PART1_基本的に波乱しかありません
010_鬼です、悪魔です、スパルタです!
「よーし! 今日はこれで終わりだ! また明日頼むぞ!」
こんにちわ。エリキセの連合軍基地へ到着し、その足でガンマシンのラボへ連れて行かれました。そしてロクな説明も無いままにシミュレーター(どっかの
これが棺桶みたいに狭いわ、蒸し暑いわ、騒音が耳元でがなり立てるわで、新手の拷問器具のようなのです。
ガンマシンの操縦訓練用だか何だか知らんけど、こんなもんに八時間近く詰め込まれた私……もうすぐ真夜中ですよ。
そもそもが荒削りなマシンなので煩雑過ぎる操作性に加え、重力加速とか走行時の振動とかリアル過ぎてゲロ吐くレベル。精神的にも肉体的にもボロボロにされました。
病み上がりなんですが、私? 内臓痛ぇ。
「すごいよ、ヴァリー! 君は期待以上だフギャ!?」
満面の笑顔で私に抱きつこうとしたメガネ中佐に、私が味わった苦しみの万分の一でも与えるべく、眉間のサードアイに目潰しをお見舞いします。
第二関節で曲げた指で相手の眼球を強打。眼球って意外と硬いので、指先で突くと突き指する危険があります。ですがこのように眼球をピンポイントで殴ると、確実に視力を奪った上でこっちのダメージも防げるのです。
「いきなり何すんだよ!! 上官への暴行は重罪だぞ!!」
メガネ中佐ってば、額を押さえながら両眼からもボタボタ涙が溢れています。
痛いですか? けど、私はその何倍も苦しんだのです!
「黙らっしゃい!! 狭い上にクソ暑い場所に押し込めやがって!! 蒸し焼きにする気ですか、コラ!!」
「暑いのは仕方ないんだよ! 構造的に排熱機関が貧弱なんだ! そのうち調節するから――」
「今しろ!! 徹夜で! 早急に!! でねえと明日の朝にはてめえを電子レンジに詰めて蒸し焼きにしてやりますよ!!」
「あんだと! ボクの頭脳を失ったら連合どころかこの惑星の大いなる損失だぞ!! 大人しく科学の礎となれ!!」
そのまま取っ組み合いの喧嘩に発展……させようかと思った矢先、突然首根っこを掴まれてひょいっと持ち上げられてしまいます。
「ふにゃ!?」
思わず変な声を上げた私の顔のすぐ側に、ゲンナリした表情のライオンヘッドがありました。
どうやら私とメガネ中佐ってば、全身毛むくじゃらで筋骨隆々なライオン頭のおじさまに、仔猫さながらに摘まれてしまったようです。
この人は整備科所属のイーバさん。バステト族のマッチョマンです。
バステト族とは、獣人の中でも猫っぽい顔をした人達のこと。山猫、ライオン、虎、ヒョウなどなど、猫科の獣人ならもれなく全部バステト族となります。
他にも犬っぽいのがアヌビス族、爬虫類全般人間がヴィブル、両生類系のサハギン、魚類のマーマンなどなど。この基地や今朝までいたクルーザー基地でも、一緒に生活していました。
で、イーバさんはランニングシャツとカーゴパンツがはち切れそうな程の筋肉でもって、小柄な私と中佐を片手で「高い高い」してくれています。
「あははははは!」
「何を喜んでいるのさ!? 子供か!」
「どっちも落ち着いてくださいよ。確かに、調子乗ってやり過ぎた感はありますからね」
イーバさんはどうにか私とメガネ中佐を宥めようとしますが、私の怒りは収まりません。もう二、三十発殴ってどっちが格上かを魂へ刻み込んでやりますよ!
「なんだと!? 言わせておけば、ボクという一兆年に一人の天才に対して! イーバ、手を離せ!! こいつとはこの場で決着をつけてやる!!」
「宇宙誕生から一兆年も経ってませんよ、中佐。バニーもいい加減にしろ。それ以上の悪態は本当に営倉行きだぞ」
「営倉が怖くて軍にいられるかーっ!!」
クックック! 過去に気に入らないというだけで上官を殴り倒して懲罰を受けること何回目だと思ってますか!! 私を止めたけりゃ銃でもガンマシンでも持ってこいってんで――、
「ていっ」
「あふん」
突然、お尻にチクンと小さな痛みが走りました。瞬間、全身から力が抜けて指一本たりとも動かせなくなります。
メガネ中佐も同様らしく、小うるさかったのが一転、白眼を剥いてぐったりしてます。ざまあみろ!
