山の薬師の確認(スノーの存在)

むかしむかしそれは異世界でのお話。

王子の名はシューランデルス。これは王子と王子を取り巻くものたちの物語




「はあっ?久しぶりにお茶に誘われたと思ったら一緒に山に登れ?しかも雪山だぞそれって。どうするんだよ身支度。そんな仕事断っちまえ」


「そうもいかないのよ。表向きは運び屋シャーに薬一式を届けて欲しいつてことなんだけど、その実はそこに居る人の安否確認と薬品の調合の依頼なの。兄が急病にかかっちゃって一刻を争うのよ。ついてきてお願い」


「まず待って、急病ってなにさ。雪山に登ってまで調合してもらう薬は何?そして安否確認が必要な雪山引きこもりの人物は誰?ぜんぶ秘密で付き合えって言うんじゃないんだろうなぁ」


「私も詳しいことはわかんないんだけど人物はデオナルド、医療大国サガスセスの出身で国を転々として医療活動をしてたけどある日突然山にこもっちゃったみたいでさー。で兄がケルセネデル病とかわからない病気にかかっちゃって死にそうなの。だから一刻を争うのよ」


「まず登山の用意もいるから俺の城へおいで。そこで薬の調合を俺はするからカロルの言うことちゃんと聞いて山登りの準備してて」

「へ?薬、調合できるの?ここで?」


「俺は治癒系魔術の専門だよ。薬の調合はできないけど治す魔法薬なら作れる。蘇生薬もね。ケルセネデル病とは傷口から細菌が入って壊死していく病気だよ。急いだ方がいい。すぐ作るから待ってて。死に掛けてるってことは脳か心臓に菌が回ったんだろう」


約二時間、カロルと衣裳部屋で雪山に登る装備を整える。こんなものまで常備してあるのかとシャーはびっくりするが魔術師王国テルモノは地理的に世界の中央に位置することと小国で頼みやすいのとで最果ての地にある医療大国サガスセスよりも治療の依頼は多い。いつどこから依頼が正式に来るかわからないので何でもある。


シャーは自分にぴったしのサイズの防寒服とコートを見つけると喜んで着てみようとする。カロルがいるのに後ろ向けとも言わない。カロルが遠慮して後ろを向く。

「仮にも姫様でしょうが男の前でいきなり着替えないでください」


「襲ってきたら股間くらい蹴るわよ。見て減るもんじゃなし体系には自信は無いしいいんじゃない?王女である前に一人の人間だわ」

「それを言うなら一人の人間の前にすでに成熟した女性だと認識してくれ」


「ふむ、成熟しているかしら?ここ二年間身長も伸びないわ。胸もなければ尻も無い腰のくびれだけは見事だけど」

「だから、想像させるな。振り向きたくなるだろーが、サラリーを奪ったのがお前と同じ歳た完全じゃないかもしれないが成熟してた。二年成長が止まってるならそれがすでに大人の体なんだろう。


胸や尻は動くのに邪魔になる13歳から外をはねまわってたんだ。自然とそういう体型に作りあがったのさ。見るものがみれば引き締まった体はなによりも美しいとかんじるものもいるだろう。子供のつもりでいるなよな。特に王子の前では頼むぞ過敏な年齢なんだから。まだ女も知らないし」


「嘘でしょう?行くとこ連れていってやんなさいよ。女を知らない年齢じゃもうないわよ」

「誘うけど嫌がるんだよ。王子は案外ロマンチストの潔癖症でな」


「いいわよ、振り向いて着替え終わったから。これ頂戴ね。私の国には冬装備なんて置いてないもの。冒険者の店でそろえなきゃと思って出費に悩んでたのよ」


「それは構わないけど、それはいったん置いて早馬貸すから薬を急いで持っていってあげてくれる。こっちが病気の3本ある1日1本飲ませて治らなきゃお手上げで、こっちのは蘇生薬、多少寿命は縮まるけど今死なれちゃ困るだろう


