013_変なところでレトロなのです
早いもので、エリキセ基地へ連れ込まれてもう四日も経ちました。
その間に正式な着任となった私は、今では晴れて上等兵!
……まあだから何だってレベルの地位ですがね。何もせんで入隊一年も生き残れば自動的に昇進しますし。
今日も今日とてシミュレーター。ちなみにこれ、訓練目的ではなくって実際に機体を動かす時のデータ収集が目的だったみたいです。どうりで乗り込むたびにボタンやレバーの配置が変わるハズです。
その内容もなかなか狂気的で、日替わりの操縦桿にはそれぞれボタンが最大十八個ずつ、フットペダルは片足だけでも七個とか八個とか、加えて天井からスコープとか、他にも何の為なのか分からない装置を起動すると操作環境がガラリと変わります。
次はこう操作して、次はああやって、と次から次へと指示が飛んでくる。一応、初日のような殺人的蒸し暑さだけは改善されましたが、狭くて息苦しいのは相変わらず。
ははは、まるでOSにもなった気分です。
ま、コンピュータ無いんですけどね、この世界!
HAHAHA!
……いえ、失礼しました。コンピュータ、ありますとも!
ていうかシミュレーターにもちゃんと搭載されていましたよ!!
ただし外部からプログラミングが不可能で、記録装置もなし。サイズも特大という極めて原始的な代物ですけど。決して「パソコン」ではありません。
以前に紹介したスペルカートリッジは、内部に魔法の式……詠唱文とでも呼べばいいでしょうか……を封入。そこへ外部から魔力を通し、同じ魔術を同じ威力で連続使用する機構です。バズーカだってカートリッジ自体は再利用してたでしょう?
内部の式を調整し、複数を組み合わせれば様々な用途に活用できます。ガンマシンもまた、「レバーをこう動かすと腕がこう動く」や「こうすると足がこう動く」といった魔法式が無数に集まっているのです。
恐らくですが、真空管に近い用法なのではないでしょうか。
ただし欠点も山のようにあります。
一度封入した式が後から変更不能で、単体コストも決して安くない。
さらにカートリッジが一つ当たり最低でも握り拳サイズで、さらにさらに無数のカートリッジを並列または直列で稼働させるエネルギーを生み出す為に魔導エンジンも巨大化。ガンマシンは最終的には10メートルサイズとなっています。
……今の私の仕事って、ガンマシンの稼働に最適化されたカートリッジの内部式と組み合わせを手作業で見つけていく作業なんですって。
OSになった気分どころか、OSを作る作業だったのでした!
HAHAHAHAHA……はぁ。
もうね、こう……パソコンとかスマホって本当に便利だったなって痛感してます。だって巨大ロボット作ろうって研究者が、パンチカードで吐き出されたデータをまとめているんですよ?
山のような稼働データから要不要を選別し、初めてカートリッジが作られます。実機は仮組みすらまだです。こんなんで戦争に勝てるんでしょうか。
「だぁぁ〜っ! もう、つっかれた〜〜〜………」
シミュレーターを降りた私が、ひんやり冷たい床に寝そべるのも無理なきこと。膨大な仕事量に精魂果てました。
汗で全身ぐっしょり、熱いシャワーが恋しいです。湯船も欲しいですが、先日クタクタで浸かったら寝落ちして死ぬとこでしたから、どうしましょう?
でも、その前に誰か〜♪ 水と甘い物持ってきて〜ん♪
「ヴァリー? 疲れてるのはわかるけど、そこで寝られたらさすがに邪魔だよ」
おや、ユキ中佐。今日も眼鏡が素敵です。
ところで相談なのですが、私を抱えて食堂まで連れて行くがいいです! 今すぐ! さもないとあなたから食べてしまいますよ!
「ヤだよ。ヴァリー、汗臭いもん」
なんですと!? こんな美少女を捕まえて「臭い」とは何事ですか! 汗からだってフルーティな香りがしますとも!!
「自分で美少女とかよく言えるな……否定はしないけどさ」
「でもでも〜? 小さいのに大きいって貴重な個性よねん、中佐?」
あ、ハーメリアまで来ました。その両手には、今の私が欲っする清涼飲料水と果物のサンドイッチがあります!
ハーメリア、例えそれが誰かへの差し入れだとしても、今すぐ私に寄越すがいいです!
「慌てなくてもあなたのよ。慌てるナントカは貰いが少ないわよ?」
ふふふ、見くびらないでください。私は以前、そのナントカだったのですよ! リアル戦災孤児ですからね、私!
そんなのどうでもいいので、まずは水をください。
「はいはい。だから、慌てないの。まったく」
食べたくても食べられないのって辛いんですよ? では、いただきまガツガツガツガツ!!
「……そのハングリー精神は評価するべきかもしれないね……」
「いえ、中佐。この子の場合、単純に卑しいだけなんじゃないかと思いますわん」
うっさいですね。卑しくて悪いか!!
