008_一応のデブリーフィングなのです
どうやら私ってば、開きっぱなしなハッチの側で銃を撃った為、爆風をモロに喰らって気絶してしまったようなのです。つまり自滅。
ですが弾丸はしっかりとゴブリンに命中し、頭部を破壊。さらに意識を失ったまま戦い続けたのだとか。
敵に機体を奪われたことでビビったヤツらは、尻尾を巻いて逃げ出した……とのことでした。
それから、私ってば丸四日以上も昏睡状態だったそうです。
基地に戻ってから何人もの従軍医によって手厚い治療を受け、一時は危篤にも陥ったとのこと。今も安静にしているよう厳重注意されているぐらいです。
主な原因はスペルカートリッジを生身で稼働させたことと、コンデンサーの代替えを生身で行ったことと、それを二連射したことと、剥き出しのコックピットのすぐ側でガンマシン用の銃を撃って高熱の硝煙を直に浴びたことでした。
ようするに、あの場でやったことのほぼ全てが
「ま、意識が戻ったのならもう安心だな」
お見舞いに来た小隊長がまるっきり他人事なのですが、おそらく作戦成功に加えて、ゴブリンを奪取してきた功績で昇進が決まったから舞い上がっているのでしょう。けどそれって私の活躍のお陰ですよね?
過去にも残骸程度なら回収しているみたいですが、稼働可能な機体を手に入れたのは今回が初めて。相当な快挙なんだとか。
ちなみに正確な戦果は私が奪った一機と、沼に沈んだ一機、そして私が無意識に撃破した(らしい)もう一機の残骸だそうです。小隊長とベテランさんが相手をしていた一機には逃げられています。
考えるほど私の手柄ってばものすごく大きいと思うんですけど。そこんとこどうっすか、小隊長?
「ああ。参謀本部から辞令が来ている。読んでおけ」
渡された封筒を開き、早速開封して目を通します。
ふむふむ。来週から上等兵に二階級特進、さらに別の基地へ異動して新しい任務に就け、とのことでした。
ま、昇進は当然として、新しい任務ですか。どうやら内勤っぽいですけど。
「任務の詳細とかな〜んにも書いていませんねぇ。……小隊長?」
「私も聞いていない……というか、基地から出ていく奴の任務とか知らされるわけがないだろう」
それもそうですね。機密とか色々関わってくるんでしょうし。楽しみなような、そうでもないような?
さて、突然ですがお客さんは彼女だけではありません。私の意識が戻ったと聞きつけて、もう一人駆けつけた人物がいました。
「邪魔するぞ」
いきなり入り口からヌゥッと大きな影が! 何かと思えばベテランさんです。
考えてみれば私がこうなってる切っ掛けなんですから、お見舞いぐらい来て当然ですね!
ですが、小隊長にとって彼の登場は、少々意外な出来事だったようです。
「君も来たのか」
「そりゃ俺のセリフだ。部下の慰問なんてする女だったか、お前?」
「酷いな、おい。私だって血の通った人間だぞ?」
「どうだかな。お前が笑ってるところなんて見たことないぞ」
「むっ」
ベテランさんの返しが癪に障ったのでしょうか。小隊長が手を使って自分の顔を無理やり笑顔……いえ、変顔にしました。
これは……どういうことでしょう。なんだか気安いですが、そこに甘ったるい雰囲気ではないです。
強いて言うなら中学から大学まで同じところに進学した腐れ縁……ってところでしょうか。
「ええい、クソ! 笑うなど性に合わん!」
「それは向き不向きの問題――ああ」
ツッコミの途中で、ベテランさんは何故か私を見ながら「合点が行った」と頷きました。どういう意味ですか? 確かに私も仏頂面とか鉄面皮とか良く言われますけど、心はいつも不敵に笑ってますよ?
ま、どうでもいいです。それよりベテランさん、その手に持った美味しそうな果物の詰め合わせを早く寄越すがいいのです! 缶詰じゃない新鮮なフルーツとか、いつ依頼だと思ってますか!