「相変わらず仕事が速いな。サラリーも手伝ったのか?」

「そうじゃなきゃ、この早さでは作れないね。彼女はある程度基礎工程薬をストックしているので助かるよ」


「ごめん、マジ早馬貸して。急ぐから、馬殺しちゃうかもだけど…」

「緊急時だ仕方ないね。途中で早馬は配置してないし」

それじゃ一週間後に例の店で待ってるよ」



一週間後



「ごめん待たせた?道具も運んでくれたんだ」

「その格好で何度も城を出入りするのはさすがにまずいからさ。それでどう?」

「1本で効果てき面だったけど。念のために3本飲ました。蘇生薬は貰っとくって、ごめんね普通なら代価を払わなきゃいけないのに。父上もずうずうしいというか」


「大国の王様だ。どんな事情があれ頭を下げるわけにはいかないのさ。貢物として登録はしていると思うよ。こっちの国の名前をあげたならね」

「そりゃもう王様にお礼を書くように進言しといたけど王様は知らないのよね」


「俺が勝手に動くのはいつものことだ。王も慣れているよ。察するだろうさ」

「サラン、そろそろ行こうぜ夜までにはルビを入力…に着きたいからな」

「寒くなってきたら服を着替えるから言って、温かみのランタンがあるから

たぶんテントの中で着替えれば済むと思うけど」


三人はいつもと違う街道を歩いていく。街道があるうちはいい。こっちはやまが険しく途中から街道がなくなるのだ。そしたら山登りだ。今日は街道が無くなるまで歩いてキャンプを張るつもりだった。途中から雪がちらほら降ってくる。


「なんで、もう雪なの。ってかこんなに近くに雪山があるのは何故なのよ」

「知らないのかい?」

「知らないわよ、問題ある?ここらは年中穏やかな天候じゃないの?」


「昔ね、スノーって魔女が居たんだ。その魔女は一人の人を愛して結婚して一人の子供を産んでね。スプリングと名づけて二人で大事に育ててたんだけど。男がねライラックという女の人を愛してしまいスノーを今の雪山まで連れて行き縛り捨ててきてしまったんだ。


スノーは魔女で簡単には死ねないから山を凍える雪で覆い。街さえも雪国に変えてしまおうと命のありったけを使った。魔女の血を引くスプリングはまだ幼かったけど母親の力を食い止めようと常春の魔法で対抗した。山は雪山のまま残ったけど。スプリングは命をかけて街だけは守り通したんだ。


だからここら辺の街は常に暖かく熱くもならず寒くもならない彼女が守った街は古代王国ガチニアだからね。その広さは広大なものでここら辺の国全てを覆う魔法だよ。スノーは山を雪山に変え凍え死んでいった」


「それって一番悪いのは父親じゃない。父親と惚れた女はどうなったのよ?」

「スプリングには自分の命だけでは国を守る力には足りなかった。だから母親を裏切った二人を生贄にしたんだよ。二人を街の人たちが縛り上げ娘の前に差し出した。


スプリングはそれを確認して生命転化の魔法を使った。ガチニアの街の中心、テマルからもテルモノからも歩いていけるところに世界樹が茂っているね。三人はその下に眠っている。スノーは縛られたまま氷付けになり今でもその美しさを見ることができるというよ。彼女の力は止まらず娘が守れなかった都市以外に伸びていった。


だから辺境の街に行くほど寒くなるのさ。彼女は凍りつきなお、魔力は衰えていない。死してものろいの呪縛は続いているわけだ。でも誰も彼女の呪いを解こうとはしないんだよ。スノー…雪には雪の恵みがあるからね。辺境の地は彼女を受け入れたんだ。悲しい人として雪の女神とされているよ。それがその山には居る」


「そして1つ目の世界樹といわれる木の周りはライラックの花園なわけね」

「それは知ってるんだ?」

「10歳の時に7つの世界樹を見て周るんだとだだをこねた。願いはかなわなかったけど1番目の世界樹だけは兄が連れて行ってくれたわ」


「はは、シャーらしい。暖かき光のランタンを持ってくれるかい。そろそろモンスターや獣の出る領域に入ったからね」

「モンスターって見たことない」

「俺もだよ」


「見ないに越したことはないさ、こっちは王家を二人も守らなきゃいけないんだ。本当なら一個中隊連れてきたかった所だ。お忍びはねっかえり共が」

「はは、すまん。ちゃんと俺も戦うからさ」


「それは敵によります。戦闘だけは俺の指示に従ってくれ」

「わかってるよ。いつも迷惑かけて悪いなとは思ってる」

「俺はサランに命をかけることはなんとも思ってないさ。ただ、始終シャーのお嬢さんにひっかきまわされるのだけは勘弁して欲しいんだ。利用されてるぞ」


「ひどいな、手に負えない仕事を手伝ってもらってるだけで利用なんてしてないはよ。純粋にお友達として頼ってるの。報酬もカロルがいること知ってから2/3はそっちに渡しているじゃない。今回は王家直属の御用達料金よ」