二人からの生温かい視線にもめげず、私は差し入れを完食するのでした。ごちそうさま!
食事も済み、ひとっ風呂浴びた私は、ハーメリアに誘われて彼女のラボへお邪魔しております。
中佐はあの後すぐ、データの解析を急ぐと言ってさっさと部屋へ篭ってしまいました。
……あの人こそ、ちゃんとシャワー浴びているのでしょうか? 魔族って地肌が土気色っつうか灰色だから、体調が悪くてもガワからじゃ分かりません。倒れられたら一大事なんですから、どなたか管理してあげた方が……。
いや、余計なお世話ですね。今はハーメリアの言う「面白いもの」に期待しましょう。なんでも今朝にようやく完成したんだとか。
おもしろい……全身真っ白な柴犬とかですか?
「なにそれ? 違うったら。どうしてバイオ工学分野のアタシがここにいるのか、VBってば知らないでしょ。その理由を教えたげる♪」
ほうほう。自信まんまんですな。良いぞ、とくと見せよ。
「はい、お嬢様♥ こちらでございま〜っす♪」
……なんだかんだ、こうして彼女とも打ち解けちゃいました。一緒にいる時間が一番多いですからね。これで瞳が金色でなけりゃなぁ。
んで。彼女が得意満面で見せてきたのは、真空パックされた1キロぐらいありそうなブロック肉でした。
ですが、血抜きされたような灰色肉は手に取ってみると驚くほど軽いです。弾力性と伸縮性にも秀でており、引っ張ると餅みたいに伸びるのに力を抜くと元に戻ります。
う〜ん、この形を保っているのが不思議な柔らかさ、私のおっぱいに通じるものがありますね!
「何でしょう、これ?」
「人工筋肉よ。ガンマシンに使うの。アタシ、これの完成と培養の為に呼ばれたのよねん♪」
おお! これがSF作品でお馴染みの人工筋肉でしたか! 思っていたより肉っぽいですね。焼いたら普通に食べられそう。
「食べられないわよ? 確かに有機物ではあるのだけど、生物の胃酸じゃ絶対に消化不能だもの。……
いや、構造的に普通の人間ですからね、私もあんたも!
とはいえ、これを分解吸収できる化身がいてもおかしくはありません。
クトゥルフ神話の原点からして、完全に異形かつ異能を振るう恐ろしいニャルラトホテプの化身は枚挙に暇はありません。
黒い翼と燃える三眼を持つ「闇を彷徨うもの」とか、ンカイの森に潜む「月に吼える者」とか、田畑を荒らす「黒い風」とか。
ちなみに私が一番好きな化身は「私」、二番目は機械仕掛けの怪人「チクタクマン」です……けどまさか、ガンマシンから湧いて出てきやしませんよね?
「……VBってさ、本体に関して時々アタシよりも詳しいわよね。マニア?」
マニアってほどではありませんけど、前世の元カレがそういうのドップリ嵌っていたので、影響された感は否めませんね。
ま、この話はもういいです。それより、人工筋肉ってば何に使われるのでしょう?
「これを木製のフレームに敷き詰めて、その上から装甲で覆うのよ。そして筋肉にスペルカートリッジから電気信号を与えて動かすの。二、三日中には必要な分が培養できるから、そしたら仮組みよん♪」
おお! とうとうディートリンデちゃんとご対面できるのですか! 図面でしか見たことなかったから、ワクワクしますね。
予定では全長がゴブリンよりもちょっぴり低い8メートル程度、しかしシルエットは完全な人型になるとか。
「あら? 機体の名前なら正式に『エクスカリバー』に決まったわよん? 聞いていない、VB?」
……え、マジですか? いつのまに……私、そんなダッセー名前の機体に乗るとかイヤなんですけど。
「エクスカリバー、発進!」とか盛り上がりません。せめてもうちっと捻りましょうよ。
「イヤって言っても、VBは完成品には乗らないから関係ないでしょ。だって正規のパイロットじゃないんだから、あなた?」
……………………えあ?
「なんですってぇぇぇぇぇーっ!!!!!!」
ちちちちょっと待ちなさい!! それってつまり……完成したディートリンデの実機には乗れないってことです!?
「だからエクスカリバー……っていうか当たり前じゃない? 機密とか色々関わるんだから、それなりの階級が無いと。連合全体でパイロット募集してるけど、条件に『士官以上』ってなってるわよん」
なななななななななっ!?
「聞いてませんよ、そんなの!!」
「わざわざ言うことじゃなかったからね~。後で中佐とかに確かめ――ぶ、VB?」
じじじじ冗談じゃありません!! これでも完成品を乗り回すの楽しみにしてたんですよ!? でなけりゃこんなハードワークしません!! 労働への正当な報酬を得るべく、いざ行かん!!
「って、どこ行くのVB!?」
そりゃもちろん! 司令官のところですよ!!
手っ取り早く、直談判です!
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