わがままを言うならメロンがいいんですけど、この世界には無いんですよねぇ。
「慌てなくてもちゃんとやるって。それと、これ」
ベテランさんが、側机にフルーツ入りバスケットと一緒に何かを置きました。
メタルシルバーの十字架……いえ、✕型のアクセサリです。すっごい見覚えがありますが、私の持ち物ではありま……あ、これ!?
「アニーラの!?」
そう。彼女がいつも肌身離さず持っていたペンダントでした。
物自体はそこらで買える既製品ですが、大切な人――恋人的な雰囲気ではありませんでしたが、とにかく贈り物とのことでした。
もちろん、彼女が亡くなった時にも首に掛けていたはず。よく残っていたものです。
「お前が持ってるのが良いと思ってな。拾っといた」
それはどうもご丁寧に。
……眠っている間に戦死者の合同葬儀も終わっており、回収されたアニーラの遺体もとっくに火葬され、基地内の共同墓地で弔われていました。
首から上がキレイに吹き飛んでいたのですから死に目も何もあったもんではありませんが、最期ぐらい見届けたかったです。あの子はこっちの世界で初めての、戦友ではない普通の友達でしたから。
ですので、形見が手元に残ってくれたのは……いや、やっぱり喜べる事象ではないです。これは素直に、彼女の首にずっとあってほしかった。
それでも……それでも少しだけ、心の抉れた部分が和らいだ気がします。
「ありがとうございます……」
「いや……」
「今日一日はベッドを降りるな、だそうですが、墓参りならテキトーに自力で行きますんで。お構いなく」
気に病んでるっぽいベテランさんに、私は平気さ、とアピールしておきます。ダメージが無いわけじゃありませんが……他人に気を遣われるのも嫌いなもんで。
向こうさんもその辺が分かっているようなので、短く「そうか」と返ってきました。
「上官として忠告しておくぞ、VB。失う悲しみは早いうちに慣れておけ。でないと死人に足を引っ張られます」
黙って見ていた小隊長も一言付け足してきました。でも心の痛覚を失くしたら人間としておしまいですよね?
「なので大きなお世話です、小隊長。私は死ぬまで人間でいたいので」
「そうか。……そうだな」
何故だか一人でしんみりしだした小隊長を置いて、ベテランさんが踵を返します。
「もう行くのか?」
「明日の朝には出発なんだ。立て込んでる」
おや、ベテランさんも異動ですか。お達者で〜。
「ああ。お前もな、VB」
ベテランさんは最後までクールに立ち去っていきました。こういうとこ、カッコいいんですよね〜、あの人。
「さて、私ももういくぞ」
「それはそれは。お構いもしませんで」
「ふっ。……ところで」
なんだかわざとらしく話題を変えてきました、小隊長。まだなにか?
「いや、なに。お前にも、友の死を悲しむ情緒があったのだなと思ってな」
「なんすか、いったい?」
さっきは慣れろっつったり、どういう意味ですか、こら!
そもそも私だって、木の股から生まれたわけじゃないのですよ?
「すまん。『おすまし人形』なんて渾名されてるぐらいだからな、もっとクールなヤツと思い込んでいたよ」
失礼な。表情には出にくいタイプだとは認めますけど、笑ったり泣いたりする機能ぐらい持ってますよ。
ていうか、それ言ったら小隊長だって無表情キャラじゃねーですか。
「む……」
指摘された小隊長は、またもや指先で頬を捏ねコネコネします。
それだけでも腹筋に刺さるのに、完成した顔はおっそろしいアルカイックスマイル。
それはもう、私は標的を殺す時は笑顔を心掛けている、とでも言わんばかりに凄味が効いていました。
堪らず大爆笑した私……でしたが、それを小隊長に咎められるまでもなく、貧血で意識を失います。
……そういえば重傷だったの忘れてました。
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