「カロル、シャー黙って無数の気配がする」

3人で緊張していると一匹のどでかい蟻がでてくる。

「蟻?」


「もっと下がって群れで行動する触れるなよ殺気も立てるな戦闘になると厄介だからな。ジャイアントアント、モンスターの弱い部類に入るけど厄介なんだ」

「ねぇ、蟻が運んでるの人間じゃない?」


「ほっとけもう死んでる。自分も餌になりたくなかったら大人しくしてろ」

「カロルってさサランのお付の割には冷たいよね。サランなら葬ってあげようとかいいそうなのにさ。平気で切り捨てるものは切り捨てる」


「そこらへんはよく覚えとけ、俺は戦士だ騎士でもあるがどちらかというと戦士なんだ。シャーも大国のお嬢様じゃなきゃなんど見捨てておこうかと思うことも一度や二度じゃない少しはそろそろ自分の立場で自粛もしろ」


「それに戦闘に置いては俺の師匠にもあたる人だよ。身分と立場はあっても俺はカロルに戦闘のことで逆らったりはしない。それが生き延びる一番の方法だと認識できているからね」


「ねー、カロルは100人猛者と言われている戦士なんでしょう蟻、倒せないの?」

「お前達二人がいなきゃ倒せるよ。魔法の結界に入ってくれてればな、だけど蟻は戦わなくて済むが雪男でもでてみろ、こっちも本気で戦わなきゃならない」


「…国王ったら娘を殺すつもりで任務を与えたのかしら?」

「読まれてるんだろう。お前なら俺たちに泣き付くと利用してるのは国王さ」

「まっ、そういうことだろうな。これで最後の一匹だと思うぞ。歩くぞ」


雪が少しずつ深くなっていく。くる時に履いたブーツは最初は汗をかいたが、こうなるとその厚みがありがたくなっていく。だが最初から全装備雪山用ではない。長袖こそ着て途中で上着を着たものの軽装だ。シャーはランタンを持たされた意味を知った。どんどん寒くなっていってるのだ。ランタンのおかげで寒くない。