「あ、うあうああ〜」
「あっれ、意識あんの? うへぇ、どーゆー体の構造してんだよ、君ぃ?」
そこへ、ヘラヘラと軽薄な笑い声と一緒に金毛の狼人間が現れます。このアヌビスの女性は確か……ハーメリアさんだっけ? ラボで働く研究員です。
コールガール顔負けのナイスバディな美女……らしいですが、毛深いです。顔も可愛いっちゃ可愛いですけど、まんま狼。ぶっちゃけ好みじゃないです。
民間研究所から出向しているそうで、専攻はバイオ工学だとか。それがどうしてガンマシン開発に関わってるのかは……興味ないんで知りません。
彼女の片手には、銃の形をしてますが明らかに銃っぽくない機器がありました。確かアレって、離れた相手に注射器を飛ばして薬剤を打ち込む……やっぱ銃だアレ。
ていうか中佐のお尻にぶっとい注射器刺さってんだけど!? 私もあんなん打ち込まれてるんすか!? これ以上ヒップが大きくなったらどうする!?
「ん〜? ちゃんと薬は適量入ってるにゃ〜ん? ……おもれー、ちょっと血ぃ取らせてん、ウサギちゃん♪」
ハーメリアの甘い声と、犬のくせに猫っぽいナヨナヨ喋りが鼻につきます。
奴は動けない私のヒップから注射器を抜くと、まるでピアノの鍵盤を叩くソフトタッチで指を這わせました。背筋をぞくぞくと悪寒が這い上がる……こいつっ!?
「んんん〜♪ 大きいだけじゃなくって、張りもある良いオ・シ・リ♥ 可愛い子をたくさん産めそう」
このアマ! 私の尻をタダで触ろうってんすか、おい! 畜生が、金払え!!
「ハーメリア。それ以上の狼藉は麺棒が飛んでくるぞ」
「なんで麺棒? ……ま、がっついても仕方ないか。代わりにユキちゃん持ってこ〜っと♪」
「やめい」
イーバさん、麺棒ならぬ懐中電灯の光を雌犬の目に当てます。
……あ、違う。フラッシュライトだあれ。真夏の太陽より強烈な光で相手の視力を奪う鎮圧用の装備です。エグいことするな、この人。
「うぎゃあっ!? あにすんじゃ、ごらぁーっ!!」
「そりゃこっちのセリフじゃ、雌犬がーっ!!」
「うわあ!? なんでもう動けるんだ!?」
VBちゃん、復活!
すこーし痺れが残っとりますが、まー犬っころ一匹打ちのめすには充分――眩しっ!
「お前も! 少し! 落ち着けっ! どうしてこう、どいつもこいつもアグレッシブなんだ、おい!?」
またしてもイーバさんに止められました。うっとおしいな、こいつ。悪い人ではないんですけど。そんな真面目で息苦しくないんすかね?
いやまあ、言いたいことも分かるっすよ? 前の世界と比べりゃ血の気の多い輩ばっかりっすからね、この世界。私にとっちゃ居心地良いぐらいっすけど、いつもいっつも気を張ってるんじゃ疲れるっつー人もそりゃいますよ。
平和に健やかに暮らしたかろうと、恒常的な戦争の中じゃそうはいかない。例え連合がカダス帝国に勝利しようと、またはその逆だろうと、今度は勝った国で内乱が始まる。それがこの世界の歴史です。
だからまあ……頭のネジなんて外して明日を忘れた方が楽に生きられるんですよ。幸い、家族も友達もいない身っすからね。
「……とにかく、俺は中佐を医務室に放り込んで来る。お前らは休め」
「休めっつったって、どこ行けと?」
相変わらず入院着のまんま(でとってもセクシー)な私です。部屋も荷物も無いんですけど。
「それだったらぁん、アタシの部屋に来る?」
「すっこんどれ、雌犬」
「ひどっ!?」
おっと、うっかり口が滑りました。
「もう、そうツンケンしないでってば〜。アタシ、可愛い女の子は好きだよ? 特に君みたいなふくよかなボインちゃんはさ♥」
「おいおい。こっちにそういう趣味はありませんよ」
やたらナヨナヨ擦り寄って来ますね、こいつ。言っておきますけど、私ってば出世とは無縁仏ですよ? むしろお偉いさんから嫌われるムーブを心掛けてます。
「いやいや。君には光るものがある、っていうか光ってる」
「尖ってるの間違いでしょう?」
「その物怖じしない性格。溢れ出る才能。何よりも――」
そこで雌犬は声を潜め、長い口を私の耳元へ寄せます。そして吐息を吹き掛けるように囁きました。
その瞳は、まるで満月のような金色に輝いていました。
「同じ千の貌のひとつじゃないか。仲良くしましょ、お互いに♪」
「へっ!?」
思わず目を剥いた私に、雌犬はニヤリと口許を歪め、ウインクしてきました。
……う〜ん。これは、気が進みませんが雌犬の部屋へお邪魔する必要があります、ね?
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