサ王女と向き合う。他の者には遠慮してもらった。

「こんな形で二人と別れなければならないのはなんていったらいいかわからない」


そう言って泣き出すシューランデルス王子。

「これが最良の選択じゃった。簡単には死なない人暴れして隠れ家にでもおるわ」

「私はシューランデルス王子の中にもう居るでしょう。泣かないで」




二人はテマルの王の命令により絞首刑が決まったが生き残った兵たちにより減刑が求められ幽閉の身となった。そしてある日突然と二人とも消える。王は躍起になって探し、テルモノの国にも探索は及んだがとんと見つからなかった。


兵隊達の口は軽く、テマル国王を愚王とののしった。シャルファーサ王女の話は広く言い伝えられ反旗を翻すものが集まり国に押し寄せたのはそれから一年と経たないはなしで国王は首を刎ねられ、兄王子は関わり無かったこととして次期国王として即位した。


民の陳情と反旗を翻した者の意見を聞き入れ国王の活動は国王の意思はもちろんのこと代表国民の決議が必要なこととなり、国民決議室が城に設けられ王族、公爵、貴族、騎士、豪商からなる民事が始まり国王はそれまでの自由を剥奪された。




「テマルの国はこれで大きく様変わりしますね。今まで民の意見を謁見や書面で受け入れる国はあっても直接、政治に関与する国はなかった」


「あれだけでかい国だ民の関与機関がなかったのが不思議だと俺は思うよ。テルモノでさへ民の意見は出来る限り受け入れてる。俺が何人の使者を毎日走り回らせてると思う?」


「第一王子は彫像のように構え統率し第二王子は鳥のごとく飛び回り知事を深める。わが国のやり方ですね。国王はそれを確認しているだけだけど、今回のようなことがあれば率先して前に出る。戦争本気で覚悟していたかもしれませんね」


「兄王子も父王も覚悟はしてたろうね。俺は地道に前準備と後始末さ」

「それじゃ第二次王子、わたしはカロルとのお茶の約束がありますので」

「素直に忍んでくると言っても俺は怒らんぞ」

「承知しております」


そう言うとシューランデルス王子はカロルとお茶をしにいく、その後忍んでカロルとサラリーとでカデリアの家の掃除に出かける予定だ。おそらくカデリアの側にいるだろうシャルファーサ王女をシューランデルス王子は思ってならない。


テマルの国が探して見つからなかったのだ。自分が探しても見つかるまい。戻ってきてくれることだけを願い、ただひたすら待つ毎日だった。シューランデルス王子はもうすぐ18歳になろうとしていた。


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