「二人とも大丈夫?寒くない?もっと固まって歩こうか?」

「そうだな。少し吹雪いてきたし、暗くもなってきたシャー前を歩いてくれ」

「前じゃ寒くない?」


「鍛えてる体には寒さはまだ耐えられる。一番心配なのはシャーが消えること」

「そういうことだ。雪が積もってくると何が起きるかわからないからな。視界に入る位置で歩いてくれ」


そんなことを言って歩いていると突然視界が悪くなる。

「シャー気をつけ…シャー!!」

急いでカロルが飛び込むシャーを抱えて二、三度ごろごろ回転するが立ち上がりそのまま滑り降りていく。周りを確認してからカロルが大声を上げた。


「サラン!!そこから滑り降りれるか?下まで来て欲しい!!」

サランは滑る?わざわざそんなことしなくともと浮遊の術をかけゆっくり降りていった。それを見て改めて魔法が使えたことを思い出すカロル。


「あーそうだな。滑り降りるにはちょっと急すぎだな。賢いよサラン」

「転げ落ちた人間を拾って立ち上がって滑って見せたカロルに言われてもなぁ」

「ごめんなさい。私の不注意で。ランタンだけは壊すまいと抱えたけど」


「魔法で強化した硝子だからそう簡単には壊れないよ。それにここが目的地」

「へ?」

視覚拡大の魔法を使う。三人の目には街道がくっきりと切り落とされているのが見えた。作りかけのタイルが微妙にはみ出している。


「あぶないわねぇ下までの階段くらいつくりなさいよ」

「街道を当時作ってたのはもっとも栄えてた頃の大国テマルだよ。それでも必要ない所に街道を作る予算は用意してなかったのさ。だれもここまで歩くなんてね」


「うひゃー、うちの仕事だったのぉ。今じゃ考えられないわ。他国からの貢物で生きてるような国よ」

「街道のおかげで他国も交流が深まり栄えた。今の貢物もその習慣のせいさ」


「さぁテント張るぞここらの土が手ごろな固さだ」

「見てていい?」

「そうだね、女の子の手にまめはつけられないね。見てていいよ」


金槌で打ち付けているのを見てシャーは素直な感想を言う。

「もっと土の柔らかいとこないの?金槌でうちつけて取るときも大変だろうに」

「あんまり柔らかいところに立てると風で飛ばされたり雨に流される」


「ふーん。難しいのね。魔法で立てるテントがあればいいのに」

「その実魔法のテントは存在するよ。ただ技術大国ジャーラで作られたテントに敵うものはない。立てるのにも片付けるのにも一手間いるけど頑丈で住み易い」


「ふーん。良い所は取り入れて魔法を売りに出す。そうやって豊かな国テルモノは存在するわけだ」

「テルモノの宝は魔術師たちさ。その力に忌み嫌われ恐れられていた人たちを一手に引き受けた。怪しい力だけどどんな力も使い方さえ間違わなければ至宝となる」


「そして今じゃ魔法は存在しなければ成り立たないほど世界は魔法を受け入れてるがその99%がテルモノから離れない。テルモノは魔術師たちの為に最高の畑を作り、最高の鉱山を探し、最高の水を維持している水の維持は最高に難しいんだぜ」


「あーそれでテルモノの水は美味しくって有料なわけだ。資源は無限じゃないものね。管理ってどんなことしてるの?」

「んー湧き水の調査、水路の掃除、汚れた水のろ過、上下水道の完備かな」


「上下水道は完備している国が多いわよね。その仕組みがテルモノからきているのも有名な話だわ。残念ながらテマルには水路はあるけど上下水道はないのよね。上流から飲み水を汲んで中流で洗濯し下流にトイレがいくつも作られている」


「まぁ確かに上下水道を完備するには大きすぎる国だな。でもそうすると7つの城壁のそれぞれの水路はどう完備されているんだ?」

「7本の水路が完備されてるのよ。正確には東西南北に1つだから28本の水路ね」


「さて、テントに入れるよ。入ってから話そう」

「いや、大方話は終わったんじゃないか?」

「じゃあ、そうそうに寝ようか。明日早くから動きたいし」


………

「あのさー、この寝袋ってやつ、狭いし身動き取れないし拘束されてるようで寝にくくない?」

「俺もそう思ってたところだけど普段が大きなベッドに寝すぎてるんだよ」


「そりゃ城じゃ大人が五人ほど寝れるベッドでねてますがシャーは基本雑魚寝」

「そう言えばそうだったね。冒険者の宿のベッドも狭いし慣れかな」

「慣れだよ。体に綿を密着させて暖をとってるんだ。動けないのは仕方ない」


………

「あのさー、思うんだけど…」

「だーっ、いいから黙れ。雪山登山志願したのは自分だろうが黙ってねろ!」

「志願したわけじゃないんだけど…解ったわよ…」


三人はやっと静かになってねる。雪山は体力勝負だ。眠りについた二人を確認してカロルはため息ついた。自分も経験が少ない。果たして二人の王子、王女を導けるだろうか?こんなことならサラリーにだけでも手伝ってもらうべきだったかもと思いつつ自分も眠りにつくカロルだった。


次の日は朝から冬装備でランタンもしまう。一週間はつき続けるランタンだが消えると同じ時間休ませなくてはならない。24時間以上つけ続けてたから次につけれるにはしばらくかかるだろう。それに雪山装備になったので寒いが我慢できないほどじゃない。3人は腰を縄で縛り繋がって歩いていった。


