014_どうせ可愛げないですよ
フォーマルハウト連合で、ガンマシンを開発するぞーって最初に言いだしたのは誰でしょう?
正解はこの、エリキセ基地の司令官だそうです。
ユキ中佐でさえ、司令官と比べたら下っ端。なにしろ少将ですからね、司令官!
その司令官を説得し、わざわざ面倒な手続きを介さず正規パイロットにしてもらおうというのが今回の作戦です。
ま、駄目で元々。最悪の場合でも最前線に飛ばされるぐらいで済むでしょう。
「たのもーっ!!」
アポイントメントは無いけど来ました!
ノックもせずにドアを蹴り破ります。就活生の皆さんは、きちんとノックして「どうぞ」と言われてから入室しましょうね。
「……って、あれ?」
しかし、勢い勇んでやってきたというのにです。正面のデッカい机に座っていたのは、どっかで見た覚えのある青年でした。
「あれ、どうしてクソ王子がそんなとこ座ってるんです?」
「ケンカ売りに来たのか、お前?」
そう、クオレ王子です。外見だけはハンサムで気品のある顔立ちをしている、エリキセの王子様でした。
聞いた話じゃ三人兄弟の末っ子ですけど、長男はボンクラ、次男は失踪したとかで次期王位が舞い込んできたラッキーボウイだとか。
あ、ちなみにドギツイ眼鏡美人である副官、ニーナさんもいました。
……これはまさか。
「……司令官殿?」
「おう。なんだよ、突然」
マジですか。司令官ってこれかよ、おい。
年齢は十七歳って話しですけど、少将としても司令官としても若すぎる気がします。専制君主制国家の蛮族――じゃなかった、王族って特別な教育でも受けとるんでしょうかね。
「なんだ、気合入れてきたのに損した気分ですよ」
「何を言っているかわからんが、馬鹿にされているのは確かみたいだな。よろしい、手ずから銃殺してやろう」
おっと、クオレ王子ってば袖机から45口径(多分)の大型拳銃を持ち出してきました。安全装置まで外してます。
わお! もしかして私ってばピンチです? しかしご安心を! まだ一発ぐらいなら避けられそうな距離ですから!!
「王子、お止めください。部屋の掃除するの私なんですよ?」
あんまり嬉しくない理由でニーナさんが仲裁に入ってくれましたが、彼女から私に向いた視線は絶対零度の厳しさでした。
「それもそうだな。脳漿の汚れとか落ちにくそうだし」
「大丈夫っすよ、血も脳もタンパク質汚れなんで、アルカリ性水溶液でなら意外と簡単に落とせます」
「……そうか」
あら。せっかくのワンポイントアドバイスなのに、ドン引きされてしまいました。
「……んで? 一体オレに何の用だ、VB?」
さて。司令官殿もそう言ってくれたので、私も本題に入りましょう。
ダークゴールド髪に褐色肌、小さい身長に合わせた軍服の胸元がパツンパツンではち切れそうな美少女の魅力を存分に発揮するべく、さっそく机に飛び乗ります!
「司令。完成したガンマシン一号機のパイロット、私にやらせてください!」
さりげなく胸の谷間を強調するように二の腕で挟み、さあ! 私の色香に狂うがいいです。
「ダメ」
が、残念ながらクオレ王子には通用しません。視線すら動かさずに突っぱねられました。
なんでじゃ!?
「残念ですが、バニー上等兵。その男は低身長かつ平たい胸、かつ十二歳以下の女性にしか興味を示しません。色仕掛けは通用しないものと思ってください」
「ロリコンですか!?」
「悪質なデマを吹き込むんじゃねえよ、ニーナ!!」
頭から湯気を立てた王子は、ニーナさんにマジギレしているようでした。ここまで否定するとは、逆に怪しいですね。
しかし私ってば顔良し! スタイル良し! で身長足りないけど絶世の美女と呼んで差し支えないですよね? それにここまで接近されて微動だにしないとか、ロリコンではないけど不能とか、もしくはホモだったりするんじゃないでしょうか?
「いけしゃあしゃあとよくぞ言ったぞ、VB。……まあお前のツラが良いのは認めるけど、性格知ってたらマトモな男は絶対に近寄らねえぞ」
「そりゃそうでしょうけど、それでも目の前にこんな美味しそうな肉があったらこう……ないんですか!?」
「だからな、自分でそういうこと言っちまうからダメなんだよ。中身のアレ具合が外見の長所を殺しきってる」
がふ……っ! お、おのれクオレ王子!! その言葉は私の心に確かな傷を残しましたよ!!
「まあ、その強烈すぎる個性がお前の魅力なのかもしれないけどな」
じゃかあしい。落として上げて好感度稼ごうったってそうはいきません。私、そんなチョロイ
「どうでもいいですが……この区画は下士官以下は入室禁止です。用が済みましたら、ご退出願えますか、バニー二等兵」
あら、ニーナさんからまた睨まれてしまいました。
仕方ない、今日のところは引き上げますか。ま、一発で話が通るとは思っていません。今後の努力に期待ですかね。
「あ、戻ってきた。おかえり、VB」
ハーメリアのラボへ戻ると、ユキ中佐も一緒になってくつろいでいました。リクライニングチェアで二人揃ってデロ〜っとしてます。
中佐、解析作業はよろしいんですか?
「終わったよ」
「早くない?」
「君の出すデータは分かりやすいんだよ。というか、今までのテスト要員が誰もちゃんとしたデータを取れなかった、って方が正しいかもしれない」
そんな大袈裟な。確かに複雑ですけど、そんな誰もまともに動かせないだなんてことがあるんでしょうか。
……などと半信半疑に言うものの、私が来るまで本当にロクなデータが揃わず、いつまで経ってもカートリッジに封入する術式が作れなかったのは事実なんだとか。
「VBって特別な何かを持ってるのかもねん♪」
イタズラっぽく笑うハーメリアの言動に、中佐もうんうんと頷きます。
確かに私は特別っつうか特殊ですけど、それはハーメリアも同じでしょう。それに私、本当に他人にはないような特殊能力なんて持っていません。
頭が良くて、手先が器用で、見目麗しい。私ってば本当にそれだけの女です。えっへん!
「……こういうこと、自分で言っちゃうのも特別っちゃあ特別かもね」
「中佐、この場合は『変』って言っちゃっていいのよ」
あはは! それもよく言われます。
「あ、忘れてた。VB、明日にはレミントン号が入港するって。あなた、聞いてる?」
「誰ですって?」
「いや、人じゃないって。あなたがこの間までいた
なんと! そういやそんな名前でしたね。思い入れもないからすっかり忘れていました!
けど、これでようやく部屋に置きっぱなしの私物を回収できます。早速部屋に戻って荷物置く場所を作らないと!
「慌てなくっても到着は明日のお昼よ」
「なんですって? そんな先の話を今しないでください。明日の話なら明日で十分じゃないですか」
「刹那的すぎない?」
いや、さすがに冗談ですよ?
それに内心、荷物の回収だけが楽しみではないのです。小隊長とかベテランさん……はどっか行くようなこと言ってたからいないかもしれませんが、知り合いだっていますからね。
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