昼を過ぎると道といえるほどのものではないが歩けた場所も無くなる。

「シャーその目的の人はじーさんになってるんだろう。どこら辺で暮らしてるか聞いてないか。なんでもいいヒントが欲しい」

「天辺近くの小屋でひっそりと暮らしてもっとも吹雪の強いあたりにいるって」


「なんだよそれ最悪じゃないか」

「魅せられたのかな?吹雪の強いあたりはイコール魔女の凍り付いてる場所だ」

「あ、篭って悟りをひらくつもりが逆に魅せられそこで暮らしてるのか。それなら一度も降りてこないのもわかる気がする」


「どちらにしろ地理的に薬をまだ調合する材料と能力を持ってても運ぶのは至難の業だったということだね。魔力の一番強いあたりを探るよ」

「頼む。登り間違いは命取りだ」


2時間ほど歩いて来た道を戻る。

「ここら辺からがいいと思うここから北北東に強い魔力を感じる。道というか登り加減も出来上がってそうだし」


「できあがってる?」

「さっき歩いて通り過ぎた時見つけたんだハーケンをさ。こっち」

三人とも繋がっているので一人歩き出すと皆歩かなくてはならない。


歩いて滑りそうな細い道をたどるとたしかにハーケン…くさびが打たれている。

「今日はここでテントを張って休もう。体力をつけておけ。登りつくまで二、三日は眠れないかもしれないぞ」


「こんな所へ平気で送りだすなんて父様は私の事本当に道具にしか思ってない…」

「シャー、国王も状況を知らなかったかもしれないじゃないか」

「あの賢王として名高い父様がスノーのこと知らなかったなんて思えない。第一兄様は助かったのよ。今更他国の賢者の安否確認が危険を冒してまで必要?」



「全く俺も同意見だな。女のしかも娘にさせることじゃない。国兵で経験者を募り出陣させるべき事態だよ。必要ならな」

「とにかくテントを張ろう。綱を解くよ。シャー今の位置から動いちゃ駄目ね」


テントを張り終わると三人ではいる。少し重々しい空気の中

「ともかく寝ろ。シャー気にするな。絶対連れて行くから」

「うん。おやすみなさい」


次の日からは崖登りだった。最初は器用にシャーも登っていたが半日もすると足を滑らせることが多くなり何度となく下から登ってくるサランに腰を捕まえられる。

「ごめん、サラン…何度も何度も片腕痛くなっちゃうよね…」


シャーは崖に捕まりながら泣き出した。

「悔しい。こんな足手まとい。居ない方がましなのに助けられてばっかで…」

「いい加減にしろ!!休む暇も泣く暇も喋る暇もねぇ。とにかく登るんだ!!」


びくんとするシャー。背中をさすりながらカロルに向ってサランが言う。

「厳しい状況なのはわかってる。でも怒鳴ることはないだろう」


「わかってないよサロン。こっからさきもっと吹雪くし足場は悪くなる一時もじっとしてればすぐ足場をすくわれる。シャーが確認しなきゃいけない以上置いてはいけないし、もう置いていけれない場所まで登ってる滑るのは体力の低下だ。これからもっと滑りやすくなるし人にも迷惑かける。落ちる度に俺にも体重がかかるし、サロンは受け止めなきゃならないんだ悔しくて泣いてるなら力に変えて欲しい」


「ごめん。そうだよね。これからきびしくなっても楽になることはないんだ。頑張ってのぼらないと二人とも道連れに落ちちゃうんだよね。頑張る」

「何度でも拾うから落ち着いて怖がらないで。さぁ登ろう」


シャーが手袋をはずす。腰にしまい崖に手をかけるひたすら冷たい。

「馬鹿、手袋なんかはずすな。俺たち男の手がかかるんだ手袋ありでいける!」

「どうせ手の感覚が無くなって来てる。少しでも引っかかりやすくしたいの!」


しばらくはそのまま黙って登っていった。たながある。カロルが言う。

「たながある休める場所があるかもしれない二人はここで休んでてくれ」

休むと言っても立って一人がいられるていどのたなが続いてる場所だ。


「シャー、手を貸して、凍傷になりかけている。魔法かけるから」

そういうと温かみの魔法と傷を治す魔法をかける。

「手袋して。無理はしちゃ駄目だよ」

「でも、こんなとこ無理でもしなきゃ登れないじゃない」


サロンがシャーを抱きしめる。びっくりして口をパクパクするシャー

「君は充分頑張っている。甘えられる人間には甘えていいんだよ。俺らは味方だ」

「こんなことしてたら落ちかねないって、離してサロン危険だよ」


あっさりサロンは離しながらそれでも髪の毛を触っている。お互いが不思議と落ち着く。シャーもサロンの髪を触る。二人で笑う。

「不思議だね。人に触れるってとっても落ち着く」


「それは誰を触っても落ち着くわけじゃないと思うがな」

そう言いながらカロルは命綱をつけ直す。そして二人の頭をぽんぽん叩いて

「もしかしたら目的地に着いたかもしれない。どえらい美女が凍り付いてるぜ」


三人は慎重にその凍り付いている人がいる洞穴を目指す。たどり着いた先には凍りついた魔女とそれを拝んだ凍りついた初老の男性がいる。

「この人だわ!ちょっと歳をとってるけどほらこの人よね?」


そう言うとポケットから似顔絵をだす。絵描きが若い頃をみて現在の姿を予測した似顔絵を描いたものだがそっくりだった。

「間違いないな。厳しい環境と寒さが老化を早めたんだろう」


「老人の件はそれで終わったとして俺はすごくよくない予感がしているよ。この女性成長したカナルナニシティア王女が成長したら瓜二つのような気がしない?」

「言われて見ればあの王女が大人になったらこんな感じだろうな」


「話では子孫が残ってるって話は聞かなかったけど幼い少女が生贄まで用意して母親と対峙したというのも無理があったと思うんだ。幼子は里親に出されて姉がもう一人居てその人が母親と対峙していたとしたら血筋は残っていることになる」


「でも、伝説だぜ。そうそう真実がねじ曲げられるか?まぁ真実も闇の中だが」

「魔女の子を守ろうとするものが居れば真実はねじ曲げられてもおかしくないよ。それに…伝説というよりおとぎ話だろう。真実はあやふやなもんさ」



「それで何故いやな予感がするわけ?」

「もしも血筋を受け継いでたら彼女には魔力がある。魔術師の子は魔術師として育てられる最大の理由さ。魔力は暴走する。平安な生活では成りを潜めてるけど感情がたかぶるようなことがあればね。そしてうちの二番目の兄様は無類の女好きだ」


「なにそれ、カナルナニシティア王女がスノーと同じことをすると言う訳?まだ16歳よ。この人はどう見ても40歳ちかいわ。同じ顔になるかなんてわからない。他人の空似もいいところだわ。余計な心配しすぎもいいところよ」


「確かにそれもそうだな北国の女は皆白いと聞く。この凍った姿じゃ瞳の色も確認できないし、何よりうちが魔術師王国だ。何かあっても対処方法なんていくらでもある。ましてや魔術を知らない魔力の暴走など宮廷任務の魔術師で納めれるさ」


「そうだな、王族にはあまり大きな問題を起こさないようにと意味がつけにくいややこしい名前がつけられるのだし、見合いで16歳で嫁いで来たんだ覚悟もあるだろうしな。全く噂も知らない箱入り娘ってこともないだろうし…」


「でだ。シャーよ。これをみつけて見てきたってどうやって証明するんだ」

「ふふ、技術大国ジャーラでも難度が難しく出回ってない品、カメラよ!使いにくいけどね。フィルム1枚しか入らないのに現像とかいうものをするまで光に当てられないのよ。撮れてるかどうかも確認できない」


「んじゃ。小指でも念のために切り落としていくか。死んでる証明にはなるだろ」

「カロル、凍った肉体を保存するのは厄介なんだよ溶けると細胞が崩れる」

「保存できないのか?」

「いやカデリアから冷風の入れ物を借りてきた。指くらいははいるけど」


「なんだ。同じこと考えてるんじゃないか。もったいぶらずにだせ」

「まってまって切る前に写真撮らせてよね血に染まってる写真なんていやよ」

「血まで凍ってるからその心配はいらないよ。でも撮るのがさきだろうな」


シャーがパシャリと一枚できるだけ顔を見えるようにして撮る。

「本当にこんなんで撮れてるのかなぁ…心配」

「使ったことないの?」


「こーゆー変わったものを欲しがるのは父様よ。大価を払って買ったのよ。使えなきゃ困るけど父様は時々使ってたから大丈夫だと思う」

「同じ投影でもこっちはいらないか」


「あー、伝言水晶。声がなくても画像残せるよね。貸してこの姿念のためスノーと一緒にとっときたいから」

「ほい」


「きゃー、放らないでよ。落としたらどうするの」

「魔法の水晶は落としたぐらいじゃ割れないよ」

「ふーん。水晶よ相手の伝えたい言葉と映像を残せ」


シャーは後ろからスノーを拝む男を撮り、スノーに近づき最後に男の顔を撮る。そして冷風の入れ物に指を入れると、三つともシャーのリュックに詰め込んだ。

「さて、問題は帰りよね帰りのほうが難しいよね」


「降りるのは俺が浮遊の術をかけるよ」

「登るのにはその魔法使えないの?」

「浮遊の術は自重落下でゆっくりと降りることしか出来ない。登るには空中遊泳の術が必要なんだけど…未修得なんだ」


「まぁ治癒系だもんね。他の魔法を知りすぎてるくらいだわね」

「カデリアのばーさんは、そりゃスパルタだったからなぁ。王子相手に必要かと思えるようなもんでも必要性の高いものは叩き込んでた。普通なら不敬罪だな」


「でも、そのおかげで今の俺は結構、便利な生活してるよ。ありがたいことさ」

「あーゆーばーさんを本当の魔女と言うんだろうな。宮廷に仕えるには向かんが」

「ともかく降りない?早く雪の世界からでたいし」


「そうだね。かたまって。命綱は一応そのままにしといてね」

サロンが浮遊の術をかけて時々地面にぶつかっては軽く蹴る。真下に降りるようになっているこの魔法は斜めの斜面を長距離降りる時このような工夫もいる。


降りてきてテントを張るがランプはまだつかない。寝袋をよせてお互いをお互いで温めて寝る。次の朝にはランプは点いた。街道まで来てまたテントを張り、次の朝に街道へ登るようにした。朝まず、ハーケンを打ち込みながら街道をカロルが登る。


上からロープをたらしてシャーの腰へ結びつけシャーをいっきに吊り上げた。登り終わったのを確認してサロンもハーケンを利用して登り始めた。綱は腰に縛ってある。もし落ちてもぶら下がるだけで済むだろう。登ってきたサロンに


「守りがいのない王子様だ。サロンも持ち上げるつもりだったんだがなぁ」

「俺は男だよ重たいし、出来る技術は身につけておきたい。そうしろと言ったろ」

「はいはい。確かに俺が言いました。大人しそうに見えておとなしい訳がないんだよなぁ。出会いからしてカデリアを自力で探し当てたんだから…」


しばらく歩いていくとまだ寒いが雪がやんでいるので着替えることにする。ここから先は暖かくなる一方だ。

「そう言えば雪山には釘が刺してあったのに街道には釘なかったよね?どうやって登ったんだろう?」


「おそらく登りきれなかったのさ。遺体こそみつけなかったがハーケンは途中で打ち込まれるのが止まっていた。そこから落ちたことになる」

「シャーはよく頑張ったね。女の子なのに凄いよ。普段の鍛え方が違うね」


「そんなことないけど…走り回ってるだけだもん」

サロンに頭をぽんぽんされてまんざらでもない様子で笑うシャー。それを見つめるカロルの目もどこか温かい。俺たちはこの頃成熟してしまっていたけど…この二人はやっと階段を登り始めたひよこのようなものだ。二人とも気付いてない。


人通りが多くなってくると今度はブーツを脱ぎ靴に変えた。気温が違うと荷物もひとしおに多い。

「それじゃ私はこっちテマルの方向へ直接行くから。後で水晶球とか返すね」


「それは国王に見せた地点で無理だと思うけどとにかく報告がんばれ」

「俺も直接城に帰って報告するから」

「へっ?サロンの活動まで報告するの?」


「君が姫君のお忍びとして活動して付いていったのに報告無しにはいかないよ。荷物の所在から危険性からカロルを連れ出してるし、こっちにも国交のやりとりがあるんだよ。だから君が持っていったものは全て貢物として渡していいし持ってて」


そうして三人は道を分け歩き出した。役目を無事に終え帰宅する気分は悪いものじゃない。今回は王直属の御用達なのもあり、金貨50枚の収入だったし、貢いだ分を差し引いても利益は出る。カロルもサラリーに新しいロープを買うと喜んでいる。


この時は水晶球が運んでくる災いなど知る由もなかった。


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